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95.ストライカー系男子

柏木先生の不可解な言動が何故か、ここが重要だと見る。

嫉妬か、怒りか、誤解か……いずれにしても、ロクな理由じゃないだろ。

まずは手がかりを得る為に、サルから情報を……と言いたいところだが、

今回は頼れる存在がもう一人いる。


「おはよう、怜二。職員室で面白いもん見つけたぜ」


『爆走ブルドーザー』の二つ名を持つサッカー部エースストライカーにして、

見た目も中身もイケメンなパーフェクトボーイ、茅原陽司。

早速、いい情報を手に入れてくれたらしい。


「まず先生方に、柏木がどういう人か聞いてみた。

 職員室ではこれみよがしにグチりっぱなしだとよ。旦那の稼ぎが悪いって。

 そりゃまぁ、あんなゴテゴテしたアクセサリーつけてりゃ、

 いくら金があっても足りねぇよ」

「だろうな。それが『面白いもん』?」

「いや。帰り際、他の先生にバレないようにコソッと机漁ったんだけどよ、

 『ムカつく女』っていうノートが見つかった。

 で、チラッと中身見たんだが……古川先輩の名前があった」


……これはまずいな。明確な憎悪を持っていることが判明した。

早めに解決しないとヤバい。


「理由とか書いてなかったか?」

「パラッと見ただけだが、書いてないっぽいな。

 どういう訳かは知らんが、古川先輩は柏木に嫌われてるらしい」

「そんなノートがあるくらいだから、嫌ってるのは古川先輩だけじゃないな。

 少なくない人数、書かれてただろ」

「両手足の指使っても足りないぐらいには。他にもキモいのあったぜ。

 『私のことがだ~い好きな男の子キュン』っていうヤツ。しかもハートマークつき」

「おいマジか」

「こっちもパラッと確認した。……俺の名前、見つけちまったよ」

「……ご愁傷様」


これほど気持ち悪くなったのは、門倉の公約聞いた時以来。

何で? 何でこんな短期間に凄まじい気持ち悪さに2回も襲われるの?


「『私が』じゃなくて『私のことが』っていうのがポイントだな。

 何の自信があるのか知らんが、自分に惚れてると思ってやがる」

「言っとくが、あんな厚化粧のオバハンとか趣味じゃないからな」

「分かってる。で、その2冊が見つかったということは……嫉妬か?」

「だろうな。先輩と透が仲良くしてるとこを見て、勝手にキレたんだろ。

 男子も女子も、見た目いい奴の名前が大半だったし、透も書いてあった。

 体育祭の時、透のセクハラをどうでもいいって言ってたのはそういうことだろ」


とんだ色ボケババアが教師やってやがったとは。

今回の件が無くても、さっさと処分しておくべきだな。


「どうする? 即バラしでもそれなりにダメージにはなるだろうけど、

 どうもうちの学校の教師陣のことを考えると、内密に処理しそうなんだよな。

 これだけだと致命傷にはならんと思う」

「陽司、放課後なんだけど、部活に行く前に時間取れる?」

「不思議なことに、今日は持病の仮病が再発しそうな気がするんだよ」

「OK。それじゃ頼んだ」


俺の紹介を経由すれば、古川先輩も陽司を信頼してくれるはず。

こいつ自身、人当たり良いしね。




放課後。

陽司は昼休みに後輩に事を伝えたらしく、そのまま俺と共に文芸部部室へ。

今日も、中にいたのは古川先輩だけだった。


「失礼します」

「いらっしゃ……藤田くん、その子は……?」

「紹介しますね。こいつは俺の友達で、陽司って言います」

「どうも、茅原陽司です。呼び方は茅原でも、陽司でも、お好きな方で。

 実は初めましてじゃないんですけど、覚えてます?」

「え……? ……あっ、体育祭の時の」


どうやら、覚えていたらしい。

目覚めた後に一番アクティブに動いてたし、記憶には残りやすいか。

地味な俺と比べて相当にイケメンだし。


「えぇ。お体に障りはありませんか?」

「うん。……二人とも、迷惑かけてごめんね」

「それは違いますね。ヒントは2つ。俺も怜二も迷惑だなんて思ってない。

 俺は人から謝られるよりも、感謝されることの方が好き。

 さて、これを踏まえた上で、先輩が言うべき言葉は何ですか?」

「えっと……ありがとう?」

「正解です。賞品は特に無いですが、暫し滞在させてもらいますね」


流石はエースストライカー。華麗な言葉のドリブルで先輩の心にシュートを決めた。

透がいなかったら、普通にオチてたかもな。


「それは、次のコンテストに応募する予定の?」

「うん。藤田くんのアドバイスを参考に、濃い描写を心がけてる」

「怜二、聞いてねぇぞ」

「言ってねぇからな。素人目の感想だし、参考にするほどのものでも」

「そんなことないよ。……おかげで、これ、もらえたし」


そう言いながら先輩は、机の引き出しを空け、大小2枚の紙を取り出した。

大きい方は、『夏の短編小説コンテスト 奨励賞』と書かれた賞状。

小さい方は、選評が書かれていた。


『生々しいとさえ言える感情描写に圧倒され、物語に飲み込まれた。

 一方、語彙の豊かさが却って仇となり、読みにくくなってしまったのが残念。

 引き込みはよくできているので、没入させ続ける為の言葉選びを大切に、

 更なる精進を重ねて頂きたい』


手放しで褒めているものではない。

しかし、評価された部分もあるとはっきり認識できる。


「初めて、賞と選評を貰えたんだ。……藤田くんの、おかげだよ」


柔らかく、微笑む。

読んだ時に感じたことを正直に、かつ具体的に言ったことが功を奏したらしい。

下手に持ち味を失くすことにならないかと不安になったりもしたが、

いい方に転がってくれたようだ。


「やるじゃん」

「何で俺の方見てんだよ。先輩の努力あってこそだろ」

「その指針になったのは怜二だろ? お前さ、もっと自信持て。

 俺が知る中じゃ、お前は誰より高い人間性持ってんだからよ」

「お前に勝てる気は全くしないんだが」

「ま、俺は自分の実力信じてるからな。

 自信があるのと自信過剰が違うのと同じで、謙虚と卑屈も違うぞ?

 で、これは先輩に対しても言えます。

 この賞は、先輩と怜二の二人で取った賞って考えるべきかと」

「……うん」


最終的に、うまく纏められた。

やっぱり敵わないなぁ、陽司には。

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