9.ハンバーガーと味噌マヨネーズ
「ダブルチーズバーガーセット、ドリンクはオレンジで」
「てり焼きバーガーセット、ドリンク一緒で」
「かしこまりました」
学生の外食といえばファーストフード。ファーストフードといえばハンバーガー。
どこにでもあるから、探すのラク。
ちゃんとしたデートだったら、もうちょっと小洒落た所を選ぶが、
これは決してそういうのではないから、その辺の間違いはしないように……
「あ、いいよ。ボクが払うから」
「いや割り勘にしてくれ。俺が情けないから」
いつの間にか、トレイに千円札2枚。シレっと奢ろうとしたよこの子。
俺が女だったら確実にオチるくらいには自然に。
「今日のお礼のつもりだったんだけど、ごめんね」
「男ってのは面倒なプライド持ってる生き物なんだよ。気にすんな」
「そういうことなら、お言葉に甘えますか」
悪戯っぽく笑い、俺から小銭を受け取る。
一瞬触れた指先がこそばゆい。
「誰かとハンバーガー、食べてみたかったんだよね。
ふつーの学生ってさ、こういうことするでしょ?」
「まぁ、な。メシ食いながら時間つぶすには丁度いいし」
水橋も本来は『普通の女子高生』のはずなんだけどね。
こういったどうでもいいことすら、憧れるくらいに遠い存在なのかもしれない。
小さな口でハンバーガーをかじって、ゆっくりともぐもぐ。
ポテトをつまみ、塩のついた指先を紙ナプキンでふきふき。
紙コップに手を沿え、ストローの中程をつまみながら、飲み物をごくごく。
食ってる物に関しても、ピンキリで噂があった。
専属の料理人がいるっていう、まだ分かる物もあれば、
マカロンから全ての栄養素を摂取できるなんていう、水橋を何だと思ってんだ的な物も。
実際の所は、俺らと同じくハンバーガーとか食う、普通のJKなんだけどね。
「藤田君?」
「ん、どした?」
「ボクの顔に、食べかすでもついてる?」
「いや。ちょっとボーっとしてただけ」
「そっか」
危ない危ない。普通に見惚れてた。
だってこいつ、学校じゃ全然見ない振る舞いに格好でも可愛いんだもの。
付き合えるなんて思っちゃねぇけど、心の中でこの独占感楽しむぐらい許せよ。
「お客様、新商品の味噌マヨナゲットの試食はいかがですか?」
そんな思いに浸っていたら、店員の声と共に、お盆とナゲットが視界に。
爪楊枝の刺さった、一口サイズのナゲットには泥みたいな色のソース。
あんまり食欲をそそる感じはしないが、食べてみるか。
む、水橋もか。結構冒険心あるな。
「頂きます。……んっ?」
「これ……結構美味しい?」
「うん、アリかナシかで言うなら、アリだな」
見た目からは完全に失敗作だと思ったが、そんなことはなかった。
味噌のコクと塩気がいい具合にナゲットと調和してて、純粋に美味い。
意外な組み合わせだったけど、これイケるわ。
「味噌マヨネーズか」
ナゲット×味噌マヨネーズという新提案。
おかしな話だけど、似てるんだよな。今の水橋と。
水橋×制服×学校=学校の女神様。
水橋×パーカー×ショートパンツ=ストリートガール。
水橋×ハンバーガー×ハンバーガーショップ=街中のJK。
水着に冬服、メイドに巫女さんと、脳内で水橋を着せ替え。
どう転んでも、プラスにしかならない。
当然、『水橋×普通の趣味×ボクっ娘』だって、悪い答えにはならないはず。
意外な組み合わせだろうけど、俺にとっての答えは『不思議系美少女』辺り。
人によって答えは変わるだろうけど、嫌われることはあるまい。
だけど、同時に気づいたことがある。
水橋×俺=。
この方程式は解が無いどころか、式とさえ認めてくれない、文字の羅列。
ありえなさすぎて、一切想像できない。
なのに。
『水橋×透=理想の美男美女カップル』
こっちの方は、思いっきり鮮明に想像できちまった。