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88.機よりも自力

綱引きが終わり、フィールドにマットが運ばれる。これは高跳びの準備。

一部のフィールド競技は、トラック競技と並行して行われる。

で、高跳びと並行して行われるのは二人三脚。水橋の出る競技。


(さて、どうなるのかね)


両方共に足が速いという共通点はあるが、接点は0。

とはいえ、橋田は真面目で熱い男だし、何ら問題は無いだろ。

ただ、現在気がかりなことが一つ。


「橋田どこ行った?」

「そういや見ないな。誰か知ってるか?」


肝心の本人が見つからない。水橋もキョロキョロしてる。

こんなとこですっぽかすような奴じゃないとは思うんだが……


「おーい! ちょっと聞け!」

「はい?」

「橋田、腹痛いみてぇでトイレから出られん!」


ちょっ!? 先生、それマジで!?

よりにもよってこんなタイミングで腹壊す!?


「え、ってことは棄権になります?」

「いや、代役立てればセーフだ。誰か出られる奴いるか?」

「陽司は?」

「今、外で1000m走やってる。

 仮に間に合ったとして、1000m終わってすぐにもう一回走るのは無理だろ」

「じゃあ、サルどうよ?」

「出場数でアウト。ラストのスウェーデンリレーは数に含まれないけど、

 ハードルと障害物に登録してるから、上限いっちまってる」

「そっか……それじゃ誰だ? スウェーデン以外に出てるのが1種目だけ、

 なおかつ足が速い奴っていうと……」


男子連中が騒いでいる。それもそうだ。絶対的エースの代役はハードルが高い。

一部、水橋と一緒に出たいという奴もいるが、能力的にダメだと言われている。


「だから、俺が出ればいいだろ?」

「お前レベルじゃダメだろ!」


案の定、透もその一人。それに食って掛かるのは秀雅。

中途半端な脚力で出ようとしてる奴を次から次へと切って捨てている。


「じゃあさ、雫に聞こうぜ? 誰と出たい?」


ここで透の提案。合理的ではあるが、あまりいい展開ではない。

水橋が特定の男子の名前を挙げるというのは、それだけで意味がある。

変な解釈されたら、その後が大変だ。


「っていうか、俺でいいだろ? 橋田より背も近いし、な? な?」

「だから言ってんだろ! お前レベルじゃダメだって!」

「えっと……」


名前は挙げないだろうけど、透と組むことになったら最悪だ。

確実に、何かしらやりかねん。だが、このままだと押し切られるかもしれない。

俺も止めに……




「……あ、そうだ! 怜二、お前出ろ!」




パンと手を叩いて、俺を指名したのはサル。

その瞬間、クラスの意識が一気に俺に向いた。


「お前、スウェーデンの他に入ってるの100mだけだろ? 足も速ぇし。

 流石に優や陽司には劣るけど、この中にいる誰かってなったらお前だろ。

 な、皆もそれでいいよな?」

「その手があったか! 怜二、お前頼むわ!」


サルの声に呼応するようにして、皆が俺を推しだした。

言ったことの意味は分かるけど、思考と理解が追いつかない。

何で、サルが俺を……?


「サル、お前何言ってんだよ!? 怜二じゃ……」

「少なくともお前よりは足速いだろ。つーか、それこそ水橋に聞けばいい。

 どうだ水橋? 急造コンビになるけど、怜二と出るか?」


傍で透が騒いでいるが、サルも水橋も聞いてねぇ。あ、秀雅が他の男子と一緒になって剥がした。

後は水橋がどう答えるかだが……


「……うん、それでいい」

「決まり! ほら怜二、さっさとゲート行け!」


まさか、こんなことになるなんて。

俺より足の速い二人がこの場にいないからって、俺が水橋と二人三脚をすることになるとは。

しかも、サルの推薦。透が出るのを望んでいるのは明らかだ。

それなのに、俺を……


「怜二。……コレな」


人差し指を立て、意味深な笑み。『1着を狙え』か? いや、それだとこの表情の説明が。

……あぁ、『1個貸し』ね。そういうことか。

俺は水橋のことが好きだということを、こいつは知っている。

だから、アシストしてくれたのか……ありがたい。恩に着る。




競技直前の急な選手変更だったが、普通に受け入れられた。

「迷惑だけど、規定上認められてるから仕方ないわね」とは門倉の言。

独善的な門倉も、事前に決められたルールには従う他ないということか。


当然だが、俺と水橋で二人三脚をするのはこれが初めて。俺に至っては練習もしていない。

コーナー含むコースを走るに当たって、かなりの不安がある。


「藤田君、お願いがある」


順番を待っていると、水橋が小声で語りかけてきた。


「何だ?」

「何も考えなくていい。とにかく、全力で走って。

 そうすれば、うまく行く」


二人三脚の鉄則は、二人の呼吸を合わせること。

本当に何も考えなくていいという意味ではないだろうけど、定石からは外れている。


「何か、手があるのか」

「何もない。けど、私を信じて」


何の根拠も無いけど、水橋の言葉は自信に満ち溢れていて。


「……分かった。信じる」


今更どうすることもできないし、それならその指針に合わせようと思い、

俺は、女神様に全てを託した。

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