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87.人格の上と下


「宣誓!」


炎天の下、体育祭は例年通り開かれた。

グラウンドを埋め尽くす全校生徒の前に立つのは、体育委員会委員長、益田権三(ますだごんぞう)先輩。

体育祭を成功させる為、生徒会と共に全力を尽くしてきた男。

もっとも、この選手宣誓がなければ名前も知らないまま卒業することになる位、

俺にとってこの先輩は関係の無い存在なのだが。


その後に続く校長先生の挨拶を聞き流し、競技に思いを馳せる。

俺の出る100m走は最初の種目だ。シンプルだからこそ熱い種目。

やるからには全力を尽くそう。後方で欠伸してる幼馴染は無視して。


「ありがとうございました。次は、生徒会長挨拶です」


面倒くさそうに校長先生の話を聞いていた生徒が、一瞬にして集中モードに切り替わる。

当然、俺も例外ではない。


ゆっくりと壇上に上がり、マイクの高さ、向きを合わせ、スイッチが入っていることを確認。

そして。


「生徒諸君」


厳かな雰囲気を漂わせながら、芯の通った力強い声で前置きをした後。




「青春、してるかァーーーーー!!!!!」




盛大にハウリング音を響かせながら、女子高生とは思えない声量で絶叫した。


「「「「「オーーーーー!!!!!」」」」」


そして、それに呼応するように全校生徒が返事をする。

ここまでの流れ、寸分違わず昨年と同じ。


この学校で史上初めて、1年生にして生徒会長の座を獲得し、

そのまま3年生になる今日この日まで生徒会を引っ張り続けてきた、偉大なる生徒会長。

切れ長の目、はっきりとした鼻梁、低音の声質からは男性的な印象を強く受けるが、

風にたなびく黒髪、モデル顔負けのスタイル、そして何より、唇。

鮮やかなサーモンピンクの程よい厚さの唇は、男子はおろか女子さえ釘付けにする、

性別の垣根を超越した美しい顔を決定付ける画竜点睛。


そしてこの明朗快活な性格と圧倒的なカリスマ性。

時代が時代なら国ができたとさえ囁かれる、なるべくしてなった生徒会長。

3年6組、深沢凛(ふかざわりん)先輩。

この学校において唯一、あらゆるスペックで水橋とタメを張れる先輩である。

故に、そのエピソードにはとことん事欠かない。


「校長先生の仰る通り、皆の日頃の行いのおかげで招かれた快晴の下、

 肉体の祭典、体育祭を開くことができる幸せを導いてくれた諸君に感謝する!

 こんな素晴らしい形で体育祭が始まった以上、君達には全力を尽くす義務がある!

 当然、私も生徒会長として全力を尽くす!己の青春の一ページとして、深く刻みつけよ!」


そこまで言い終えて一礼すると、盛大な拍手が沸き起こった。

この個性の塊みたいな存在が、生徒会長深沢凛。

水橋を天才とするなら、深沢先輩は奇才といった所か。

下手すればどっちも『奇人』という全く別なカテゴリでくくれてしまいかねんが。




最初の種目、100m走が終わった。俺の結果は2位。7人中で銀メダルなら上等だろ。

1位には離されていたが、3位とはかなり激しい競り合いの末の勝利。

八乙女の指導がなければ、負けていただろう。あいつには感謝しないと。


「お疲れ。ほら、使え」

「サンキュ」


陽司がくれたボディーペーパーで汗を拭く。

このとことん暑い中でやる体育祭だ。何かと気を使う必要がある。

冷水の入ったジャグタンクは用意されているが、人数を考えると心許ない。

門倉に言われずとも、自己管理ぐらいちゃんとやる。


「疲れしっかり取っとけよ。リレー先鋒なんだからよ」

「捲りは任せたぜ、アンカー。つーか、大丈夫なんか?

 間隔あるとはいえ、1000mとスウェーデン両方出るって」

「余裕。試合じゃ1400なんて走った内に入らねぇよ」


誰もが嫌がる長距離走の出場者として、陽司は自ら立候補した。

「ここで俺出さないでどこで出すってんだよ」という、

透より遥かに主人公然としたセリフを吐かれちゃ、納得せざるを得ない。

『出ないで』じゃなく『出さないで』という所がポイント。

本人の自覚通り、勝負所で出すに値する身体能力がある以上、

どこで出すかに関してはある程度の議論が必要な気もしたが、

今考えても、長距離走が一番適任だろう。


「そうか? 今なら俺と変わってもいいぞ」

「自分の能力考えてからほざけ」

「大丈夫だって。麻美に言えば何とかしてくれる」


透、お前のその自信はどこから出た。

きっかり平均値で何をほざいてるんだよ。……あとさ。


「変わるってどっちだ? 1000m?」

「アンカーに決まってんだろ? 陽司も悪くはねぇけど、

 決めるとこで決めてこそ俺じゃん?」


そういうことだよな。そういうとこだぞ、お前が嫌われたのは。

そのせいで、今交渉した相手のブラックリストに入っちまったんだよ。


「失せろ。……1000m、まだ後だよな? ちょっとアップしてくる」

「行ってらっしゃい」

「何だ? どうしたんだあいつ?」


胸に手を当てて考えろ。本人に何もしてなくても、伝わりはするんだ。

お前はもう、今まで通りじゃいられなくなってるんだよ。

【サルの目:生徒データ帳】

深沢(ふかざわ) (りん)

テニス部(引退)

生徒会長

ルックス S

スタイル S

頭脳   S

体力   S

性格   A+


【総評】

我が校誇る完全無欠の生徒会長。文武両道を地で行く女。

唯一にして最大の欠点は、性格にめちゃめちゃクセがあること。

青春第一の直情径行型で、そのノリについていくことは難しい。

生徒会をまとめる力はあるし、ノリさえまともならオールSだったんだが。


総合ランク:S

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― 新着の感想 ―
[一言] 深沢さん、クセが凄いなぁ… そして陽司くんカッケーっすわ、やっぱり。
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