表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/236

86.押し付け

古川先輩は見た目通り、もしくは性格通りの運動音痴と聞く。

体育祭が全く楽しみではないタイプのはずなんだが。


「私、参加するのは借り物競争だけだったはずなんだけど、

 1000m走にも、出ることになっちゃって……」


何故か、一番過酷な種目であるはずの長距離走に出ることになっていた。

自主的に選んだというのは考えにくい。どうしてそうなった?


「何でそんなことに?」

「出ることになるのが分かったの、今日なんだ。

 昨日、いつの間にか決められてたみたいで……」

「先輩の承諾も無しに?」

「うん……何でか分からないんだけど、私は長距離が得意ってことになってて」

「実際の所は?」

「運動は……苦手。特に長距離走が一番苦手。

 ……私にとっては、100mも長距離だけど」


じゃあ短距離は何mなんですかというツッコミは置いといて、これは不可解。

あるとすれば、何をやらせても勝ち目の薄い先輩を捨て石にして、

最もキツい種目である1000m走の枠を埋める要員に使った、というところか。

以前の話からして、古川先輩がクラスで浮いているのは事実と見ていい。

そこから考えると、強ち邪推とも言い切れんし、何より好意的な意味で

古川先輩に苦手な長距離走をやらせる理由が思いつかん。


「決めたのって誰か分かります?」

「……分からないんだ。1000m走の女子選手、全然決まってなかったから、

 誰かと交換したって訳でもないし、先生に聞いても知らないって」

「おかしいですね。普通は先生が知ってるはずですが」


キナ臭くなってきた。確定できる要素は無いが、何かある可能性が高い。

だが、下手に探ったら古川先輩を傷つける可能性がある。

今分かっていることとして、俺が出来ることは何も無い。

種目変更は無理だ。明日の体育祭の参加種目を前日の放課後に変更できるわけがない。

段取りが決まっている以上、どうしようもない。


「演技力に自信あるなら、仮病使います?」

「……そういうのは、あんまりしたくない、かな」

「ですよねぇ」


先輩、バカみたいに真面目だからな。図書委員の仕事押し付けられても平然としてたし。

……何か、今までの俺を見てるみたいだな。もっとも、俺は真面目ではないが。

いいとこ真面目系クズだろ。


「確実に走破することだけを考えましょう。

 たとえ歩いたとしても、1000mやり通せば『走』破です。

 無理せず、焦らずでいいですから」

「……うん、分かった。頑張るね」


かけ合うだけは、かけ合ってみるか。

誰がこんなことやりやがったのかも、調べる必要あるし。


「あのさ、もしかしたら、いい機会かもしれない」

「何の話ですか?」

「藤田くんも、プールに行った時に分かったと思うけど……

 私、やっぱり太ってるから……痩せる為にはいいかもしれない」


個人的には、古川先輩は丁度今の体型が最高にエロいんだけどね。

本人がそう思うのなら、やり過ぎない程度に痩せてもいい。


「痩せる必要はないと思いますけど、適度な運動は体にいいですしね。

 軽いウォーキングくらいから始めてみれば、いいと思いますよ」

「うん、そうする。……プールの時は、ごめんね。

 こんなだらしない体、晒しちゃって……」

「いえいえ、眼……頑張って、下さい」


危ねぇ、「眼福でした」って言うとこだった。

古川先輩。俺が言えた義理じゃないですけど、もっと自己評価を高く持って下さい。

穂積に水橋と来て、先輩まで勘違い男製造機になったら、流石にTPの俺も

勘違いしてしまいかねませんから。




「無理ね」


生徒会の会議が終わった門倉を捕まえて交渉したが、一秒で却下された。

これは粘っても仕方ないから、さっさと本線の用事を済ませるか。


「大体、決定の時点でギリギリよ。2日前にようやく決まるなんて非常識過ぎるわ」

「それなんだけどよ、古川先輩の意に反して決められたらしいぞ」

「そうなの? でも今更変更なんて無理だから。先輩にはしっかり、やり通してもらうわ」

「そうか……ところで、出場者決定の連絡したのって誰だ?」

柏木(かしわぎ)先生ね。確か、古川先輩の担任だったはずよ」


おっと、早速重要な情報が。

これは柏木先生の独断による決定か、それとも誰かからの依頼か。

前者なら権限濫用だし、後者なら古川先輩に嘘をついたことになる。


「柏木先生、誰が出場者を決めたか言ってた?」

「『うちのクラスの子』とは言ってたけど、誰かまでは言ってないわね。

 その迷惑な先輩を注意してもらうようには言ったけど」


特定には至らず、か。だが、範囲は絞れた。

明日の本番で目を光らせておけば、それっぽい奴が見つかるかもしれない。


「分かった。ありがとな」

「どういたしまして。全く、迷惑な先輩もいたものね……」


意識が遅い決定をした先輩に傾いているのか、珍しく嫌味の一つも無く別れた。

願わくば、今後も常にこうであることを……


「あぁ、明日は暑くなるから熱中症対策はしておきなさいよ?

 あなたとか、自己管理もできなさそうだから」


祈る時間すら与えられず、俺の願いは虚しく砕け散った。

門倉、お前は何としてでも嫌味を言わないと気が済まないのか。


「それに、古川先輩はこれでダイエットでも始めてくれればいいわね。

 あんなはしたないブヨブヨの体で恥ずかしくないのかしら。

 透君は私みたいに女性らしさもありながら、不必要な肉は存在しない、

 見ていて気持ちのいいスタイルが好きなのに」


お前は自己評価が高過ぎだ。俺も詳しくは知らんが、他人(ひと)の好みを勝手に決めるな。

そして誰かを貶さないと死ぬ病気にでも罹ってるのか。

なら死ねとまでは言わんから、治療に専念してくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ