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85.祭典の前に

夏休み明けの8月の登校日は、ほんの僅か。

9月以降は中間テストを体育祭と文化祭でサンドイッチし、

最後に修学旅行を添えるという、激動の学校行事ラッシュだ。

それだけあって、この時期のLHR(ロングホームルーム)はその辺の決め事をする時間になる。


「それでは確認を取ります。参加種目を変更したい人はいますか?」


2学期最初の学校行事の体育祭、その参加種目決め。黒板の前にいるのは勿論門倉。

短距離から長距離まである徒競走は勿論、高跳びや綱引きの他、

パン食い競争や借り物競争など、レクリエーション色の強い種目もある。

これだけは夏休み前に決めてあるから、ここでやることはその確認。


「いないようなので、このままで決定とします」


俺は無難に100m走を選択。長距離も走れないことはないが、キツいものがある。

短距離の方が得意だし、体力いるものに関しては運動部員に任せることにした。


(本当なら、二人三脚に出たかったけど)


二人三脚はルール上男女混合。うちのクラスは最速の男女を組む戦略になった。

女子で一番速いのは水橋だから、透がかなり組みたがっていた。

といっても、あいつは走りに関しては至って平凡。故に候補に上がらず。

順当に男子最速のバスケ部、橋田優(はしだすぐる)が水橋と組むことになった。


「水橋君! 宜しく頼むぞ!」

「……宜しく」


身長差が若干気になるが、ギリギリ許容範囲か。人間としても心配はない。

サル曰く、硬派なスポーツ男子で色恋沙汰に興味がないらしいから、変な気は起こさんだろ。

二人三脚は大体の男子が下心を持つ中、勝つこと以外に何も考えてないっぽいし。

一番の懸念はなくなったから、上々だ。




「で、どうだ橋田は?」

「ちょっと暑苦しいけど、いい人だと思うよ」


不安はあまりないが、電話でしっかりフィードバック。

念には念を、ってね。


「パン食い競争出たかったな……種目さえ連続してなければ」

「パンぐらい、体育祭じゃなくても食えるだろ?」

「それが聞いた話だと、体育祭用のパンって料研が作ってるらしくて。

 もったいないことしたなぁ」

「鞠に頼んだらどうだ? そのせいか菓子パン作りにハマってるらしいぞ」

「その手があった! でも迷惑じゃないかな……そっとお願いする程度にする」

「そうしとけ」


食いしん坊御用達の種目に女神様が出る。

それこそ、イメージが大いに崩れかねない行為だと思うんだが、

もっと自分を出そうとする意思か、単純な食欲か、どっちだ……?


「それにしても、お互い帰宅部なのにリレーに出るなんてね」

「それな」


最終種目のスウェーデンリレーは、俺も水橋も走者として選ばれた。

男子リレー第一走者の俺はともかく、水橋は運動部を抜いて堂々のアンカー。

配点の高い種目の最重要選手として、参加することとなった。


「運動部でガチってるのが陽司と橋田ぐらいだからかもな。

 他にもいないことはないが、足っつーか腕っ節の方だし」

「なるほど。確かにそう考えると必ずしも速いとは」

「うちのクラスの野球部連中とかは揃って鈍足だしな。

 女子はよく知らんが、そもそも運動部所属自体少ないだろ」

「一概に決められないものだね。それじゃ、今日はこの辺で。

 体育祭頑張ろうね」

「あぁ、それじゃ」


電話を切る。

体育祭まで、あまり日数はない。けど、やれることはやろう。

筋肉痛にならん程度に、走り込みでもやってみるか。




「地面を蹴る瞬間は、足が体の真下に来るように!

 脇は締めて、腕もしっかり動かして下さい!」


一番効率いいだろうから、陸上部の八乙女から教えを乞う。

100m走が専門というだけあって、かなりのアドバイスが貰えた。


「いいですね! これなら本番も期待できますよ!」

「そうか……なぁ、お願いした俺が言うのもおかしいけど、いいのか?

 俺とお前、違う組だぞ?」

「体育祭を頑張ろうとする気持ちは同じじゃないですか!

 それが一緒なら、わたしは誰であろうと応援します!」


スポーツマン(ウーマン?)の鑑だな。

いい後輩を持ったもんだ。


「それでは、締めにあと3本走りましょう!」

「おう!」


やる気になってきた。俺の流し癖、諦め癖は消えつつある。

完全に消えるまで、全力で頑張るか!




月日は流れ……という程ではないが、体育祭前日。

今日は曇りだけど雨は降ってないし、明日は晴れる予定とのことで、地面のコンディションは心配なし。

文化祭ほどではないが、一大イベントということもあってクラスが騒がしい。

運動神経に自信のある奴は楽しみにしてるし、逆は雨乞いしてる。


最近、門倉の姿を見かけない。生徒会で入念に打ち合わせをしているのだろう。

透はさっきまで橋田に種目交換の誘いをしていたが、当然断られた。

断り文句がまたキツい。「虎二頭は共に走れるが、人が混ざったら食われるぞ」とは。

かなり粘っていたが、これを言われて諦めたようだ。

それじゃ、俺も帰るかね……って。


「あの……透くん……いますか……?」


ヘアピンが無い為、いつも通り前髪で顔の半分が隠れてる古川先輩。

夏休み中は執筆活動に勤しんでいたそうで。お疲れ様です。


「どうも先輩。透はさっき帰りましたね」

「そっか……ねぇ、藤田くん。時間、あるかな?」


これは……透の代役ってことか? 何を頼まれるかにもよるけど、

別に断る理由もないな。


「ありますけど、何かご用ですか?」

「ちょっと、相談があって。部室で話すから」

「分かりました」


元は透に相談するつもりだったんだろうけど、何の相談だろうか。

俺でも答えられるものならいいんだけど。

【サルの目:生徒データ帳】

橋田(はしだ) (すぐる)

バスケットボール部

ルックス C+

スタイル S

頭脳   D+

体力   S

性格   B+


【総評】

ガタイがいいというか、ほぼゴリラ。知能も同じくらい。

部活ではその高身長と有り余るパワーを武器に大活躍……かと思いきや、

フェイントというフェイントに引っかかるので、むしろお荷物。

恋愛に一切興味はないらしく、日々スポーツに全力を尽くしている。


総合ランク:D

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― 新着の感想 ―
[良い点] けっこう面白いよ。 [気になる点] ゴリラは実は頭良いんだよ。ゴリラをバカにしないで。
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