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83.ガリ勉パラノイア

いよいよもって、こいつはおかしくなったのだろうか。

不純異性交遊なんて用語自体、今日日聞かねぇ。

言いたいことは色々あるし、門倉ばりの罵詈雑言で返したい所だが、

そこをグッと堪えて、努めて冷静に話を聞こう。


「何故、それが必要だと思う?」

「言わなきゃ分からない? 全く、これだから頭の悪い人は困るのよ。

 こういった輩がいるから民主主義というものは……」

「悪いがご教示は一旦置いといて、頭の悪い人にも分かるように説明してくれ」


堪えろ俺。透に対してやらないと決めただけで、流すのは得意だろ?

今は反論ではなく、意図を聞いてその後どうするかを考える材料にするのが大事。

じっくりと話を聞こうじゃないか。


「そもそもとして、この学校はあまりにも校則が緩過ぎるのよ。

 勉学の時間を僅かな金銭にしてしまうアルバイトは禁止されてないし、

 ただのお遊びにしかなっていないものも部活動になってる。

 服装含む身だしなみの規定は緩い上に形骸化、挙句の果てには色恋沙汰に現を抜かす。

 この現状を変えるには校則の厳格化による規律と秩序の……」

「分かった、そこまででいい」

「まだ話は終わってないわ。そもそもとして、この学校は……」


ダメだこいつ、全く同じ話をループし始めた。

仕方ない、一番気になる部分についてだけ聞こう。


「あのさ、不純異性交遊禁止って何だ?」

「そのままよ。ティーンエイジャーが色恋沙汰に現を抜かすなんてあっていい訳がない。

 私としては20歳までと言いたいところだけど、生徒会の権限じゃそこまでできないから、

 少なくとも在学中の間は禁じるということよ」


言葉の意味は、ほぼ俺の解釈と同じ。となれば、明らかにおかしいことになる。

そして、それはこいつ自身にも返ってくる。


「透、色々な女子から好かれてるみたいだけど、それはどうするんだ?」

「穂積さんや古川先輩、あと八乙女さん? 当然、全員と別れてもらうわ」

「そうか……ってことは、お前も別れるのか」

「何を言ってるの? 私が何で透君と別れる必要があるの?」


まさかとは思ってたけど、やっぱりこう来たか。

どういう論理でそうなるんだよ。


「何でって、お前が言い出したんだろ? 不純異性交遊禁止って。

 それで言ったら、お前も透と関わったらダメだろが」

「私は『不純』異性交遊を禁止と言っているの。私と透君は清純な関係。

 全生徒の模範として、清く正しい交際を続ける。そこに何の問題があるのかしら?」


……大アリだ。門倉は遂に、権力を使ってまで透を手にしようとし始めた。

透がどうなろうと知ったこっちゃないが、こんな横暴が通っていい訳がない。

これが通ったら、俺の目標まで死んでしまう。


「それで行くと、鞠や古川先輩、八乙女は不純な交際をしてるってことになるが」

「それが何か?」

「いや、判断基準教えてくれ」

「穂積さんはボディタッチが多過ぎて不純じゃない。古川先輩は体つきがいやらしい。

 八乙女さんは論外ね。校内で大声で告白するなんて。退学にしたいくらいよ。

 その点私は言動他全てにおいて慎ましく、成績も申し分なし。

 現を抜かすことがないから、多少の恋愛は許されても問題ないことは自明の理よ」

「……仮にその3人が不純だとして、透は? 4股って考えると不純どころじゃねぇぞ?」

「透君が不純な訳ないじゃない。私以外の3人は適当にあしらってるだけで、本命は私よ。

 けど、思わせぶりな態度をするのは頂けないから、校則で禁止する。

 そうすれば、透君もこれ以上愛想を振りまく必要がないから、楽になるでしょ?」

(……うぇ)


独善的にも程がある。気持ち悪過ぎてリアルに吐き気を催した。

昼休み前でよかったわ……食った後なら確実にリバースしてた。

これ以上の論争は消化器に負担がかかる。最後にこれだけ明らかにして終えよう。


「そうか……聞きたいんだけどさ、お前何で透のこと好きなんだ?」


傘を盗んだことを庇い、水着盗みの犯人を勘違いしたことを庇い、課題は代筆する。

ありとあらゆることで透を賞賛し、それ以外のものは全て貶す。

このあまりにも異常すぎる行動の原点は、透が好きだということ。

つまり、透が好きな理由が分かれば、異常すぎる行動の原点も分かる。

一体、こいつは何があって透を好きになったんだ?


「何であなたに言わなきゃいけないの?」

「はっきり言って、お前は透に対して甘すぎる。その校則案は勿論、

 傘を盗んだこと、プールでのことと、透が絡むと簡単に正義を捻じ曲げる。

 その理由が知りたいんだ」

「私は今まで一度として正義を曲げたことはないし、そこに透君は関係ないわ。

 でも、強いて言うなら、透君は絶対に正しいからね」

「……正しい? 何がだ?」

「学生の本分は勉強。それを続けている私を分かってくれたから。

 当たり前のことだけど、透君以外の皆はそんなことも分からないのよね」


門倉の成績は知っている。実技はともかく、筆記で上回っているのは水橋だけだ。

満点を取った回数も少なくないし、教師から大いに評価されている。

品行方正、才色兼備。それが、門倉麻美という存在。


だから、分からない。

こいつが透のことを好いていることも当然だが、もう一つ。

品行方正の品の字もない透が、ガリ勉の門倉を分かった、ということが。


「どういうことだ?」

「透君は私に従って、勉強に励んでる。これ以上の理由なんていらないでしょ?」


あいつが勉強に励んでる? 俺は全くそうは思わない。

中学時代はノートたかられたり、テスト前だってのに遊びに誘われたりと、不真面目そのもの。

高校に入ってからも赤点こそ回避してきたものの、成績は芳しくないはずだ。


「あいつの成績知ってるか? 少なくとも、俺の大分下だ」

「成績だけで人の評価が出来る訳ないでしょ? 透君は頑張ってるの」

「……お前、普段は人のこと散々成績で貶してるよな?」

「そりゃ、頑張ってない人の成績なんてたかが知れてるし。

 透君はいつも、私を頼って勉強する。頑張ってるのは明らか。

 私は人を見る目に自信があるの。だって、私は常に正しいから。

 今までの成績が、それを証明しているわ」


……なんだ、これ。

透に対する盲信もそうだが、その自信は一体どこから来るんだ?


「もういいかしら? 他の人にも私の考えを説く必要があるから。

 愚問に答える時間なんて、本来はなかったのよ? 感謝なさい」


いつものように、最後の最後まで嫌味を吐いて去っていく門倉。

その姿は、心の底から醜悪に見えた。

生徒会選挙はすぐ行われる訳ではないが、ずっと先というほどでもない。

立候補者が他にいなければ、信任選挙だ。

生徒会の権限は、門倉が思っているほど大きくはないが、まずい。

あいつ、生徒からの支持はともかくとして、教師の支持はあるんだ。

下手すれば、この学校は大きく変わってしまう可能性がある。


(……考える必要があるな)


門倉の危険性は、透以上かもしれない。

対策を講じなければならないが、どうすれば……?

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