81.失脚への道
夏休みが終わり、2学期が始まる。
今年の夏休みは短く感じたな。内容がめちゃくちゃ濃かった。
そして、色々な変化があった。
プラスの変化は、水橋の友達に八乙女が加わったということ。
海の家での経験による成長が如実に感じられた。
特に、水橋自身から動いたというのが大きなポイント。
この分なら、水橋の望みが叶えられる日はそう遠くない。
目標は冬休み前。クリスマスパーティーとか楽しませてやりたい。
俺自身の望みに関することも、色々あった。
海の家で、そして夏祭りで、思いがけなく水橋を守った。
当然のことをしただけだし、どっちも完璧ではない。
けど、海さんの評価は上がったし、デートっぽいこともできた。
これもまた、俺にとってはプラスの変化。
だが、いいことばかりではない。市民プールでの出来事だ。
アレで完全に確定した。透は救いようのないゲス野郎だと。
夏祭りで穂積を蔑ろにしたことだってそうだし、俺はもう、透を見限ることにする。
それによって、何かしらの嫌がらせに遭うかもしれねぇが……
(ノーリスクで、利だけ得るつもりはない)
肉が切れても骨を断つ。
死ななきゃ安い。大怪我くらい覚悟してるわ。
「おはよー」
「おひさー」
最初に出迎えてくれたのは、夏休みを経て見事に焼けた陽司。
サッカー部は合宿あったらしいな。お疲れ様。
「風呂が痛いのなんのって。汗かくから入るけどさ、ぬるま湯ですら痛ぇ」
「だろうな。どうだったん、合宿?」
「先輩抜けると戦法から考えるようだし、まだこれからって感じだな。
あと……怜二、話は聞いたぜ」
「……? 何のことだ?」
「市民プールの件、って言えば分かるか? 秀雅からメッセで来たんだよ」
(プールの件で、秀雅……まさか)
あいつ、プールの件広げたのか……下手すりゃ透かファンの女子に叩かれるってのに。
俺が動かなかったから、キツい役目をやらせることになっちまった……
……くそっ、俺はまた判断を誤ったのか!
「俺も前からそういう片鱗がある感じはしてたし、秀雅が嘘ついてるとも思えねぇ。
一応聞くけど、事実だよな?」
「その前に教えてくれ。具体的に何て言われた?」
「門倉の水着盗んだ濡れ衣着せられた挙句、透が逆ギレしたんだってな。
……で、マジか?」
「合ってる。あいつは中途半端に事を見て勘違いしたんだ。
だが、間違ってたことが分かっても一切謝らないで逃げやがった」
「謝ったら死ぬ病かよ。……怜二、悪いけど俺はお前の意思を問わねぇ。
今日をもって、透は俺のブラックリスト登録だ」
「……それがいい。俺も、そうする」
明確な、決別の意思表明。
今まで考えられなかったことが起こった。
俺以外の誰かによる、透に対する評価の変化。
それは、男子だけではなかった。
「おはよう、鞠!」
「あ……おはよう」
「どしたー? 元気ねーじゃん。休み終わったから?」
「……ねぇ、透。お祭りで浴衣コンテストあったよね?」
「あぁあれな。残念だったよなー。怜二がしでかさなきゃ、俺らが優勝……」
「雫ちゃんと出ようとしたって、本当?」
「……へ?」
透が、水橋と浴衣コンテストに出ようとしたこと。
水橋はどうやら、そのことを穂積に伝えたらしい。
「夏祭りに誘ってくれた時、嬉しかった。浴衣コンテストにも一緒に出ようって言ってくれて。
……私と出るの、嫌だった?」
「いやいや、そんな訳ねぇだろ。俺は最初から鞠と出るつもりだったっての。
だから結局、雫は怜二と偽装カップル組んで出たんだろ?」
「そう、だよね。うん。勘違い、だよね……」
「そうそう、気にすんなって。俺を信じろ!」
「……うん」
透は気付いていないようだが、穂積の口から「信じる」という言葉は出ていない。
それも当然だ。水橋の言葉には力があるし、そもそもとして嘘をつくタイプでもない。
水橋が何て言ったかにもよるが、透を100%信頼することは、もうできなくなっている。
「大丈夫だって! 俺が今まで、鞠を裏切ったことがあるか?」
「うん、大丈夫だよね。大丈夫……」
「な?」
否定はしていない。ただただ、自分に言い聞かせるようにしている。
……水橋、結構深く刺しに行ったか。
これもまた、引いてばかりの俺より先に出たが故の行動。俺は、あまりにも遅過ぎたんだ。
事はもう、引いているだけでは誰かに負担をかけてしまうところまで進んでいた。
これからの立ち振る舞いは、正確さと共にスピードも要求されることになる。
ゆっくり確実に、なんてできない。素早く確実にやらなければならない。
……覚悟しよう。
透をはっきり見限る。あいつがどこまで堕ちようが知らねぇ。
友人の手を汚してしまうくらいなら、俺が手を下す。
それが幼馴染みの、そして透をつけあがらせた俺の責任であり、贖罪だ。
「うん、色々言った。ごめんね、勝手なことして」
夜、水橋に電話をかけ、詳細を聞く。
そこで分かったことは色々あるが、何よりも衝撃を受けたのは、穂積が透に惚れた理由。
そして、それに対する透の答え。
「いや、謝るのは俺だ。幼馴染みとして、はっきり言うべきなのは俺だ。
穂積にも、水橋にも負担をかける必要なんてなかったのに……」
「藤田君、ボクをもっと頼ってよ。それに、これはボクが勝手にやったことだから。
穂積さんを守りたいっていうのもあるけど、それ以上に……神楽坂君に、怒ってる。
悪いけど、もう放置でいいところを過ぎてるんだよ」
俺は今の今まで、透のやらかしを流してきたが、ここに来てようやく流さないと決めた。
それに呼応するように、いや、その前から周りは透にムカついていたんだ。
「決めてたけど、決めたよ。あいつはもうどうしようもない。
堕ちる所まで、堕ちさせる」
「既に堕ち始めてるし、後は勝手に堕ちると思うよ。
だけど……何か、そう簡単に行きそうにない気がするんだよね」
「全く同じことを考えてた。あいつ、昔っからおかしいんだよ」
透の主人公補正との、真っ向勝負。
今年の2学期は、激動の学期になりそうだ。