80.まだ、足りないけど
撮影の後は落書きタイム。
色々できそうだけど、色々ありすぎてよくわからん。
「これだと、『がおー』っていうか『にゃー』だね。手、両方頭の上でよかった。
とりあえずネコミミつけて……」
「いや俺にはつけんでいい」
「それじゃ代わりに花でも咲かせて……あっはっは!」
「ふふっ……って何してんだよ! ただでさえ酷い面してんのに!」
「ごめんごめん。目の編集ってこれかな? おおっ、すごい!」
「もはや誰だよ。原型どこいった」
「藤田君は綺麗に写ってるけど、ボクだと宇宙人みたいだね」
「水橋は元から目大きいからな」
「でも、折角だしMAXにしちゃうか。あ、このキャラ可愛い」
「何で俺の頭に乗せた」
実際に撮ってみると、最新プリクラの凄さが分かる。
ただ、俺だと違和感が出るだけだが、水橋だとやっぱり劣化する。
元々の顔立ちが完璧だから、加工するとどうしてもバランスが崩れる。
とはいえ、水橋の希望は綺麗に撮ることより思いっきり盛ることだし、
俺の嗜好を優先する理由はない。やりたいようにやらせよう。
「し、ず、くっと。どうかな?」
「いいんじゃね? バッチリ盛れてるし」
「プリクラって面白いね」
制限時間一杯まで使って、5枚分の落書きを終える。
星が散っていたり、動物の耳や鼻がついていたり、俺が謎キャラにつっつかれてたり。
俺も多少のスタンプを押したりしたが、大部分は水橋が編集。
なんかおもちゃにされたみたいで、中々に恥ずかしかった。
「どこに貼ろっかなー♪」
「家族以外には見せるなよ」
「何で? 穂積さんに見せようかなって思ったんだけど」
「そこから透に繋がったらまずいだろ」
「あー……確かに。うちにコルクボードあるから、飾るか」
完全にカップルみたいなことをしてしまったけど、水橋は何かと常識外れ。
多分、これも『普通の友達』の行動だと思っている。
女子同士ならともかく、男子と、それもツーショットのプリクラって、
相当に意味のあるものなんだが……
「えへへ、楽しいなー♪」
今日の水橋は、よく笑う。
きっとその内、教室でもこの顔ができるようになるはず。
夏休み前に一人、夏休みで更に一人、友達ができたんだ。
もしかしたら、2学期中に決着がつけられるかもしれない。
そうすれば……水橋は、もう仮面を被らなくていい。
「もう帰るか? それとも、もうちょい遊ぶ?」
「藤田君がいいなら、もっと遊びたい。
けど、その前におやつ食べに行かない? ちょっと別腹がすいちゃって」
「小腹じゃねぇのか」
それはそうと、今の問題を解決するか。
今日はとことん、楽しませてもらおう。
「一度食べてみたかったんだよね、デラックスパフェ」
「こうして見るとマジでデカいな」
目測で40cmのデカいパフェ。勿論、水橋一人分。
俺は夏季限定のかき氷を頼んだ。味は一番人気らしいので宇治金時。
そして、俺はここでやってみたいというか、試してみたいことがある。
(不安ではあるけど、どうなるか知りたい)
喫茶店に連れていった時。夏祭りでデザートを買いにいった時。
俺は今までに二回、水橋から『あーん♪』をされている。
水橋にとっては普通のことらしいが、普通に考えて普通じゃない。
ということで。
「水橋」
「何?」
「……一口、食うか?」
スプーンに一口分を乗せて、水橋に向ける。
流石に『あーん♪』とは言えないので、カジュアルな提案という感じに。
こんな感じで俺から出された場合、水橋はどんな反応をするんだろうか。
「いいの?」
「あぁ」
「ありがと♪ 実はそっちも気になってたんだ。
それじゃ、あー……」
口を開けた。食べるのは決定、と。
で、動かないな。これは……まぁ、そういうことだよな?
「あー……あれ?」
「……俺が食わせるのか?」
「それ以外に食べる方法あるの?」
「いやごめん。ほら、もう一回」
水橋の口の中へ、宇治金時を乗せたスプーンが入る。
口を閉じた後、ゆっくりとスプーンを抜く。
シャリシャリという音と共に、水橋の顔が綻ぶ。
「んー、抹茶の苦味が小豆の甘さを引き立ててる……♪」
「そりゃよかったな。んじゃ俺も」
スプーンを変えることも拭くこともせず、そのまま宇治金時をすくい、俺の口へ。
……無反応。完全にパフェを食べることに気が向いてる。
「藤田君にもあげるね。あーん♪」
それどころか、三回目のあーんが来た。
全く、この子は本当に無防備だな……!
「あむ。……甘ぇ」
「パフェだからね。食べよ食べよっ♪」
実験結果、俺がひたすらドキドキしただけ。
水橋の非常識さを変えようとするより、俺が慣れた方が早そう。
どっちにしても相当時間かかりそうだが。
適当に街をうろつき、アパレルショップを冷やかしたりしてる内に、時刻は午後6時過ぎ。
夏だからまだ明るいが、そろそろ帰宅時間か。明日のバイトは早番だし。
「楽しかったー♪ 思いっきり歌ったし、マグカップも買ってもらったし、
プリクラも撮れたし……もう最高」
俺も楽しかった。この疲れすらも心地いい。
カップル専用のところはプリクラぐらいだけど、街中デートと言えなくもない。
ぶっちゃけ、少しだけ意識した。どこまで感づかれたかは分からないが、
『水橋を楽しませる』という最大の目的は達成したから、成功だろ。
「次はいつ遊べるかな? なんなら明日でもいいし。課題終わった?」
「終わってるけど、生憎バイトだ。次は大分先になるかもな」
「そっかー。今度は穂積さんや八乙女さんも誘いたいな」
全く感づかれていないな。安心したような、悲しいような。
性別関係なく、俺もまだ友達の範疇ってことか。
二年生に上がった当時は、こんなことになるなんて思ってなかったけど。
でも、じっくり進めていけばいいんだ。何てったって、一番の障害の透は嫌われてる。
それでも邪魔ではあるが、奪われる心配は全くない。
(素が明らかになったら、めちゃくちゃ男子が寄るだろうけど)
その中から俺を選んでくれるように、自分を磨く。
もしくは、水橋にとってもっと特別な存在になる。
それが、俺の出来ること。
「近い内にできるだろ。女子会やりたかったら、サルに聞いてみろ。
あいつ、そういうのに丁度いいスポットにも詳しいから」
「そうなんだ。それじゃ、その時はお願いしよっかな。
今日はありがとね、藤田君」
「ああ」
水橋。全く気付いてないみたいだけど、俺はお前を彼女にしたい。
お前のおかげで俺は変わった。昔よりずっと、自己中でゲスくなった。
絶対に、諦めねぇからな。