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80/236

80.まだ、足りないけど

撮影の後は落書きタイム。

色々できそうだけど、色々ありすぎてよくわからん。


「これだと、『がおー』っていうか『にゃー』だね。手、両方頭の上でよかった。

 とりあえずネコミミつけて……」

「いや俺にはつけんでいい」

「それじゃ代わりに花でも咲かせて……あっはっは!」

「ふふっ……って何してんだよ! ただでさえ酷い面してんのに!」

「ごめんごめん。目の編集ってこれかな? おおっ、すごい!」

「もはや誰だよ。原型どこいった」

「藤田君は綺麗に写ってるけど、ボクだと宇宙人みたいだね」

「水橋は元から目大きいからな」

「でも、折角だしMAXにしちゃうか。あ、このキャラ可愛い」

「何で俺の頭に乗せた」


実際に撮ってみると、最新プリクラの凄さが分かる。

ただ、俺だと違和感が出るだけだが、水橋だとやっぱり劣化する。

元々の顔立ちが完璧だから、加工するとどうしてもバランスが崩れる。

とはいえ、水橋の希望は綺麗に撮ることより思いっきり盛ることだし、

俺の嗜好を優先する理由はない。やりたいようにやらせよう。


「し、ず、くっと。どうかな?」

「いいんじゃね? バッチリ盛れてるし」

「プリクラって面白いね」


制限時間一杯まで使って、5枚分の落書きを終える。

星が散っていたり、動物の耳や鼻がついていたり、俺が謎キャラにつっつかれてたり。

俺も多少のスタンプを押したりしたが、大部分は水橋が編集。

なんかおもちゃにされたみたいで、中々に恥ずかしかった。


「どこに貼ろっかなー♪」

「家族以外には見せるなよ」

「何で? 穂積さんに見せようかなって思ったんだけど」

「そこから透に繋がったらまずいだろ」

「あー……確かに。うちにコルクボードあるから、飾るか」


完全にカップルみたいなことをしてしまったけど、水橋は何かと常識外れ。

多分、これも『普通の友達』の行動だと思っている。

女子同士ならともかく、男子と、それもツーショットのプリクラって、

相当に意味のあるものなんだが……


「えへへ、楽しいなー♪」


今日の水橋は、よく笑う。

きっとその内、教室でもこの顔ができるようになるはず。

夏休み前に一人、夏休みで更に一人、友達ができたんだ。

もしかしたら、2学期中に決着がつけられるかもしれない。

そうすれば……水橋は、もう仮面を被らなくていい。


「もう帰るか? それとも、もうちょい遊ぶ?」

「藤田君がいいなら、もっと遊びたい。

 けど、その前におやつ食べに行かない? ちょっと別腹がすいちゃって」

「小腹じゃねぇのか」


それはそうと、今の問題を解決するか。

今日はとことん、楽しませてもらおう。




「一度食べてみたかったんだよね、デラックスパフェ」

「こうして見るとマジでデカいな」


目測で40cmのデカいパフェ。勿論、水橋一人分。

俺は夏季限定のかき氷を頼んだ。味は一番人気らしいので宇治金時。

そして、俺はここでやってみたいというか、試してみたいことがある。


(不安ではあるけど、どうなるか知りたい)


喫茶店に連れていった時。夏祭りでデザートを買いにいった時。

俺は今までに二回、水橋から『あーん♪』をされている。

水橋にとっては普通のことらしいが、普通に考えて普通じゃない。

ということで。


「水橋」

「何?」

「……一口、食うか?」


スプーンに一口分を乗せて、水橋に向ける。

流石に『あーん♪』とは言えないので、カジュアルな提案という感じに。

こんな感じで俺から出された場合、水橋はどんな反応をするんだろうか。


「いいの?」

「あぁ」

「ありがと♪ 実はそっちも気になってたんだ。

 それじゃ、あー……」


口を開けた。食べるのは決定、と。

で、動かないな。これは……まぁ、そういうことだよな?


「あー……あれ?」

「……俺が食わせるのか?」

「それ以外に食べる方法あるの?」

「いやごめん。ほら、もう一回」


水橋の口の中へ、宇治金時を乗せたスプーンが入る。

口を閉じた後、ゆっくりとスプーンを抜く。

シャリシャリという音と共に、水橋の顔が綻ぶ。


「んー、抹茶の苦味が小豆の甘さを引き立ててる……♪」

「そりゃよかったな。んじゃ俺も」


スプーンを変えることも拭くこともせず、そのまま宇治金時をすくい、俺の口へ。

……無反応。完全にパフェを食べることに気が向いてる。


「藤田君にもあげるね。あーん♪」


それどころか、三回目のあーんが来た。

全く、この子は本当に無防備だな……!


「あむ。……甘ぇ」

「パフェだからね。食べよ食べよっ♪」


実験結果、俺がひたすらドキドキしただけ。

水橋の非常識さを変えようとするより、俺が慣れた方が早そう。

どっちにしても相当時間かかりそうだが。




適当に街をうろつき、アパレルショップを冷やかしたりしてる内に、時刻は午後6時過ぎ。

夏だからまだ明るいが、そろそろ帰宅時間か。明日のバイトは早番だし。


「楽しかったー♪ 思いっきり歌ったし、マグカップも買ってもらったし、

 プリクラも撮れたし……もう最高」


俺も楽しかった。この疲れすらも心地いい。

カップル専用のところはプリクラぐらいだけど、街中デートと言えなくもない。

ぶっちゃけ、少しだけ意識した。どこまで感づかれたかは分からないが、

『水橋を楽しませる』という最大の目的は達成したから、成功だろ。


「次はいつ遊べるかな? なんなら明日でもいいし。課題終わった?」

「終わってるけど、生憎バイトだ。次は大分先になるかもな」

「そっかー。今度は穂積さんや八乙女さんも誘いたいな」


全く感づかれていないな。安心したような、悲しいような。

性別関係なく、俺もまだ友達の範疇ってことか。

二年生に上がった当時は、こんなことになるなんて思ってなかったけど。

でも、じっくり進めていけばいいんだ。何てったって、一番の障害の透は嫌われてる。

それでも邪魔ではあるが、奪われる心配は全くない。


(素が明らかになったら、めちゃくちゃ男子が寄るだろうけど)


その中から俺を選んでくれるように、自分を磨く。

もしくは、水橋にとってもっと特別な存在になる。

それが、俺の出来ること。


「近い内にできるだろ。女子会やりたかったら、サルに聞いてみろ。

 あいつ、そういうのに丁度いいスポットにも詳しいから」

「そうなんだ。それじゃ、その時はお願いしよっかな。

 今日はありがとね、藤田君」

「ああ」


水橋。全く気付いてないみたいだけど、俺はお前を彼女にしたい。

お前のおかげで俺は変わった。昔よりずっと、自己中でゲスくなった。

絶対に、諦めねぇからな。

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