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8.ボーイ・ミーツ・ヴィーナス

「藤田君って、何か好きなものとかある?」


夕飯を食った後から、風呂に入る間くらいの時間にかかってくる電話は、ほぼ水橋から。

あの日以来、時折話し相手になっている。


「ゲーセンとかカラオケ行ったり、美味い店探したり」

「そっか。ボクと近いね」

「言われてみれば、そうかもな」


こういう俗っぽい趣味がかぶるとは思わなかった。

水橋の素が分かる前の俺が予想したら、読書(純文学)とかだと思っただろうな。


「ねぇ、藤田君。今週末って暇かな」

「暇……だな。何の予定も無い」

「それなら、遊びに行かない? ボクと二人で」


……待て待て。

いや、週末の予定聞かれた時に、もしやっていう下心はあったけども。

けど、マジで?


「おう、いいぞ」

「ありがとう。それじゃ、どこで集まろうか?」

「水橋がどこに行きたいかによるな。ゲーセン?」

「うん。アーケード地下の」

「アレか。ってことは、格ゲー好きなん?」

「一度、誰かと対戦してみたかったんだ」

「かしこまりました。じゃ、大通り西口に11時でいいか?」

「いいよ。それじゃ、明後日ね」


本日の電話、終了。

さて……オシャレ着出すか。




「早かったか……」


浮き足立ちすぎた。時刻は現在10時半。水橋の姿は見当たらない。

あの神秘的なオーラを見逃すって事は無いと思うんだが。


「藤田君?」

「……? 誰ですか?」

「ボクだよ。水橋雫」

「……マジで?」


いた。

いたけど、一体誰なんだこのボーイッシュ美少女は。


「どうかな。そこそこ上手く変装できたと思うんだけど」


大きめのパーカーに、ショートパンツとニーソックス。

顔には黒縁メガネ、頭には迷彩柄のキャップ。

元々の顔立ちが中性的ということもあり、いい意味で性別が不安定。

とはいえ、下なら眩しい絶対領域、上なら服越しにも分かる膨らみで特定できるが。


ここまで来ると、普通なら痛いだけのはずの『ボク』という一人称もむしろ自然。

素材が素材だから何着ても絵になるとは思うが、印象はガラッと変わった。

クラスメートにバレない為に、だとしたら成功の部類。

パッと見じゃ、学校の女神様と同一人物とは思えない。


「さっきの反応で察してくれ」

「こういうとこに行く時用の服なんだ。ニアミスくらいなら大丈夫なはず」

「しばらく見ても分からんと思う」

「それなら尚更。じゃ、行こっか。ボクの本気、見せてあげる」


俺じゃなかったら勘違いしかねないセリフ、やめてもらえないかね。

俺ですら勘違いしかけるから。




『YOU WIN! PERFECT!』

「やった!」

「……嘘だろ」


あっという間の3連敗。それも、一撃すら入れられずの。

このゲームはやり込んでるし、何なら接待プレイでもと思ったけど、

とんだ自惚れだった。


「水橋、お前本当に休みでも家に篭ってんの?」

「最近はそうでもないかな。テスト前以外だと」

「最早一部で有名になってると思うんだが」

「なるべく人がいない時にプレイしてるからね。

 おかげでほとんどのキャラで、ストーリーはクリアしちゃった」


ソロで磨きぬかれた腕ということか。

凄いとは思うけど、同時に哀しいわ。


「なんつーか悪い。俺のレベルじゃ面白くないだろ?」

「そんなことないよ。ボク、対戦がこんなに面白いものだなんて知らなかったもん。

 いくら上達したって、自分だけで楽しむのには限界があるからね」

「そういうことなら、いいけどよ」


この素性が分かれば、男連中はわんさか集まるだろうな。

でもって、水橋を惚れさせる為に格ゲーが流行る。水橋はゲームサークルの姫に。

その気になればそんなことだってできる。


「他のゲーム、やってみる? ここ、プライズゲームも充実してるんだよね」

「クレーンは全然なんだよな。ポテチの大袋取るのに散財して以来、やってねぇ」

「台選びで結構絞れるよ。ここだと……」


色々なゲームの解説をする水橋は、心底楽しそう。

素の自分を開けっ広げにして、ラクになってるんだろうな。


この水橋を見たクラスメイトは、水橋を嫌ったり、避けたりするようになるだろうか。

俺にはそうは思えない。だけど、本人たっての願いだ。

それを無視して強引に事を進める程、俺は主人公気質じゃない。

何せ、俺は脇役補正ガッツリかかってるもんで。


慎重に行けるって意味では、脇役補正は完全にマイナスという訳でもないんだな。

この選択が、正解かどうかは別にして。

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