79.遊びだけどゲームじゃない
ウィンドウショッピング(実際は普通のショッピングになったが)がすぐ終わったから、
時間的な余裕はまだある。ということで、続いて訪れたのはゲームセンター。
「そういや水橋、これってお前の?」
「どれ? ……あ、これか。うん、ボクが出した記録」
「やっぱりか」
テスト明けに行ったゲーセンで、秀雅がプレイしていたシューティングゲーム。
曰く『クリア狙いじゃなくて、スコア狙いじゃないと出せない点数』を出した人間。
プレイヤーネーム『WBD』。それは予想通り、水橋だった。
「漢字で書いた名前をバラして、英単語にした時の頭文字か?」
「そう。最初はイニシャルにしようと思ったけど、全部簡単な英語で表せるなって」
「確かに」
由来も推測通り。
俺の名前だとできねぇな。『二』ぐらいしか変換できん。
『藤』と『田』は英語で何て言うのか知らないし、『怜』に至っては何を当てはめろと。
「今は違うみたいだけど、ボクの時は福袋がもらえた。
何一つとして欲しいものがなかったから、全部売るか捨てるかしたけど」
「何入ってたんだ?」
「『宇宙人』って書いてあったおもしろTシャツと、サイズの合わないスニーカー、
何を象ってるのか分からないアクセサリーと、もっと謎の置物。
豪華景品って銘打ってたのに、ゴミ押し付けられた気分だったね」
「うん、どれもいらねぇ」
「それ以来スコアタに興味なくしちゃったんだ。
勉強のことも考えたら、そんなに時間使えないし」
福袋に福が詰まってるのは都市伝説。特にこういうとこのは。
女神様の神通力を持ってしても、覆せない事象はある。
「藤田君もやってみない?」
「んじゃ、ちょっとやってみるか」
「それじゃ、ボクは高みの見物とさせてもらおうかな」
水橋と秀雅はともかく、俺のプレイスキルは平凡。
でも、やれるだけはやってみるか。
「お疲れ様」
「……無理だって」
結果、ステージ1のボスで撃沈。
抱え落ちに次ぐ抱え落ちという、初心者丸出しの死に方だった。
「ボムの使いどころ間違えなければ、ステージ3までは行けるよ。
あとは人間を辞めれば何とか」
「初心者向けと超級者向けのアドバイスが混ざってるんだが」
「そういうゲームだからね。パターン分かってても動けるかってなったら別だし、
実際にプレイしてる最中は、殆ど勘でいったし」
電波曲熱唱→ファンシーグッズにメロメロ→人間卒業の片鱗
キャラクターが迷子を通り越して遭難してるわ。
「それじゃ、次は何する? 格ゲー……は、俺じゃ相手にならんか」
「ボクは対戦相手がいるだけで楽しいんだけど、藤田君は?」
「正直な所、サンドバッグにされるのは中々に辛いものがある」
「そっか……ごめんね」
「謝らないでくれ。より惨めになる」
「…………どんまい?」
「気遣いありがとう。だが、多分正解は存在しない。めんどくさい男ですまん」
「そんな卑下しなくても」
今回は俺自身も楽しみたい。
水橋が楽しんでくれるのが前提だが、多少は自分の欲望も満たしたい。
そこら辺も、適度に素直になった方がいい気がするし。
「そうだ、ボクやりたいことあった」
「何だ?」
「プリクラ撮らない?」
「あぁ、プリクラね……プリクラ!?」
ちょっと待て! 都合良過ぎないか!?
自分の欲望も満たしたいと望みはしたけど、そっちから提案する!?
「一度撮って……いや、盛ってみたかったんだよね。
よく分かんないけど、最新のプリクラって凄いって聞いたから」
「色々とあり得ない感じになるとは言われてるけど」
あれって詐……綺麗ないし可愛く見せる為にするものであって、
元から完璧な容姿を持ってる水橋を盛っても、バランス崩れるだけだと思う。
となると、可愛く云々ではなく『盛る』という行為自体を体験したいのか?
そういった経験無さそうだし、そう考えた方が自然。
「思い出作りってことでさ、いいかな?」
「いいけど、相手俺でいいのか?」
「ボクは藤田君と撮ってみたかったんだけど」
落ち着け俺。これは友達としてのアレだ。
他意はないんだ他意は。勘違いすんな脇役が。
「んじゃ、行くか。……俺、初めてだな」
「ボクも初めてだから、初めて同士楽しもっ♪」
だから他意はないんだと言ってるだろがこのゴミクソ脇役野郎が。
その邪な考えを今すぐ捨てろ。いっそ脳みそごと。
プリクラコーナーに入る姿を見られないように気をつけながら、垂れ幕をくぐって中へ。
操作方法とかさっぱり分からないから、お互い手探り。
「証明写真も撮れるんだね」
「相当違和感出るだろうし、あんまり使えないだろうけどな」
「ボクもそう思う。少なくとも履歴書とか学生証は絶対無理だし。
素直にスピード写真か、写真屋さんにお願いした方いいよね」
「それな。っと、もうすぐか。……え、5枚撮れんの?」
画面の指示に従って、撮影モードへと移行する。
……それにしても、今日はこれで密室に二人でいるのは2回目か。
カラオケ程きっちり区切られてる訳ではないけど、空間はこっちの方が狭い。
更にツーショットだから、必然的に距離は近づく。
「ポーズどうしよっか? 折角だし、5枚とも違うのにしたい」
「まずピースだろ、それから……それから……ダメだ浮かばねぇ」
「適当に位置変えてみない? 左右入れ替えたりするだけでも違うと思うよ」
「そうか。って、もう始まるぞ」
機械音声の指示に従い、とりあえずピース。
水橋も同じくピースで1枚目。
結果、自然な笑みを浮かべる水橋と、ぎこちない笑顔の俺が撮れた。
「緊張してる? ボクと藤田君だけなんだから大丈夫だよ」
(だから緊張してるんだが)
写真撮影で緊張することは左程ないタイプだから、原因はそれしかない。
俺に限らず大体の男は……いや、透とか翔辺りは普通に乗るし、陽司も免疫あるか。
……あれ、俺と秀雅ぐらいしか該当しないんじゃね?
「藤田君? 何か難しい顔してるのが撮れちゃったけど」
「え? ……うわ、これは酷ぇ」
心ここにあらずというか、完全にボーっとしてるところが撮られた。
うん、せめてこの撮影の間ぐらいはちゃんとしてよう。
気を取り直して3枚目。何故か、水橋が俺の後ろに回った。
「ちょっと中腰になれる?」
「あぁ。こんな感じ?」
「そうそう。そしてこう」
肩を掴まれる感触。丁度、俺の上に水橋の顔が映る形。
左右の次は前後並びで、3枚目が撮られた。
「ほら、今度は入れ替わって」
「あ、あぁ……」
俺が後ろになって……ちょっと待て。肩持っていいのかこれ?
普通持つべきじゃないよな。でも、さっきの形だと……ええい、ままよ!
「んっ……」
中途半端なままで撮られるのが一番ダメだと思ったから、しっかり掴んだ。
妙な声を出されたが、お互いにそこそこいい表情で撮れた。
「最後は……そうだ!」
何かを思いついたように左手を顔、右手を頭辺りの高さにして、
鉤爪のように指を曲げると。
「がおー♪」
とびっきりの笑顔で、楽しげに。……可愛すぎか!
そして言わずとも目で分かる! 「藤田君もやろっ♪」だな!
よっしゃやってやるわ!
「……俺、捕まるんじゃね?」
「そこまで卑下しなくても」
最後の撮影、終了。
水橋は満面の笑顔。ひたすら可愛い。
俺は気持ち悪い笑顔。全体的に漂う犯罪臭。
緊張具合と素材の差が見事に現れた形となった。