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75.俺が乗車券だ

花火大会が終われば、後は帰るだけなんだが……ここで気付いた。

俺、海さんの車に乗るのはまずいか?

行きはともかく、帰りは問題がある。透の存在だ。

乗車してる所を見られたら、変に勘繰られて面倒なことになりかねん。

ここは連絡取るか。メールなら、透にもバレないはず。


1分後、水橋の携帯に着信が入った。

「お兄ちゃん」と言ったから、相手は海さんか。

俺への返信じゃなくて、水橋に電話……?


「じゃ、お願いね。……皆、私のお兄ちゃんが車で迎えに来るんだけど、

 よかったら、乗ってく?」


そういうことか。全員まとめて乗せてしまえば、不自然じゃない。

ワゴン車なら、4人は十分定員内。

そういうことなら、何ら問題にならない。


「ラッキー! それじゃ頼むわ!」

「私もお願いしようかな」

「俺も。ありがとな、水橋」


海さんが機転を利かせてくれたおかげで、帰りも乗せてもらうことになった。

ありがたく、乗らせてもらいます。




「お待たせ! それじゃ好きな席に乗れよー。あ、雫は助手席な」

「えー、雫は後部座席でしょ? そっちの方広いし」

「お前、名前は?」

「神楽坂透でっす!」

「じゃ、透が助手席な」

「何で!?」

「何か問題でも? うちの雫の隣に座っていい男は俺だけだからな?

 お兄ちゃんとして、雫に悪い虫をつける訳にはいかねぇんだよ」


海さんは、透を水橋の隣に乗せたくないらしい。

初対面でこの対応となると、これは相当嫌ってるっぽいな。

もっとも、そこで考えると俺も隣に座ったらダメな対象だけど。


「私は助手席に乗るから、皆は後ろに乗って」

「ということで、後ろの適当な所に乗れ」

「ういーっす……鞠、乗ろうぜ」

「うん」


助手席に水橋、後部座席は奥から順に透、穂積、俺。

全員乗車後、シートベルトを装着し、ドアが締まっていることを確認して、

車は走り出した。


「ていうかお兄さん? 悪い虫だったら怜二の方がよっぽどッスよ?

 こいつ今日、衆人環視の中で雫押し倒しやがったから」

「おい、それマジか」

「ステージの照明が落ちてきて、それから私を守ってくれた」

「あぁそういう。怜二やるじゃん」

「いや、でもそのせいで雫が捻挫したんスよ!」

「痛みは引いてるから、明日には歩ける。

 照明に当たったらそれどころじゃなかった」

「えぇっと、あと……あと何か……」

「透、どうしたの? 怜二くんは何も悪いことしてないよ?」

「うん、そうだよな……」


ものの見事に自爆したな。穂積も不審に思ってる。

俺の評判を落として、相対的に自分を上げるつもりだったのかもしれんが、

残念ながらお前の評価はもう、ほぼ最低値なんだよ。


「で、お前らの家ってどこ?」

「私が一番近いと思います。この先を左ですね」

「俺も一緒の方向。怜二は俺ん()の隣」

「ほいほーい。ところで雫、その風呂敷の中何だ? ボール?」

「すいか」

「すいかか。……スイカ!? どこで買った!?」

「輪投げで取った」

「輪投げ!? あれ取れるもんなのか!?」

「投げたら入った」

「そりゃ投げないと入らないけど! 投げないで入ったら瞬間移動だけど!

 あれ箱とか人形に入れないと貰えない特別景品だろ? すげぇな!」


そりゃ海さんも驚くよな。普通不可能だし。

他にも数字合わせで万分の一の当たりを引いたりとか、とんでもないことやったけど。




穂積、水橋の順に家に到着して下車。

雫は少し足を引きずる感じはあったが、海さんの補助もあって無事に玄関まで行けた。


「じゃ、後はお前ら二人か。家、隣なんだな」

「幼馴染なもので」

「こいつ昔からどん臭くて。小学校の時……」

「透、お前は幼馴染を愚弄しないと死ぬ病気にでも罹ってるのか?

 俺は初対面でそういう話をする奴は大っ嫌いなんだよ」

「ちょっとした冗談じゃないっすかー」

「場と相手と身の程弁えろ。これ以上つまらんことほざいたら即降ろすからな」

「へーい」


……仮に俺を貶めて相対的な評価を上げたいんだとしても、不自然だな。

いくらなんでも、ここまで無理のあるディスをするような奴じゃなかったはずだが。


「で、祭りはどうだった?」

「楽しかったですよ。屋台も一通り回れましたし。

 ……大事な妹にケガさせてしまって、本当にごめんなさい」

「謝んなって。本人が何言ったか聞いたか?

 お前は雫の、そして俺の恩人だよ。雫を守ってくれてありがとよ」

「怜二はそんな大したことしてないですって!

 こいつは妹さんにニヤニヤしながら……」


車が止まった。

水橋の家から少し走らせた程度。家まではまだ距離がある。


「……言ったよな。降りろ」

「へ?」

「降りろと言ったのが聞こえなかったのか」

「いやいや、何言って……」

「こっちのセリフだボケ。この車は俺の物だ。誰を乗せるかは俺が決める。

 お前は俺の車に乗る人間として相応しくない。

 ……こうして、俺がまだ静かでいる内に降りろ」


海さんは、本気で透が降りるまで動かないらしい。

エンジンを切って、キーを抜いたのがその意思の表明。

透は冗談だと思っていたらしいが、事は全く違っていた。


「勘弁してくださいよ。ほら、怜二も言ってやって」

「何を?」

「何って、分かってるだろ?」

「俺は何も言えないし、何も言わない。

 お前のやったことだ。何かあるならお前が言え」

「怜二……テメェ……!」


逆ギレするかと思ったら、言葉が出てこなかったらしく、車を降りた。

そして乱暴にドアを閉め、家へと走って行った。


「これで、いいんですよね」

「100点だ怜二。そのご褒美に、俺と夜のドライブといかねぇか?

 ちょいと話したいことあるんだ。時間はそこまで取らせん」

「親に連絡入れるんで、少し時間下さい」

「繋いだら俺に回してくれ。お願いするのは俺だからよ」


アドレス帳から『自宅』を選び、電話をかける。

出てきたのは親父。軽く説明して、携帯を海さんに渡す。


「お電話代わりました。息子さんの友人の兄の海と申します。

 いつも妹がお世話になっております。……はい、はい。えぇ、責任持って送ります。

 はい、かしこまりました。恐れ入ります。では」


電話が終わった。

俺に携帯を返しつつ、もう片方の手でOKサインが作られている。


「じゃ、付き合ってもらうぜ」


来た道を逆走し、再度街へと車が走り出した。


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