7.n股でも考えてるんかね(nは2以上の自然数とする)
翌日、学校。
透は今日も、水橋に絡みに行ってる。
「よう水橋! 今日は何を読んでるんですかい?」
「静かにして」
「そんなつれないこと言わないでさー、教えてくれよー♪」
「………………」
「だんまりー? ねー、何読んで……」
「おはよう透! 雫ちゃんもおはよう!」
「よう、鞠。今日は髪型変えたん?」
「ちょっと気分転換してみたんだ。似合ってる?」
「あぁ。鞠は基本何でも似合うけどな」
「もー、透ったらー♪」
穂積ですら挨拶止まりか。
水橋に関わろうとしないのか、水橋が関わろうとしないのか。
気になるけど、穂積に聞くわけにはいかんから、水橋に聞くしかない。
今の所、水橋に気軽に話しかけてるのは透だけ。
それもほぼ一方的に透が絡んでるだけだし、『会話』にはならない。
つーか、こいつは水橋に絡む前に、さっさと決めるべきことがあるんだが。
その日の昼休み。
「なぁ透」
「どしたー?」
「お前さ、結局誰と付き合うんだ?」
透と特に距離が近い女子は、今の所4人。
しかし、『神楽坂透』は一人しかいない。
つまり、彼氏と彼女の関係になれるのは、誰か一人なのだが。
「んー、どうなるんだろうなー」
「どうなるんだろうなって、お前他人事みたいに……」
「いや俺なりに結構考えてる。その内決めるから」
(……去年も同じこと言ってただろうが)
最後の言葉は、心の中で留めておく。
去年、ここを突っ込んだら逆ギレされて、透ファンの女子から総スカン食らった。
一ヶ月くらいでほとぼり冷めたとはいえ、二度とあんな思いはしたくない。
「で、今日の弁当は誰から?」
「雲雀先輩から。ということで和食系」
穂積、門倉、古川先輩。この3人はそれぞれが、透を好きであることを察している。
しかし、これといって揉め事は起こらず、透の曖昧な態度もそのまま。
手作り弁当に関しては、日替わり形式ということでまとまった。
このローテに、今年入学の八乙女が入るのは時間の問題。
俺は基本購買。本日はコロッケパンとお茶で、しめて258円也。
300円以内に収めるのが鉄則。
『かくさあるけどしかたないじゃない とおるだもの れいじ』ってか?
「いいよなお前は」
「そんなことないって。それより、お前も彼女作ったりしねーの?」
「出来ると思うか?」
「諦めたらそこで試合終了だぜ?」
「補欠にすらなってねぇんだがどうしろと」
決勝戦すらいらない優勝シード権持ってるお前には分からんだろうよ。
レギュラー争いにすら負ける凡人の気持ちは。
「なぁ透、お前水橋まで惚れさせようとしてんの?」
「そんなんじゃねーって。ちょっと仲良くしたいだけだっての」
お前の『仲良く』はハーレム拡大と同義だからな。
言葉通りには受け取れねぇよ。
ただ、女子には無条件で惚れられる中、水橋だけはオチてねぇんだよな。
素性を出してくれれば、攻略の糸口も見出せるんだろうけど。
そこだけで言えば、俺は半歩進んだが、今は悩みの解決が先だ。
それと。
(穂積に門倉、古川先輩に八乙女……)
入学から一年で、透の周辺にいる女子はそれなりに固定した。
大体の女子は彼女を諦め、ファンとしてついていく。
そんな中、彼女になりそうなポジションにいるのはこの4人。
考えてみたら……透と接点らしい接点、あったか?