表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/236

67.分かっちゃいたけど呼んでねぇ

左右に並ぶ屋台を見ながら、二人で歩く。

少しした所にあった綿菓子の出店に、水橋が駆けて行った。


「わたあめ1つ」

「あいよ」


「ジャンボ焼き鳥、タレで1本」

「200円です」


俺は隣の店にあった焼き鳥を買う。

……本当にデカいな。大口開けるか、かじり取っていかんと食えんサイズだ。


「お待ち。500円だ」

「はい」


かき氷と並んで、原価が特に安い出店の一つ、綿菓子屋。

まぁ、お祭りで原価を気にするのは野暮ってもんよ。

綿菓子が作られるところを見てる水橋の笑顔は、500円どころじゃない価値あるし。


「おっきいな……どこから食べよう」

「二人揃って、初手から大きいの買ったな」

「確かに。けど、荷物多くなってから買うよりはいいかな。

 多分、この後ボクの手は何かしらの食べ物で塞がってるから」


食う気満々だな。けど、確かに縁日の出店はメシ重視になる。

何故かと言えば、小中学生辺りで『祭りのくじ引きに当たりは無い』という、

大人が教えない大人の卑怯さに気づくからだ。


「1回お願いします」

「あ?……300円」

(……って)


いや、楽しみ方はそれぞれだから、口は出さないけど。

水橋、お前は未だに数字合わせの夢物語を信じて……


「1番って何ですか?」

「ハァッ!? 1!?」


スキンヘッドのガラの悪いテキ屋が、めちゃくちゃ驚いてる。

あれ、確か数字合わせのクジって、1桁台だと……


「景品表ありますね。えっと、お好きなゲーム機1台」


大当たり、ゲーム機本体。

絶対に当たることの無いはずのものが当たった。


「じゃ、これ頂きます」

「おい待て! 勝手に持っていくんじゃねーよ!」

「え? ここに書いてありますよね、1番は……」

「それは景品じゃねーよ! 返せ!」


案の定ゴネやがった。この感じを見るに、数字の抜き忘れがあったんだろうな。

そして、ここはボディーガードの出番。水橋にケガさせる訳にはいかねぇ。

ガタイからすると大分強そうだが……殴り合いで倒す必要はない。


「水橋、警備員呼んでくれ」

「う、うん」

「宜しく。……お兄さん、一回落ち着きましょう」

「何だテメェ!」


喧嘩で勝てそうな感じはしないし、なるべくなら暴力も振るいたくない。

だから、穏便に解決させる。


「まず、状況を整理しますね。彼女が引いたクジは1番で、これが景品表。

 1番は……好きなゲーム機の本体を1台……」

「うるせぇ! そんなんやれるかよ!」


まずはなるべくゆっくりと、かつ刺激しないように喋り、時間を稼ぐ。

景品に囲まれた屋台から、俺がいる道までは結構距離があるから、手は届かない。

屋台と屋台の間も狭いから、回り込んで出るには時間がかかる。

つまり、ここからは口喧嘩までにしかならない。


「皆も見たよな? さっきの青い浴衣の女の人が、クジで1番引いたの」

「見たー!」

「オレも見た!」

「わたしもー!」

「おっ、おい! 集まってくんじゃねぇ!」


適当な所で、この手の店に集まりやすい子供を証人にし、騒がせる。

小さな子供には、威圧的に出られない。泣かれでもしたらヤバイから。

だが、こうすればどのみち目立つから、ちょっと待てば……


「この店です」

「ここですね。どうも、警察です。許可証をお見せ頂けますか?」


すぐに来て頂ける。

これが、血を流さない解決方法の最善手だ。


「じゃ、お願いします」

「はい。ご協力ありがとうございます」

「おい待て! 顔覚えたからなこの野郎!」


はいはい、三下の捨てゼリフどうも。

俺と水橋はお祭りを楽しみたいだけなんだよ。知ったこっちゃねぇわ。


「ごめんな、金までは取り戻せなかった。代わりに何か奢るわ」

「そんな、いいよ。……また、守ってくれたし」

「ま、アレは忘れろ。祭りはこれからだろ?」

「……うん」


花火の時間はまだ先だし、その間には色々とイベントがある。

食べたり飲んだりしながら、ゆるーく楽しもうぜ。




しばらく歩いて見つけた休憩所。

丁度良く、二人用のテーブル席が空いていた。


「水橋、足大丈夫か?」

「うん。昨日、下駄の履き方を色々試してみたんだ。

 ちゃんと歩くのは今日が初めてだけど、今の所大丈夫」

「痛かったら言えよ。俺、絆創膏持ってるから」

「そうなんだ。それじゃ、その時はお願いするね」


組み合わせとしては自然なんだろうけど、下駄で来るとは思ってなかった。

歩くスピードと歩幅は意識したけど、表情にも気をつけないと。

気にかけすぎるとウザがられるが、痛みを訴える前にケアをする。

それが、デキる脇役の条件だ。


「それにしても、暑いね……ここは扇風機置いてあるから、まだいいけど」

「だな。……お、いい扇子だな」

「これも自分で選んだんだ。……あ、もしかしてダジャレ?」

「違ぇよ。確かにいいセンスでもあるけど」

「ふふっ、冗談だよ。褒めてくれてありがとう」


扇子で仰ぐ所作が、非常に画になる。その姿をこの距離で見られる。

それだけで、この夏祭りに来た甲斐がある。

願わくば、もうしばらく……




「あれ、怜二?」




「……よう、透」


白の細いラインが走る、グレーの甚平を着た幼馴染と遭遇。

分かってたよ。このまま上手くいくはずなんてないって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ