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64.破裂

誰にも邪魔されることなく、門倉の下へ。

秀雅がうまいことやってくれたんだろうな。少し冷静になれば、

『とにかくプールにいる人に声をかけて捕まえるようにする』という手が浮かぶが、

思考がそこまで辿り着かないように引っ掻き回してくれたっぽい。


「藤田君? 丁度良かった、私の……」

「ほらこれ。更衣室か、何かの陰で……」

「あら、あなたもたまには役に立つのね。それじゃ」


……だからこいつは何でいちいち人をムカつかせることをのたまうのか。

礼の言葉の一つも無いのは、状況的に余裕が無いからということにしても、

その一方で嫌味言える余裕はあるんかい。


まぁ、何はともあれ、この後にでも門倉を連れて来れば、誤解は解けるだろ。

ったく、楽しいプールのはずが、面倒なことになったもんだ。

後で秀雅には礼しねぇとな。帰りにアイスでもおごるか。




「秀雅ー」

「おう! 終わったか!」

「門倉は更衣室行った。その内戻ってくる」

「お疲れさん! ……で、そのガキが?」

「門倉の水着泥棒、そして俺の海パン下ろしの犯人」


戻るついでに捕まえた。

親御さんが未だ見つからないが、俺と秀雅、何より被害者の門倉がいれば、

流石に言い逃れはできないだろ。


「オレは何にもやってねーよ! 離せー!」

「怜二、お前そこまでするとか……いい加減認めろよ」

「やってもいねぇことを認める訳にはいかねぇよ」

「透、もういい。監視員さんや、気持ち悪い顔した俺が信じられないっていうなら、

 門倉の話を聞いてくれよ。被害者本人の話なら、信じるしかないだろ?

 俺としては、顔の優劣で信じるか信じないかを決めるの自体おかしいけど」

「僕くらいになるとさぁ、目を見ただけで分かっちゃうんだよね、嘘ついてるかどうか。

 いやはや、目が良過ぎるのも大変だよ。余計な仕事増えちゃうし」


監視員さん、アンタの目よりビー玉の方がマシだ。

眼球を取り替えるのを勧めるよ。


「……怜二。そのガキの親、探しに行こうぜ。

 これで親がモンペだったら、最悪だけど」

「あんまり遠くまでは行かない方いいな。門倉もすぐ戻ってくるだろうし」


話の分からん相手と話をしても、何の意味も無い。

勘違いを証明する手立ては確保できたが、それまでの時間を無益な論争に使う必要も無い。

この後のゴタゴタの事前準備、進めるか。




「うちの息子が、とんだご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!」

「いえいえ。子供のしたことですし、私は気にしてませんから」


幸いにも、クソガキの親御さんは非常に話の分かる方だった。

門倉もきちんと証言してくれたし、俺と秀雅の疑いも綺麗に晴れた。


「監視員さんよ。お前、俺に言うことあるよな? 誰が犯罪者予備軍だって?」

「この度はうちの者があらぬ疑いをおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした!

 お詫びといってはなんですが、お帰りの際にお声下さい!

 本日の料金を返金させて……」

「いらねぇよ。それより、そいつクビにしてくれ」

「えっ!? あの……恐れ入りますが、今人手が……」

「足りないから何だ? こんな冤罪ふっかける奴も使うと?」

「そういうわけでは……」


監視員の方も、上位役職者の隣で縮こまってる。

そりゃ、やらかした事が事だからな。……さて。


「透」

「……何だ?」

「とりあえず、謝れや」


好き勝手ほざいてくれやがったな。

最低限のことはしてもらおうか。


「まぁいいだろ。ちょっとした勘違いなんだから、許せ」

「ハァ!?」


なんとなく、そうなるだろうなとは思ってたけど、

この期に及んで、謝ることもできねぇのか!?

それで許されるとでも思ってるのか!?


「お前……!」

「藤田君。あなたは過ぎたことをいちいち引きずりすぎ。

 友達なら、多少のことぐらい許し……」

「許せる訳ねぇだろ!」


水面を思いっきり叩き、怒りを露にする。

俺はもう、流されるままに生きるのはやめたんだよ!

こんなふざけた道理が通っていい訳ないだろうが!


「身勝手な勘違いで人のことボロクソ言った挙句、謝りもしないで「許せ」?

 ふざけんじゃねぇよ! 何よりもまずは「ごめんなさい」だろが!

 門倉も門倉だ! 礼の一つも無ければ、何で透にそこまで肩入れすんだよ!

 本当の友達っていうのはなぁ、何でもかんでも許すもんじゃねぇよ!

 過ちをちゃんと指摘できて、それを受け入れて謝った時、初めて許せるんだよ!

 仏の顔だって三度までだ! 俺は仏じゃねぇんだよ!

 こんな簡単なことも分からねぇのか、この大バカ野郎共が!!!!!」


あー! 怒りを言葉にしたら、クソムカついて来た!

何で俺は今まで流せてきたんだろうな!? 不思議で仕方ないわ!

透は謝らねぇ! 門倉は無理筋の肩入れ! ムカついて当然だ!

今思えば、過去にも怒鳴るべき場面いくらでもあったな!

どこかで自分のやらかしに気づかねぇかなと思ってたけど、こいつはバカだ!

こうでもしねぇと、絶対に気づかねぇ!


「怜二の言う通りだ。特に門倉、お前って何でそこまで透の肩持つんだ?

 はっきり言って、異常だぞ?」


一頻り怒鳴り散らしたら、秀雅も加勢してくれた。

俺も分からねぇ。何で門倉は、ここまで透を盲信するんだ?


少し、沈黙が続いた後。


「……あなた達には、分からないわよ」


何も解明しない回答だけ残して、門倉は更衣室へと戻っていった。




結局、透が謝ることはなかった。


いくら言っても、「いいだろ?」「落ち着けって」「分かったから」しか言わず、

最後は「うるせぇ!」と言って、逃げるように出て行った。


「……怜二。お前の幼馴染は、どうやら相当にイカれてるらしいな。

 お前が望むなら、復讐の計画とか立ててやるぜ?」


秀雅も、今となっては監視員よりも透にイラついているらしい。

それも当然だ。秀雅にも、透は謝ってねぇんだ。

復讐という言葉が出てくるのも当然だし、俺もそれぐらいムカついてる。

……けど。


「いや、その必要はない。あいつとの付き合いは考え直すけど」

「相変わらず優しいな……お前がそう言うなら、いいけどよ。

 でも、気が変わったらいつでも言え。俺も加勢する。

 鉄人・東秀雅は、ゲームと友達(ダチ)を大切にするんだ」

「ん。その時は宜しく」


透がこういう奴だと分かった所で、ここは一旦下がろう。

あいつをどうするかは、これからゆっくり考えればいい。

それに、透に手を下すとしても、それは俺自身だけでどうにかする。

大切な友人の手を汚すような真似をしたら、俺も下衆野郎になっちまう。


透。全てのことが思い通りに行くと思うな。

もう、お前の幼馴染は、お前を守っちゃくれねぇんだからよ。




――――――――――――――――――――――――――――――




「……っ!?」


藤田くんが、思いっきり水面を叩いた。

その勢いのまま、大声で怒鳴ってる。


前、藤田くんを部室に呼んだ時、優しい人って思った。

私の作品を読みたいって言ってくれたのは、藤田くんで二人目。

他の人は、透くん以外はからかいでしかなかった。

けど、藤田くんはすごく真剣に読んでくれた。

それに、透くんみたいに褒めるだけじゃなくて、具体的な感想をくれた。


『いいストーリーですね。展開も飽きさせませんし、惹きつけられます。

 もっと心理描写をリアルにすれば、さらに面白くなると思いますよ』


その藤田くんが、物凄く怒ってる。

あの時、私の作品を読んでくれた人と、同一人物とは思えないくらいに。


だけど、その理由は分かる。

透くんは、藤田くんのことを勘違いしたんだから。


門倉さんの水着を取ったのは、藤田くんじゃなくて、小さな男の子。

透くんは何故か、藤田くんが犯人だと思ったみたいで、藤田くんを責めてた。

私が違うって言えばよかったのかもしれないけど……ただ傍観していた。

二人の間に、割って入る勇気が無かった。そのせいで、藤田くんを傷つけた。

そして……藤田くんは、爆発した。


私のせいで、藤田くんを怒らせてしまった。

……だけど、分からないことがある。


(透くん……何で、謝らないの?)


藤田くんが怒っているのは、誰の目にも明らか。

本当なら、私だって怒られて当然だし、謝らなきゃいけない。

……なのに。


「カス野郎だのなんだのほざいて、謝ることもできねぇのか!」

「分かった分かった。まぁ、落ち着けって」


透くんは、全然謝ろうとしない。


「お前……!」

「うるせぇ! もういいだろが! 帰る!」


透くん……

……謝らなきゃ。


「藤田くん、ごめん!」

「あ、先輩。何のことですか?」

「私、見てたんだ。門倉さんの水着を男の子が取ったところ。

 だから、私が説明すればよかったんだけど……」

「いや、その必要はないですって。むしろ、謝るのはこっちですよ。

 お見苦しい所見せちゃってすいません」

「そんな……そんなことは!」

「それより、あれからナンパ野郎来てませんか?」

「え……うん、大丈夫だけど……」

「またそういう奴来たら、俺呼んで下さい。

 透はあの通りというか、もう帰っちゃいましたし」


私が知らない男の人に話しかけられた時、透くんは、私を助けてくれなかった。

私は、知らない人……特に、男の人が苦手っていうことを、透くんは知ってる。

助けて欲しいって言った訳じゃないから、分からなかったのかもしれないけど……


(透くん……)


……違う、悪いのは私だ。

私がしっかりしてないから、透くんは拗ねちゃったんだ。

だから、悪いのは私。いつだって、私はろくでなしなんだから……




――――――――――――――――――――――――――――――




「友達なら、多少のことぐらい許し……」

「許せる訳ねぇだろ!」


藤田君の引きずり癖を指摘すれば、収まると思った。

けど、そうならなかった。何故かは分からないけど、

藤田君はいつもの藤田君じゃなくなったみたい。


「こんな簡単なことも分からねぇのか、この大バカ野郎共が!!!!!」


私だって、そう思った。透君は謝る必要があるって。

それなのに、透君は謝らなかった。つまり、私は何かを見落としている。

謝らないのには、それ相応の理由があるはず。


「怜二の言う通りだ。特に門倉、お前って何でそこまで透の肩持つんだ?

 はっきり言って、異常だぞ?」


……そんなこと、ありえない。仮に私が異常だとしても、透君は悪くない。

絶対に、絶対に、透君は間違ってない。


「……あなた達には、分からないわよ」


透君は、絶対に正しい。この二人が愚かなだけ。

腰巾着の凡人と薄汚れたゲーム廃人が透君より上だなんて、絶対にありえない。

そうじゃなきゃ、私は……

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