表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/236

63.冤罪論理

「ちょっと、待ちなさい!」

「やだよーだ!」


片腕で胸を押さえながら、逃げる子供を追う門倉。

ただでさえ体力ない上、この状態じゃ年齢差があっても差は縮まらない。


(透はいないな。んじゃ、俺が行くとするか……ねっ!)


潜って蹴伸び、そしてクロール。

クソガキ様は見た感じ小3か4。ったく、色づきやがって。

灸を据えてもらうのは親御さんに任せるとして、とっとと解決するか。




人混みの中を縫うようにして泳ぎ、あっという間に目標到着。


「おい坊主。それは誰のだ?」

「ゲッ! ……えっと、母さんの!」

「嘘つけ。返してもらおうか」

「やだねー!」

「…………」

「痛い!」


強度が分からないから、水着を引っ張るのは危険と判断。

代わりに指を引っ張り、握る手から離れた水着を取り返す。


「悪戯にも限度がある。親はどこだ?」

「えー……いや、えっと……」

「まぁいい。ここから動くなよ?」


門倉は……そこか。ここからだと、一旦プール上がった方が早い。

それじゃ、渡しに行くか。持ってたらいらぬ勘違いされそうだし。

あと、これ渡したらこいつの親を探して……


「うりゃ!」

「うぉっ!?」


このガキ、俺の海パン下ろしやがった!

まだ懲りないのかこのクソガキ!


「お前何してんだ!」

「へっへー! さよならー!」


こいつ……! 絶対許さねぇ!

ここまで好き勝手されて黙ってられっかよ!


「この野……」

「ちょっと君。何してるの?」

「へっ?」


目の前には、プールの監視員の方。

何ですか? 俺は何一つとして問題のあることは……


(……あっ)


ここで一旦、現在の俺の状況を確認してみよう。


右手には黒のビキニの上。

クソガキの置き土産のせいで、海パンから出たらアカンものが出てる。

加えて全力で泳いだので、若干息が荒い。


「俺じゃないです! あのクソガキが!」

「その兄ちゃんがやりました!」

「お前、この野郎!」

「はいはい。上がった上がった。話は向こうで聞くから」


どっちに分があるかってなったら、そりゃクソガキだわな!

事実は全く違うけど、この場面見たら誰だってそう思うわ!

脇役補正なのか!? ここで補正発動したのか!?

まともなことやっても報われないどころか、酷い目に遭うっていう!


「あのねぇ、子供ならともかく、君ぐらいになるとまずいからね?」

「だから違うんですって! あのガキがやったのを取り返して……」

「分かった分かった。みんなそう言うんだよ」


……最悪だわ。

その内噂広がって、下手すりゃ休み明けには学校でも……


「ちょっと待ったーっ!」


突然、右から叫び声。しかも知ってる声の。

あ、そういえば。


「そいつは何もやってません!

 怜二はあの子供が門倉の水着取ったのを取り返しただけです!」


サイダー2本を手に現れた救世主は、秀雅。

飲み物買って戻ってくる辺りで、事の顛末を見てくれていたらしい。


「え、そうなの?」

「天地神明に誓って! 俺のこの目で見ました!

 海パンがえらいことになってたのもあのガキが下ろしたせいです!」

「怪しいな。じゃあ何で息が上がってるの?」

「結構な距離泳いでから怒鳴って、息が上がらないほうがおかしいですって!」

「ふーん……」


半信半疑という感じ。

というか、まず水着をさっさと門倉に返したいんだが……


「なんなら、水着取られた本人に聞いて下さいよ!

 そうすればハッキリするでしょう!?」

「まぁ、それもそうか。で、誰なの?」

「向こうの……ウォータースライダーの降り口辺りにいる女です」


秀雅、助かった。

お前のおかげで、俺の2学期以降の学校生活は守られた。

恩に着るよ。


「そこまで言うなら行こうか。……あー、あの娘?」

「そうですね。じゃ、さっさと誤解を……」




「行く必要ねぇよ」




……おい、マジか。

秀雅以外の知ってる声が、最低最悪の言葉をほざき始めたんだが。


「怜二、見損なったぞ。お前がこんなカス野郎だとは思わなかった」


透、こっちのセリフだっての。

こいつは現場見てないか、中途半端に見たかのどっちか。

いずれにしても、思いっきり勘違いしている。


「監視員さんすいません。俺のツレがバカやって。

 連れてって大丈夫ッスよ。水着は俺が返します」

「あぁ、やっぱり? 僕も思ったんだよ。見るからにやりそうな顔でしょ?

 絶対嘘ついてるって分かってたんだよ。後から出てきたのも気持ち悪い顔してるし」

「……あ? おいテメェ、それ俺のことか?」


容姿からの印象で決め付けられた。

昔からよくあった。言ってる内容じゃなくて、顔でどっちが正しいか決められることは。


「心の汚さって顔に出るの。君、オタクっていうの? 犯罪者予備軍風情が何言ってんだか」

「ハァ!? 俺がブサイクでオタクなことは認めるけどよ、オタクが犯罪者予備軍!?

 お前何年前のステレオタイプ持ってんだよ!」

「はいはいうるさいうるさい。僕ね、君みたいなオタク族大嫌いなの。

 こんな明るいところに来て貰っちゃ困るの。案の定問題起こすしさ」

「だから言ってんだろ勘違いだって! 本人に聞けば分かることだろが!」

「秀雅。お前麻美がどんだけ辛い思いしてるのか分かってるのか?

 俺が返すから、お前らはもう帰れ」


都合いいところだけ見られるのが主人公だとしたら、都合悪い所ばかり見られるのが脇役。

不確定事項があっても、顔からのハロー効果・デビル効果で解釈される。


だが、今回は幸い目撃者がいる。


「大体、お前どこから見た!? 怜二が水着持ってるとこだけだろ!?

 こちとら門倉が水着取られたところから見てんだよ!」

「嘘つけ。つーか、何で怜二のこと庇うんだ?」

「見たままの事をそのまま言ってるだけだ!

 アレだ、ラチ開かねぇからよ、門倉に聞けばいいじゃねーか!」

「バカか? 門倉を傷つけた張本人が近づいていいと思ってんの?」

「ならお前聞きに行けよ!」

「もっとバカ。聞くだけで傷えぐるってのに、できるわけねぇよ」


だから、真実を明らかにする為の方法を秀雅が提案しているんだが、

透は一向にそれを受け入れようとしない。

……さっきから思ってるんだけど、何より門倉にこの水着を返したい。


「怜二! ここは俺が持つから、門倉にその水着返して連れて来い!

 俺とお前なら、お前の方が早いだろ!」

「え、いいのか?」

「聞き返す暇あるなら早く!」

「……お、おう!」


あれ、こいつこんなカッコいい奴だったっけ?

だがこれはいい展開だ。それなら任せる!


「おい待てよ怜二!」

「お前の相手は俺だ! うぉりゃー!」

「うぉっ!? いでっ!」


秀雅が、透の足を掴んでプールに引きずり込んだ。

見事に体を数箇所ぶつけたな。これなら余裕で振り切れる。

さて、まずはこの水着を返しに行くか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ