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61.お前がやらなきゃ俺がやる(羽目になる)

「うおりゃー!」

「お客様!?」


係員の制止も聞かず、頭からウォータースライダーに突っ込む秀雅。

こういうふざけ方するタイプだとは知ってたけど、本当にやりやがった。


「あー……すいません、うちのバカが。後で言っておくんで……」

「そのようにお願いします……」


首やらかしても知らんぞ。

透に限らず、自業自得の件に関してはフォローしないって決めたから。


ここからは、辺りが一望できる。

透は普通のプールで門倉と水のかけ合い。

門倉はムキになるタイプだから、完全に我を忘れてるな。水しぶきが激しい。

古川先輩は浮き輪につかまって流れるプールか。

そういえば、そんなのもあったな。俺もこれ滑ったら行ってみよう。


「それでは、どうぞ!」

「……うらっ!」


うぉっ、思ったより速ぇ!

そして風を感じて涼しい! やっぱり夏は海とプールだな!




「あぁもう! 何で避けるのよ!」

「いや洒落にならねぇからそれは!」


降下先のプールを移動してると、人の輪っぽくなっている所が目に付いた。

その中心にいるのは、透と門倉。

いつの間にか門倉の手には、大型の水鉄砲が握られている。

カシャカシャと手を動かしてるのを見るに、空気を入れて発射するタイプか。


「私を見くびった罰よ! 喰らいなさい!」

「待て! 悪かったって! いや本当マジでぐぼぼ痛ぇっ!」


「うわ、痛そー……」

「おいおい、止めなくていいのか?」

「イケメン死すべし慈悲はない」

「ママー、あのおにいちゃんとおねえちゃ……」

「シッ、見るんじゃありません! お母さんが見ておくから!」


辺りもちょっと騒ぎになってるが、これはエンタメ的な意味だろ。

じゃれ合いの範疇に収まってない気もするけど、スルーでいいか。

だから透、目で助けを求めるな。自分で何とかしろ。




「怜二……流されるままに生きてちゃ、男として終わりだぜ」

「何言ってんだ」


流れるプールで直立不動って楽しいか?

なんか鍛えられそうではあるけども。


けど、ちょっとドキっとしたな。

今までの俺、本当に流されるままに生きてたなって思った。

秀雅にそんな意図はないだろうけどさ。

流れるプールぐらい、流されて楽しもうや。


(そういや、古川先輩大丈夫かな……)


万人受けはしないけど、刺さる人にはとことん刺さる格好。

先輩、ナンパ野郎に対するスルースキルがあるとは思えないし、

強引に振り切れる位の体力も期待できない。

となると……


「やぁ、こんにちは。お一人ですか?」

「え……いえ、友達と……」

「それはよかった。僕も友達連れてきてるんですよ。

 ここで会ったのも何かの縁ですし、一緒に遊びませんか?」

「えっと……」


そうなるよな。幸い、割と紳士的なタイプではあるみたいだが、

『友達』という部分から非常に危険な香りが漂ってくる。

直接引っ掛ける奴が表面上まともでも、その裏にいる輩がヤバい奴ということは

結構あったりするし、何より古川先輩が好きなのは透。

当然、誰とも分からない男と遊ぶつもりなんて全く無い。


これが水橋だったら、当然俺は割り込んだ。

だが、古川先輩であるなら、ある条件を満たしている時に限り、俺の介入の必要は無い。


「ったく、何もあそこまでやることねぇのに……」


その条件とは勿論、『透が近くにいる』こと。

透ハーレム女子のピンチとなれば、この男が動かないわけがない。

好都合なことに門倉から逃げてきたらしく、現場近くのプールサイドを歩いている。

ということで、対応は任せた。


「大丈夫ですって。僕の友達、みんないい奴ですから」

「その……友達が……」

「それじゃ、お友達も一緒にどうです? とりあえず来ましょうよ」

「先輩、何してるんですか?」

「あ、透くん!」


ついでに、お手並み拝見と参ろうか。

果たしてあいつは、どうやってこの状況を切り抜けるのか。


「友達ってこの人?」

「はい」

「先輩に何か?」

「僕、友達と来てるんだけど、一緒に遊ばないかなって。君もどう?」

「いいな。どこにいるんだ?」


は!?

何で乗った!? どう見たって先輩困ってるだろ!?

いや待て、これは一旦乗ったと見せかけて、ちゃんと引き剥がすっていう戦略だろ。

もしくはそもそもがナンパじゃなくて、健全な誘いか?

透がどう判断したかにもよるけど、それだったら特に何もしなくても……


「向こうのところ、いいスポットでさ。静かな場所なんだ。

 周りの目も気にしないで楽しめるし、どうかな」

「え……そこ、プールじゃなくて……」

「分かった。先輩、行きましょうか」

「えっ!?」


思いっきり監視員の死角じゃねーか!

穂積の時の一件からして、こいつはまともに働かねぇのか!?

ったく、結局俺がやることになるのか!


「古川先輩! さっき向こうで門倉が呼んでました!

 急ぎの用なんで早く!」

「えぇっ!? ……う、うん!」

「宜しくッス! ……で、お兄さん。

 誰もいない場所に先輩を連れ込んで、どうするおつもりで?

「いや……その……」


まず間に割り込んで物理的に距離を取り、適当な理由をでっちあげて、先輩を逃がす。

その後は上腕二頭筋に力を入れ、拳を握り固め、できるだけ怖い顔で睨みつける。

振る舞いからして喧嘩系はその友達とやらに任せるタイプだろうから、

コイツ自体はこうすれば引き下がってくれる。


「見なかったことにするから、お友達の元に帰ってもらおうか」

「そ、それだと僕が先輩達に!」

「知ったこっちゃねぇよ」


誰もかれもを助けることはやめたんだよ。

恨むなら、そんな先輩と付き合うことになった自分の不幸を恨め。

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