60.淡水浴
「暑ぅ……」
高温多湿、日本の夏。
さて、本来なら俺の部屋のクーラーは全力稼動のはずなんだが……
「何でこの時期に壊れるかねぇ……」
よりにもよって、この真夏にクーラーがぶっ壊れやがった。
俺の部屋はほぼサウナ状態。クッソしんどい。
塩水を飲んで、熱中症にならないようにするので精一杯。
「怜二ー? ちょっと来なさーい」
どうしたんだ母さん。息子は干からびたミミズになりかけているんだけど。
この状況で、何か手伝いとかは……
「チラシ整理してたら見つけたんだけど、これ、市民プールの優待券。
期限もうすぐだし、折角だから友達誘って……」
「ありがとうございます!」
お母様! 息子は信じておりましたよ!
部屋がサウナなら、外部から冷気を調達すればいいじゃない!
「あと、確か物置に扇風機あったから、部屋に持っていっていいわよ。
古いのだけどまだ動くから、修理まではそれで我慢しなさい」
「母さん。あなたが神か」
「大袈裟」
いやー、いいお母様を持って俺は幸せだ!
それじゃ、早速用意するか!
(これは、ちょっと意外な組み合わせになったな)
俺は男連中に連絡。来れるという返事が来たのは透と秀雅。
そして、透が透ハーレム女子に連絡したらしく、そこから古川先輩と門倉。
優待券は結構な枚数があったから、十分足りる。
「怜二サンキュー! ゲーム大会中止になったからヒマしてたんだよ!」
「東君、あなたはまだそんなのばかりしてるの? 課題は大丈夫なんでしょうね」
「知ってるか? 追い込まれた時の俺は強いぜ?」
「追い込まれないとやらないだけでしょ? 冗談は顔と成績だけにしなさい」
「おい待て。顔はともかく期末の成績は悪くないぞ、俺?」
「ゲームばっかりやってて成績いい訳ないでしょ? 採点間違えられてるんじゃない?」
「……って思うじゃん?
それが上手いこと毎回中の上に乗せてるんでごぜえますのよ」
「はいはい。そんな成績で喜ぶんじゃたかが知れるわね」
相変わらず、透以外の相手には成績で喧嘩売るからな、こいつは。
学年が違うからか、古川先輩にはしないようだが。
「藤田君、今日はありがとう」
「いえいえ。ところで先輩、こちらの服は自分で選んだんですか?」
その古川先輩は……驚いたよ。
なんとなんと、白のワンピースに麦わら帽子。黒髪で長身の先輩にはあまりにも映える。
さっき見た時、一瞬だけど背景が向日葵畑に見えたもの。
「そうだけど……やっぱり変、だよね。
ここに来る途中、色々な人に睨まれて……」
「いや、変じゃないですって。むしろ綺麗ですよ」
「……ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
正直な気持ちなんですけどね。
今日の先輩は前髪をピンで分けて、顔を出している。
そのおかげではっきりと分かったけど……古川先輩、やっぱり尋常じゃなく美人。
そりゃ、街にこんなモデルみたいな美人が歩いてるのを見たら、誰もが振り返る。
「じゃ、今日は思いっきり楽しもうぜ!」
「入る前に準備体操はしっかりね」
このメンバー、誰がどうなるかは分からんけど、あんまり気は回さなくていいか。
俺はしっかり、涼を取らせて頂きましょう。
市民プールということで、やっぱり一番多いのは親子連れ。
とはいえ、わりかしレジャースポットの毛色も濃い為、同年代もそこそこ。
流石に海ほどではないけども、活気は十分にある。
「怜二、お前相変わらず鍛えてるな」
そこまででもないけど、まぁ、やるにはやってるからな。
最近になってシックスパックも浮かんできたし、モチベーションは保ってる。
「お前もやったら? 筋トレ」
「ゲームに筋肉はいらないのだよ。音ゲー除いて」
秀雅も腹筋らしきものは浮かんでますが、単純にガリガリな為。
腕の太さを比べれば一目瞭然。
「ところで、委員長と先輩は?」
「そろそろだろ。……おっ」
それらしき女子二人が、こちらへと向かってきた。
……って、えぇっ!?
「お待たせ、透君」
「ごめんね、時間かかっちゃって……」
門倉はシンプルな黒ビキニ。普段の印象もあって、全体的にシュっとして見える。
あと、プールだから当然だけど眼鏡が無いな。コンタクトか?
そして、古川先輩は……私服に続いて驚かされたな。まさかまさかのスクール水着。
ご丁寧に白の水泳帽もかぶってる。
「髪、まとめるのに手間取っちゃって……」
「お疲れ様です」
「雲雀先輩、これはまた随分とニッチな」
「私、これしか水着持ってなくて……本当にごめんね、
こんな地味な格好で来ちゃって……」
いや、確かに色合いは地味だけど、その破壊力抜群のスタイルにスク水は反則ですって。
これ、下手しなくてもナンパ野郎寄ってくるだろ。
古川先輩もコミュ力高いタイプではないし、これはヤバいって。
「今度、一緒に買いに行きませんか? 俺が金出しますから」
「えっ、そんな……」
「だったら私も行くわ。先輩に似合う水着、一緒に見て回りましょう」
「大丈夫だって。俺、センスには自信あるからさ」
「透君のセンスは信頼してるわ。でも、同性の目線は必要でしょ?」
「んー……まぁ、そうなんだけどさ。先輩は落ち着いて回りたいですよね?」
「……うん」
「だからさ、門倉は大丈夫だから。ほら、別の機会にな?」
「夏場だけとはいえ、大切な買い物なんだから……」
「怜二、透をどう見る?」
「多分、先輩と二人きりで行きたいと思ってる」
「だろうな。合法的に先輩のエロエロボディをじっくり見れる訳ですし。
あの野郎……本当に美味しいポジションに居やがって……!」
どことなく焦っている門倉と、面倒臭そうにしている透。
二人きりで古川先輩と水着選びデートをしたい透と、それを阻止したい門倉、という構図か?
長引きそうだし、古川先輩が困惑している。……ここはちょっと、割り込むか。
「待て待て。決定権は先輩にあるんだからさ、お前らだけで話してても仕方ないだろ。
ですよね、先輩?」
「あ……うん、まだ水着はいいかなって」
「えー? 絶対先輩に似合う水着ありますって!」
「透君。先輩の意思を尊重しましょう。それより今度、私の水着選びに付き合ってくれない?」
「そうだなー……まぁ、ヒマだったら」
門倉は透一直線であることと、他の透ハーレム女子にライバル心持ってることを知ってれば、
自ずと答えは出てくる。
何よりも先輩の意思が大事だということは、少なくとも門倉は理解しているから、
そこをはっきりさせれば、透と先輩の距離を近づけないように動く。
透が腑に落ちないという顔をしているが、とりあえず成功だろ。
それじゃ、適当にプールで遊ぶとするか。
【サルの目:生徒データ帳】
・東 秀雅
ゲーム同好会(非公式)
ルックス D
スタイル D+
頭脳 B+
体力 C
性格 B+
【総評】
自称ゲームの鉄人。確かに腕前は相当。
成績さえまともなら何でも自由にやっていいという家庭の為、意外と頭はいい方。
恋愛関係はかなりのスペシャリスト。ただし3択出てる場合限定。
ルックスは酷いし、本人も現実は捨ててるということで、最低評価妥当。
友人としてはいいヤツなんだけどねぇ。
総合ランク:D