52.ジジイの人生論
「そうか……神楽坂君がなぁ……」
バイト上がり、速攻で戻った俺とサルは、シゲ爺に透のやらかしを伝えた。
大損害を喰らったシゲ爺は、怒りを通り越して呆れているように見えた。
「人を見た目で判断するものではないな。勝、藤田君。よく頑張ってくれた。
神楽坂君は初日の時点で、外すべきじゃったな」
「透の家電の番号教えます? 透が金持ってるとは考えにくいですし、
弁償が必要なら、親ってことになると思いますけど」
「いや、それは必要ない。元より儲けるためにやっているものではない。
ただ、神楽坂君の給料は大幅に減らさせてもらうがな」
俺が何かやらかした訳ではないが、申し訳なさで一杯だ。
けど、謝罪の言葉は決して口にしない。悪いのは100%透。
もう、あいつの為に俺が割を食うなんて真っ平だ。
「そういえば、メシは食えたのか?」
「あ……そういや、何も」
「賄い作るヒマなんてなかったしな。怜二、何か食いに行くか」
「すまんのう。良かったら、わしが作るぞ?」
「それじゃ……お言葉に甘えて」
「俺も頼むわ。夕食のこともあるから、軽くな」
「分かった」
修羅場を抜けたら、急に空腹を感じた。
まずは、激しく消費したエネルギーの補給とするか。
「ところで、勝に藤田君や」
「何?」
「何ですか?」
「コレ、どうなんじゃ?」
サルの面影をどことなく感じるニヤつき顔をしながら、立てた小指を見せる。
……年甲斐ねぇな、このジジイは。
「全然ですね。透一極集中なんで」
「透からおこぼれ頂いたりはしてるが、誰一人として引っかからずだよ」
「そうか。人は見た目で判断するものじゃないというのにのう。
穂積君や、水橋君はどうなんじゃ?」
「鞠は完全に透に恋してる。水橋はよう分からん。そもそもとして恋愛に興味ないのかも」
「いい加減はっきりしろって、透には何回も言ってるんですけどね……」
「ほう。というと?」
「はぐらかしっ放しですね。他にも何人かに好かれてますけど、まともに答え出す気、ほぼ0です」
「ふむ。そっち方面でもそういう男なのか。
男は女の話をすれば、どういう男か分かるもんじゃが、そこからすると、
神楽坂君は中々にろくでなしのようじゃな」
口にはしないが、否定しない。
今回の件もあるし、そろそろ穂積も愛想尽かすと、俺は見ている。
けど、穂積って心広いからなぁ……下手すると、明確にフラれるまで好きでい続けるかも。
「恋愛をするもしないも自由じゃが、するなら誠実にあれ。
わしも若い頃は、婆さんに散々迷惑かけちまったよ。今でも後悔してる」
「でもさ、最期は笑って逝ったんだから、トータルじゃ幸せだったと思うぜ。
あんな安らかな死に顔、見たことねぇし。その内起きてくるんじゃねぇかと思った」
シゲ爺の奥さんは、既に亡くなっているのか。
サルがシゲ爺に似てるから、その逆だとして……真面目な人、だったのかな。
「藤田君、勝。今を精一杯に生きろ。わしはもう、こうしてメシを食えるのも後2、3年じゃ。
全力で学び、全力で遊び、全力で楽しめ。それが、若さを持つものの義務じゃ」
「爺ちゃん、それ2、3年前にも聞いたわ。今年の健康診断はどうだった?」
「所見異常なし。せいぜい腰が少しばかり痛いくらいかの。
夢に出た婆さんにはゆっくり来なさいって言われとるし、まだまだ死ねんわな。はっはっは!」
「シゲ爺、長生きしそうだな」
「間違いない。爺ちゃんは殺しても死ななそうだし」
「まぁ、わしもいつかは死ぬが、それは今日じゃないし、明日でもない。
残り少ないとはいえ、今を精一杯に生きるのはわしも同じじゃ。
バイト、最終日までよろしく頼むぞ!」
「おう!」
「勿論です」
ふざけてるけど、面白くてカッコいい爺さんだな。
こうなりたいとまでは思わないけど、理想的な老い方、かもしれない。
ま、そうは言っても、俺はまだ酒も飲めない16歳。
ジジイになった時のことを考えるにはあまりに若い。
今は目の前のことに集中するか。
(……よし)
遅い昼飯を食った後、街に出て、目当ての物を買った。
この夏バイト、色々と予想外の事が起こった。
元々は何となくの予定埋め、そして小遣い稼ぎの為だったけど、欲が出た。
そろそろ、俺も俺本位のことをやっていい、と思う。
で、タイミングは夕飯の後と思ってたんだが……
「ところで君達、花火は好きか?
明日の帰りの前に、海でこいつを楽しむのはどうだろう」
「シゲ爺、分かってるじゃねーか! 夏は花火だよな!」
「私もやりたい!」
「爺ちゃん、相変わらずナイス過ぎるわ!」
夕食を食っている最中、シゲ爺から花火の提案。
予定がかぶったか。といっても、俺のは後にズラせるけど。
折角だし、俺も参加するか。
「雫ちゃんも来るよね?」
「……うん」
全員参加、っと。
夏の思い出作り、思いっきり楽しもうかね!