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48.覚悟しろ

サンシェードテントの中でドキドキすることが起きたが、無事に帰室。

毎度毎度、何で水橋は普通のことができなくて、普通じゃないことはできるのか。

いくら俺が素性知ってるからって、信頼し過ぎというか、無防備すぎる。


(可能性あるかも、って思っちまうだろうが)


何度も認識しなおす。これは恋人のイチャつきではなく、信頼できる友達としてのこと。

それを間違えたら、この関係すらなくなってしまう。

……考えてみれば、穂積が友達になった辺りで、俺の役目はもう済んだとも言えるが。


(……諦めたくない)


彼女が欲しい。水橋を彼女にしたい。

俺が変わるきっかけをくれた、スイーツが大好きで、真っ直ぐな少女。

こんなの、好きになるしかねぇよ。


なら、頑張らないとな。勘違いしないように気をつけながら。




『お疲れさま。頑張ってるな、本当』


本日の反省会。まずは褒めないと。

あんな横暴なクソ客に対して、よくあそこまで丁寧に接客できたよ。


『そんなことないよ。今日は休憩多めにもらっちゃったし』

『大丈夫だって。水橋は何も悪くない。全部あのクソ客が悪い。

 というか、そんな客まで丁寧に対応するとか凄ぇよ。俺だったら絶対殴ってる。

 むしろ、そこ誇れよ。コミュ力確実に上がってるし、本当に凄ぇって思う』

『ありがとう。……嬉しいけど、褒めすぎだよ』

『それくらい凄いってこと。これでも足りないくらい』

『……涙出てきた。藤田君、優しすぎるよ』


実際、俺の気持ちに嘘偽りはない。

あんなクズい客相手にしたら、流石に俺もキレてる。

大っ嫌いなんだよ、過失のない店員に対して横暴に接する客。


それなのに、水橋は頭下げながら、最後まで丁寧に応対することに徹した。

クラスメイトとの話し方も分からなかった頃から比べたら、成長著しい。

何をどうしたって、賞賛に値する。


『涙と一緒に、今日の出来事は水に流しちまえ』

『うん、なるべくそうする』


水橋が閉じ篭っていた殻には、既に小さな穴が開いている。

そこから見える未知の世界は、楽しいことばかりではない。

そして、いずれは水橋一人で、立ち向かわなければならない。

けど、いっぺんに全てをやる必要はないんだ。

何もかもを俺がやるのは水橋の為にならないし、そもそも無理。

それでも、殻の外の世界を伝えたり、殻を破る手助けぐらいならできる。


行こうぜ、ちょっとずつ。

完全な素が出せる、その日まで。




三日目、海の家。

今日は開店から正午までとのことで、午後が完全にフリーとなる。

キリのいい時間にまとまってると予定が組みやすい。

海で遊ぶだけじゃなく、街に赴いてみたりとかもできる。

といっても、俺の行動基準は水橋がどこに行くかだが。

海水浴場に水橋を一人にするとか、ライオンの群れにウサギ放り込むような話だ。


「お待たせ致しました、メロンソーダフロートです」


こうして品物の提供を終えたら、水橋の状況をチェック。

チラっと見る癖をつけておくだけで、問題の発生率は……


(……マジかよ)


来たら俺が応対しようと思ってたんだが、距離が近かった水橋が応対。

それも、セットで。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「君をお持ち帰りで!」

「……あの、そういったメニューは」

「あ? うちの息子の言う事が聞けねぇってのか!」


初日に水橋をナンパしたバカと、二日目に粗暴な態度をしてたクズ。

親子揃ってのご来店でごぜーます。

息子さんは相変わらずで、親父さんは相当な親バカ……バカ親だな。

親ならテメェの息子の暴挙ぐらい止めろってんだ。


(はいはい、そこまでにしとけよ)


一度シメられたくらいじゃ懲りないんかね。「今度来たら握り潰す」と言ったんだが。

……あ、矢沢さんの視線が俺とクソ親子を往復してる。

表情を見るに「対応ヨロシク」か。かしこまりました。

それでは、迷惑なお客様(バカ親子)にはご退店して……


「お客様は神様だろが!」

「っ!」

(!?)


親父の方が、水橋に殴りかかった。狙いは思いっきり、顔面。

うまく避けたから当たりはしなかったが、何てことしやがる!?


(……驚いてる場合か!)


このままじゃ、水橋が危ない。

キッチンから品物が完成した声が聞こえるが、それどころじゃねぇ。


「お前よー、ちょっと美人だからって生意気なんだよ!」

「あの、ご注文……」

「うるせぇ!」




「……帰れ」




二発目の拳を、しっかりと掴んだ。

息子よりはちょっと重いが、余裕。


「あ? なんだテメェ?」

「帰れと言ったのが聞こえなかったか」

「あぁ!? テメェぶっ殺すぞ!」


強面ではあるが、体格からして大したヤツではない。

弱い犬ほどよく吠えるとは言ったものだ。


「水橋、提供頼んだ。俺は大丈夫だから」

「……ごめん、お願い」

「ん。矢沢さん、5分休憩貰います」

「了解♪ 誰かそっちによこす? なんならおばちゃん行くけど」

「いえ。この程度は」


一応、店内業務を円滑に回せるように声をかけて、と。

ざわついている皆さん、安心して下さい。汚い場面は見せないんで。


「表出ろ。営業妨害だ」

「おうおう、やってやろうじゃねーの!」

「お、親父! こいつはヤバいって! こいつ強いんだよ!」

「うるせぇ!」

「へぶっ!」


あ、今度は顔面に直撃した。息子さんの。

ここまで気が立ってりゃ、やりやすいわ。




「戻りましたー」

「お疲れ様。どうだった?」

「親子共々、2、3発殴ってから関節極めました。

 この夏はもう来ないと思います」

「藤田君。ナイス過ぎるわ」


サムズアップ、あざっす。

女の顔に傷をつけようとする下衆野郎に慈悲はない。

鍛えるついでに身に着けてた護身術が役立った。


「矢沢さん。水橋上げさせてもらっていいですか?」

「そうね、もうそろそろ終わりだし、午前は忙しくないし。

 ま、あんなことが起きたら、ピークタイムでも下げるけど」

「そんな、昨日も……」

「いいのいいの。最近の若い子は頑張り過ぎなのよ。

 ごめんね、怖い思いさせて。おばちゃん、もっと気をつけるべきだったわね。

 後はおばちゃんがやっとくから、上がっておきなさい」

「でも……」

「上司命令よ。辛い時はちゃんと休む。

 自覚なくても、心のダメージは蓄積しやすいんだから、休みなさいな」


本当、いい上司に恵まれた。

水橋。後は俺と矢沢さんで頑張るから、しっかり休め。

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