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47.開放的な密室で

「よし、皆はここで上がり。折角だし、海で思いっきり遊びなさい」

「ありがとうございます」


午後2時。昼ピークがある程度落ち着いた所で、勤務終了。

この時間帯だったら思いっきり遊べるな。


「何か必要なもの、ある? 従業員割引あるから、安く貸せるわよ?」

「俺何にも持ってきてねぇわ。海パンとゴーグルだけ」

「私はボールと浮き輪なら。空気入れ借りたいです」


ありがたい。まかないに加えてこんな特典もあるとは。

俺は……サンシェード借りるか。あとクーラーボックス。


「それじゃ、海へレッツゴー!」


透を中心に、全体的にテンション高め。

俺もたまには、頭空っぽにして遊ぶか!




「さてさて、女性陣の水着はどうなってるんでしょうか!」


ですよね。期待しますよね。正直俺も口にしないだけで、ドキドキが止まらない。

夏に海、しかも女子2人連れて。こんなシチュエーションで期待するなって方が無理。


「お二人さん、協力頼んだぞ! 思い出作りの体での写真撮影!

 画像加工さえすれば、永久保存版として売り捌くことも……!」

「透。サルがんな真似しそうになった時はヨロシク」

「安心しろ。防水カメラでも防げない塩水、ここには大量にあるだろ?」

「やめてください俺の小遣いの結晶が」


本気(ガチ)だったら最初から言わないだろうから、冗談だとは思うけど、念の為。

ここで透が乗っかったらどうしようかと思ったけど、サルの操縦に関しては、

何だかんだ、こんな感じでまとめてくれるから助かる。


「透ー!」


先に来たのは穂積。

桃色のビーチサンダルで駆けてくる姿は、同色のワンピースタイプの水着に包まれていた。

うん、普通に可愛い。この子にはやっぱりピンクが似合う。


「新しいの買ったんだ。似合う?」

「鞠に似合わない水着なんてないだろ。すげぇ似合ってる」

「やった♪」

「なぁ鞠、一枚撮っていいか?」

「うん、いいよ」

「あざっす! それじゃちょっとポーズ取ってもらって……」


軽率。穂積は純粋に記念撮影だと思ってるんだろうけど、

サルは純度100%に不純な男。

まぁ、売り捌いたりしないなら、普通に個人所有か何かだろうけど……


「あれ、雫は?」

「もうすぐ来ると思うけど……あっ、雫ちゃーん!」


声の方向は、海の家の隣、シャワールームになっている小屋。

個室というくくりでいいならトイレもあるが、ちょっとイヤだし、

開いていない限りは基本、着替えはそこでということになる。

で、そこから水橋が来た訳だが……


「雫、何で海でこんな着込んでるんだ?」

「……肌、弱いから」


灰色のラッシュパーカー、首元までチャック締め。

太腿の中ほどまで丈があるから、水着を着ているかどうかも分からない。

元々のスタイルがハイクラスだから、これもこれで綺麗だけども。


「つっても、これじゃ海入れねぇだろ?」

「荷物見てる。私は大丈夫だから、皆で楽しんでて」


それだけ言って、俺の借りたサンシェードに入ってぺたんこ座り。

具体的に何を思っているのかは分からないが、海に入る気は無いらしい。

残念といえば残念だが、本人の意思がそうなら仕方ないわな。


ただ、一人にして大丈夫か、という懸念がある。

入り口閉められるテントタイプのサンシェードだから、気づかれにくいとは思うが、

ナンパ野郎が来ないという保証は無い。部分的に透明だから中は見えるし。

水橋の美貌は、逆に周りの人間を遠ざけるほどに神がかっているが、

昨日の海の家での件を考えると、ここにいる男は透並に軽い輩と思っていい。


遊びながらも、注意しないと。

それっぽいのが近寄ってきたら、殴ってでも追い返す。

……勿論、そういう気持ちでって意味ね。実際に殴るのはアカン。

海の家での事例は、上司の許可があってこそのことだし。




「カブトムシ!」

「し……ししゃも!」

「モンブラン! ……あっ」

「はい鞠の負けー!」


ボールを返すと同時にしりとりをするしりとりバレー。

純粋にバレーだけでもいいんだが、こっちの方が面白いというサルの提案で。

現在、穂積がやたらと負けている。主に自爆で。


「『も』で来たら私、モンブランって言うしかないよー。

 それぐらいしか『も』で始まるケーキ無いし」

「鞠、これ別に縛りないからな?」

「えへへ……よく見るものから思い出していったら、そういう感じに……」

「何かハンデ付けるか。文字数とか」

「5文字以上縛りとか? それくらいでトントンだろ」


運動神経は悪くないけど、同時に頭使うのは苦手か?

お菓子作りとかは並行作業だから、そういう意味では問題ないと思うけど。


「んじゃ男子は5文字以上縛りで行くぞー。オーストラリア!」

「アンダー……シャツ!」

「つ!? つ、つー……つきのわぐま!」

「マカロン! ……あっ」

「おい!?」


わざとか!? お前わざとなのか!? そのスイーツ縛りは外せない呪いの装備か!?

せめて3周位はもたせてくれよ!


「鞠、言ったよな。これ別に縛ってる訳じゃないって。どうしてもか?」

「ごめん、『ま』って言ったらマカロンしか出てこなくて……しりとりだとは分かってたけど……」

「……『マドレーヌ』」

「あっ!」

(もう笑えてくるわ……)


山手線ゲームだったら無双するだろうけど、しりとりにおいては枷にしかならん。

頼むから、今だけはお菓子から離れてくれ。




「ちょっと上がるわ。喉乾いた」

「おう、いってらー」


さて、水橋は大丈夫だろうか。

幸いナンパ野郎は来なかったようだが、疎外感あるのは間違いないだろ。

折角の海なんだし、無理のない範囲で楽しんでもらいたい。


「よっ。大丈夫か?」

「うん。結構居心地いいね、ここ」

「狭いとこ好きなのか?」

「わりと。ここで皆が遊んでるとこ見てると楽しい」


よかった。水橋も水橋なりに海を楽しんでる。

賑わいに混ざるんじゃなくて、少し距離を置いた位置から見る、という楽しみ方もあるのか。

……うん、確かにちょっといい。遊ぶ三人をサンシェードテントから見るのもオツなものだ。


「ふぁ……なんか、ちょっと眠くなってきちゃった」

「寝てもいいぞ。適当な頃に起こすから」

「ん……それじゃ、少しだけ……」


慣れないことに挑戦して、色々大変な目に合って疲れたんだろう。

ゆっくり休め、水橋。


「藤田君、膝借りるね……」

「あぁ。……ん?」


……え?

俺の、膝……?

何で、水橋が寝るのに俺の膝が……寝るのに、膝……


「おやすみ……」

「待て待て。一回起きろ」


何をさも当然のように俺の太腿を枕にしてるのかね!?

流れが自然過ぎて承諾したけど、まさかの膝枕をご所望!?


「何……?」

「いや……いいのか?」

「膝枕が一番寝やすいから。

 正座はしなくていいよ。あぐらでも、ボク寝れるから」

「そういうことじゃなくてだな……」

「それじゃ、おやすみ……」


……本当にこの子は警戒心が無さ過ぎる。

この狭い空間で、安心しきった寝顔晒して膝枕って……


(……寝惚けやがって)


程よい重みと、サラサラした髪の感触。

それを直に味わうという幸せを感じながらも、困惑するしかない。

でもまぁ、5分……いや10分くらい寝かせるか。

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