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46.まだいるのか。

(んぁ……今何時だ……?)


手探りで枕元の携帯を掴み、起動してみる。時刻は現在5時前。

設定していたアラームよりだいぶ先に、目が覚めてしまった。

寝心地のいい布団だったから、良質な睡眠が取れた分、起きるまでの時間が短くなったのだろうか。


「……どうすっかな」


寝起きも良好だし、二度寝をする気にはなれない。

かといって、朝食までは時間がある。

他のヤツを起こすには気が引けるし、それじゃ持ってきた課題でも……あ、待てよ。

折角海に来てるんだし、ちょっと気取って朝の海を散歩してみるか。

それじゃ、適当に着替えて、と……




潮風を受けながら、誰もいない海岸を歩く。

時間が時間なだけあって、太陽の位置は日の出からすぐ、といった所。

綺麗な朝焼けに、海鳥の鳴き声。なんとも画になる。


「海……来たんだな……」


夏休み前、海に行きたいとはそれなりに思ってたけど、

こんなガッツリ行く予定は無かったし、これが無かったら多分行ってない。

基本、あれやりたい、これやりたいと思ってる内に過ぎてくものだしな、夏休みって。


目を閉じれば、心地よい波の音。

柄じゃないが、こうして感傷に浸るのも悪くない。

折角だし、ここにいる間は朝の散歩を日課にしてみようかね。




「皆、おはよう。朝は卵を出すが、卵焼きにしたい者はおるかの?

 味付けも聞くぞ」

「それじゃ、私は卵焼きでお願いします。味付けは砂糖で」

「俺も鞠と同じで!」

「勝、お前はいつも通りか?」

「いつも通りの塩胡椒でー」

「ほいほい、砂糖2人に塩胡椒1人か。しばし待て。

 悪いが、その間にご飯は各自でよそってくれ。味噌汁もな」


いい頃合に戻って、朝食。

生卵か卵焼き選べるのか。細かい所までありがたい。

俺はTKGが好きだから、そのまま頂くけども。

……朝、ちょっと動いたから腹減ったな。多めに盛ろ。


「怜二、俺のもよろしく!」

「はいよ」


自然と俺が透のごはんをよそう流れになった。まぁ、これくらいはどうでもいい。

流石にこういうことに関してまで、補正云々とボヤくつもりはない。


「あと味噌汁と箸! それとおしぼりと麦茶もな!」

「多少は席から動け」


ものによってはお前の方が近いじゃねーか。

どんだけ動かないつもりだ。


「神楽坂君。ここでは自分のことは自分でやるのが基本じゃ。

 働かざるもの食うべからず、という訳ではないが、自分でやりなさい。

 友達を頼ってばかりでは、自分の為にならんぞ」

「……はーい」


あれ、意外。透が凹まされるとは。珍しいこともあるもんだ。

普段しないことをすると、その後の流れも変わるんだろうか。

朝散歩、別の効果もあるかも。




「矢沢さん、焼きそばの紅生姜抜きって対応してます?」

「してるしてる。通しは『焼きそば1丁赤抜き』ね。

 青海苔と鰹節はどっちも対応できないから、そこはご了承頂いて」

「分かりました」


ちょっとでも気になったら、ちゃんと聞いておく。これ鉄則。

下っ端のバイトが自己判断で何かしらやらかす、というのはかなり面倒。

だったら些細なことを質問されることによる面倒の方が何倍もマシ。

そしていい上司の条件は、そんな質問を面倒がらずに答えること。

おかげさまで、円滑に仕事ができてる。


「氷」

「……? かき氷、でしょうか?」

「氷っつってんだろ! 他にあんのか!」

「失礼致しました。かき氷、味が3つございますが……」

「はぁ? 俺が頼むんだからメロンに決まってんだろ!」

「失礼致しました! ミルクは……」

「いらねぇよ! 早く持ってこい!」

「しっ、失礼致しました! かっ、いや氷メロン1丁!」


水橋はまた面倒な客に絡まれてる。まだ何とかなってはいるけども。

オッサン、お前の嗜好とか知らねぇよ。お前にとっては毎回でもこっち初回だ。

常連気取ってんなら店員の顔ぐらい覚えとけ。


「……あの人困るのよねぇ。親子揃って」

「親子?」

「昨日、水橋ちゃんにナンパした人いたでしょ? そのお父さん。

 若い子には毎回あんな感じでね。去年もそれでやめちゃった子もいて」

「マジっすか」


この親にしてあのバカあり。親子揃って面倒な客とは。

これはなるべく、水橋からは離しとかないと。


「水橋ちゃん。一旦バックでお休み。あのお客さんは私やるから」

「……いえ、大丈夫です」

「そんな青ざめた顔して大丈夫じゃないでしょ。それに、元からそろそろ休憩だし。

 2、30分くらい休みなさいな」

「……ごめんなさい」

「謝らなくていいの。そうだ、おばちゃんがアイス買ってあげる。

 水橋ちゃんは何アイスが好き?」


この矢沢さんの優しさが、あのバカ親子共に多少なりともあれば。

そう思わずにはいられないな。


「藤田君……ごめんね。少し休む」

「いいっての。無理する必要はねーしさ」


普段しないことをすると、色々なことが起こる。

それは決して、いいことばかりではない。

けど、どうあれ新しいことが起きる。


その吉凶の凶の方が出た時は、俺に任せろ。

だから、今は休め。

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