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40.今は俺だけ

『期末テスト』という名の試練の前、最後の休日。

俺と水橋は、呑気にクレープを食べに駅前に来ている。

ま、何だかんだ俺も成績はいい方だし、今回もそれなりに取れそう。

それなら、いつも通りの休みを満喫するとしよう。


「何食べよっかなー♪」


俺の隣も隣で、実に楽しげ。

初めて遊びに行った時と同じボーイッシュスタイル、それの半袖パーカー版。

水橋って白い方だけど、日焼け対策はするタイプなんだろうか。

焼けたら焼けたで、健康的な魅力が出るんだろうけど。


「本当に、甘い物好きなんだな」

「うん。それに今回は一仕事終えた後だし、尚更美味しいと思う」

「テストという大仕事が、もうじきある訳だが」

「ま、それはいつも通り頑張るよ」


いつも通り……ということは、平均98点くらいか。

全て満点は無理とは本人の言だが、多数の満点を取りまくっているのは事実。

成績優秀者順位表では、1位以外になったところを見たことがない。

でもって2位か3位に門倉。透は教科別があったら英語で載ったかもしれないが、

トータルの点数で言ったら、下手を打つと下から数えた方が早い。


「俺は……ブルーベリー&クリームチーズで」

「チョコストロベリースペシャルの……トッピング、全部行っちゃっていい?」

「安心しろ。これはご褒美だ。気にしないでガッツリ食え」

「それじゃ遠慮なく……トッピング、全部で!」


実に嬉しそう。そして調理過程のインパクトが凄まじい。

おびただしい量の苺とホイップクリームに、ナッツやらスプレーチョコやら色々降りかかっている。

ここまで来ると、見てるだけで腹一杯というか、胃もたれ起こしそう。


「夢だったんだよねー♪ 一度言ってみたかったんだ。トッピング全部」

「そりゃよかったな。……食い切れるのか?」

「ボクの別腹は5つあると、前に言ったはずだよ」

「だったな」


JKっぽくない服装で、JK的なことを思いっきり楽しんでいるというギャップ効果が凄まじい。

元々の容姿レベルが女神がかってるのに、それ以上に魅力上げてどうすんだよ。

本人にそんな意図はないだろうし、素はこうなんだろうけどさ。


これを普段からも出せるようにするのが水橋の望みで、俺の目的。

そして、紆余曲折あって穂積との関係が構築された。

なろうと思えば誰でも友達になれるのが穂積だし、一番簡単なとこだったろうけど、

距離の詰め方が分からない水橋にとっては、それすらも難しかったと思う。


俺が水橋のカミングアウトを受けてから、初めての具体的な成果。

といっても、俺が手助けしたのは、自分から挨拶してみろって言ったぐらいだし、

本人の頑張りによるところが殆どだけどな。


「水橋、穂積と仲良くなったよな」

「おかげさまで。ありがとう、藤田君」

「俺は何もしてねぇよ。けど、やっぱり勉強会からか?

 あの後、穂積にけっこう色々と教えてたみたいだけど」

「穂積さん、ケアレスミスが多いタイプだったから、そこを重点的に。

 それ以来、ちょっと頼りにされたんだ」

「なるほど」


イメージを変えないままで行ける得意分野から、徐々に素を出して仮面をはがす。

これが基本の流れだが、理想的に決まってくれた。

相手次第で何かしらのプラスアルファがいるんだろうけど、穂積に対しては不要。

本当、穂積の存在と根明さに感謝しないと。


「お待たせ致しました。チョコストロベリースペシャルです。

 クリームなどこぼれやすくなっておりますのでご注意下さい」

「何たるジャンボサイズ」

「ありがとうございます。……美味しそう」


けど、スイーツ好きだっていうところまで明かせるとは思ってなかった。

かなりの甘党で、しかも相当に食うという、若干普通を逸脱した程のアレだけど、

どういう流れで伝わったんだろう。


「なぁ水橋。穂積にはスイーツ好きだってことも伝わってるみたいだけど、

 お前から明かしたのか?」

「そのつもりはなかったんだけど、勉強のお礼に貰ったお菓子が美味しすぎて。

 その流れで、ボクはスイーツが好きってことを喋っちゃったんだ」


スイーツ、水橋を釣るにも友達関係を作るにも万能だな。

特に、女子友達作りには便利なツール。その内カフェ巡りとかもさせてやりたい。

それが、水橋の望むクラスメイトとの関係だから。


「で、友達になれた訳だけど、どうだ? 穂積、今はどんな奴だと思ってる?」

「とってもいい子。ボク、まだ会話のテンポは遅いままなんだけど、

 穂積さんはゆっくり待って、ボクの話を聞いてくれる。

 こういう人だって分かってたら、もっとボクは積極的になるべきだったな」

「無理はするなよ。けど、穂積に限っては俺もそう思う。

 ま、何にせよ食え。穂積と友達になれた祝いも兼ねて美味しく」

「うん。いただきまーす♪」


この笑顔が出せれば、男子連中も集まるだろうな。相当に勢いよく。

となると、着実に一歩ずつの方がリスクは少ない。

急にそんなことになったら、間違いなく水橋はパニくるし、別の恐怖を抱きかねない。

どこまで交友関係を広げるかは水橋次第だが、そこに至るまでの橋渡しに関しては

注意してやらんと。


(それに……)


学校の男子の中で唯一、水橋の笑顔を間近で見られる。

その特権は、もう少しだけ独占していたい。




「……ねぇ、藤田君。『船頭多くして船山に登る』って知ってる?」

「知ってるけど」

「その……なんかさ、満足感は感じてるんだけど、何でだろう。

 それ以上にとてつもない後悔をしているというか……」


一体何がどうしたんだと思ったが、ふと思い出す。

表の隅に書いてあるトッピングメニューに記載されているのは。


(アイス、チーズケーキ、スプレーチョコ、ナッツ、追加クリーム、追加フルーツ、

 ソース各種……あっ)


チョコレートソース、ストロベリーソース、キャラメルソース他大量。

それぞれが、トッピングメニューの一つとして存在している。

それらが全て投入された水橋のクレープは、文句なしのカオス状態。


「甘い物って、脳にしみる物だったっけ?」

「違うと思うが……ちなみに何が一番強い?」

「……多分ブルーベリー。キャラメルも特有のコクと香りが目立ってるけど、

 何よりも酸味の主張が……うぅ、優しい甘さのアイスが天使に見える」


事前に気づけば教えられたけど、あまりにも嬉しそうだったからスルーしてしまった。

この落ち込みと困惑が織り交ざったような顔……レアだな。

笑顔と違って、独占したいとはあんまり思わんけど。


「お茶か何かいるか? それともコーヒーとか」

「……ブラックのコーヒー、お願いできる?」

「了解」


大きな目標の達成も、今の小問題の解決もお任せ下さい、女神様。

貴女の為なら、俺はサポート役に徹します。

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