37.灯台下暗し
聞き込み調査もやれる限りやり、情報も出揃った。
だが、解決の糸口は見つからない。
水橋と連絡を取るも、お互いにこれ以上の手立ては無いと感じている。
『ピッキングできる人とかいる?』
『ディンプルキーをピッキングできるヤツは、鍵屋以外にいないだろ』
『だよね……できるとしても、鍵借りた方が早そう』
そうだな、と打ちかけて。
もう一度、メッセージを読み直す。
「『鍵借りた方が早そう』……あっ!」
何で気づかなかったんだ!?
むしろ、一番最初に調べるとこじゃねーか!
『それだ! 鍵借りた奴が誰かを調べればいいんだ!』
『そういえばそうだった!』
鍵がかかってるなら、鍵を使って入ればいい!
穂積が鍵をかけた後、職員室で鍵を借りればいいじゃねーか!
『明日、鍵の履歴調べてくる。
水橋は穂積に、鍵を借りたヤツの名前に心当たりあるか聞いてくれ!』
『分かった!』
全くもって盲点だった。
うまくすれば、ここから一気に解決まで行けるぞ。
「……いた」
盗難事件の前日、穂積が鍵当番となった日の鍵貸与ノート。
そこには、穂積の後に鍵を借りた方々の名前が記されていた。
『千葉大河』。
クラスは1年2組。鍵を借りたのは、穂積が鍵を返却してから3分後。
用事でもない限り、研究会の活動が終わった後に家庭科室に入る理由は無い。
(メッセ送って、水橋に聞いてもらうか)
穂積からの情報引き出しは、同じ女子同士である水橋の方がやりやすいはず。
その間に、サルからこいつの情報を聞いてみるか。
『……マジか?』
『岡地君の話が本当なら、間違いないと思う』
この日、分かったこと。
千葉大河。1年2組。
犯人はいないと踏んでいた、料理研究会所属。
予想とは違ったが、ここでまず、『穂積と接点がある』はクリア。
そして、その接点を細かく見ると、『告白してフラれた』とのこと。
これは水橋が引き出した情報かつ、俺もサルから聞いた情報。
でもって、信じがたい内容。
水橋が、穂積から聞いたこと。
「大河くん? 少し前に、料理研究会に転部してきた子だよ。
ちょっと変わってる子なんだ」
「どんな人、なの?」
「映画をよく見てるみたい。特に昔の。
最近の作品は、売れる要素詰め込んだだけで映画じゃないとか、評価は厳しいけど」
「へぇ……」
「本当に変わってる子なんだよね。
私が大河くんと付き合いたいと思ってるって思われたりしたんだ」
「……どういうこと?」
「研究会終わった後、呼び出されて。
『先輩は僕の事が好きなんですよね? いーえみなまで言わなくてもいいですよ。
乙女がどこか謎めいた雰囲気を醸し出す、オトナな男に惹かれるのは当然です。
ですが、先輩は恋に恋をしていませんか? 先輩には、僕に恋して頂きたい。
そのつもりがあるのでしたら、お付き合い致しましょう』って」
(うわー……)
俺が、サルから聞いたこと。
「今年入った男子で痛さNo.1だな。意識高い系というか、高二病と言うか。
加えてルックスC+の癖して、相当なナルシスト野郎。総合ランクはDだ」
「高校デビュー失敗したタイプか」
「正確には自爆な。映画鑑賞が趣味みたいだけど、中身スッカスカ。
評論家気取りで批判しかしねぇ。というか、今の映画貶してるだけ。
俺の知ってるタイトルもあったけど、多分見てすらいねぇな」
「いるんだな、そんなヤツ……」
「あと、転部したのは鞠を追っかけたと見ていい。
今回の事件で落ち込んでる鞠、ウザいくらいに慰めてるしな。
それと、事件起きる前に一回告ってたらしい。勿論フラれてるけど」
「それは何か? また、穂積の言動で?」
「『大河くんって変わってるね』って言われて、惚れてると思ったんだと。
大方、薄っぺらな映画評論に引いたか、流したかのどっちかだろ。
本人は自分の世界の理解者だからイケると踏んだらしいが、結果は玉砕。
今はクラスの笑いものになりましたとさ」
(うわぁ……)
俺と水橋の情報を合わせた結果、見解は一致した。
『確実に成功すると踏んでいた告白をフラれたことに対する逆恨みだな』
『自分勝手な勘違いなんだから、はた迷惑以外の何物でもないよ』
こいつが犯人だとしたら、動機はそんな所。
クソ下らねぇし、穂積にとってはたまったもんじゃない。
『鍵を借りた時間からして、犯人で確定だろ。
後は本人が認めるかどうか、だが』
『大丈夫だと思うよ。ここまで来たら、言い逃れできないって』
決着は、まもなく。
とっとと片付けて、穂積の笑顔を取り戻すとするか。