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31.陸上少女の不安

「せんぱ」

「はいストップ」


足音で反応して、事前に戸を開け、手をかざす。

こう何度も来ると、対処法もできてくるもんだ。


「透なら、今日は文芸部に行ったぞ」

「なんと!」


さて、いつもならこのまま帰るのを見送るんだが、

今回は、こいつに対して目標がある。


「ところで八乙女。今日は俺がそっち行ってもいいか?」

「はい! 怜太先輩も大歓迎です!」


俺の諦め癖改善の一手として。

そして、明確な変化の証としてやってみたい。

純粋に気になる、というのもあるし。


(いい加減、こいつに俺の正しい名前を覚えさせるか)


明らかにわざとだと思うんだけど、それが何故かを解明するか。




「すいませんでした!」


普通に俺の名前を間違え続けているのは何故か聞いたら、普通に謝られた。

うん、間違えてるっていう認識はあったし、意図的にだったんだな。


「何で、俺の名前わざと間違えてたんだ?」

「それはですね! 深いような深くないような訳があるんです!」

「どっちだよ」


大層な理由は無いと思うんだけどな、こいつの場合。

まぁ、聞くだけ聞かせてもらおうか。


「その……わたし、いつもテンション高いですよね」

「え、自覚あったの?」

「はい。本当は、普通にしていることもできるんです。

 けど、ずっとこのままだと、どうしても不安になるんです」

「そりゃまたどうして」

「わたしの取り柄って、スポーツだけじゃないですか。

 勉強は苦手ですし、背は低いですし、その……ぺったんこですし。

 わたしからスポーツを抜いたら……ただのうるさいちびっ子なんですよ」

「そんなこと無いと思うけどな。お前って何事にも真っ直ぐで一生懸命だろ?

 そういうとこも、取り柄の一つじゃないか?」

「ありがとうございます。えっと、先輩の名前を間違えている理由、ですよね。

 わたし、いつもテンション高く保つことで、不安をかき消してるんですよ。

 つまり、常に酔っ払った状態でいるんです。先輩の名前を間違えるのは、その一環で……

 身勝手だとは思ってます。ごめんなさい」


頭を下げられた。

八乙女のハチャメチャさは、作られたものだったのか。

軽い気持ちで聞いたら、八乙女の大きな悩みにぶつかってしまうとは……


先輩として、このままじゃおけねぇよな。

何だかんだ、俺も透経由でこいつとは仲いいし。


「分かった。俺の名前は間違えたままでいい。

 その代わり、なるべく元気でいろ。お前はそれが一番だ」

「先輩……! はいっ! ありがとうございます!」

「それでよし。ついでに、一つ聞いていいか?」

「何なりと! 体重とスリーサイズ以外ならOKです!」

「お前さ、何で透のこと好きなんだ?」


ついでに、透に惚れるまでの経緯をはっきりさせておこう。

八乙女に対して、下手に飾った言葉は伝わらない場合もあるし、直球で。

主人公補正への種火となったのは、一体何なのか。


「わたしの取り柄はスポーツだけですけど、スポーツには絶対的な自信があるんです!

 透先輩は、わたしの唯一の取り柄をたくさん凄いって言ってくれたんです!

 それから練習にお誘いして、いつも来てくれて……好きになっちゃいました!」


もしかすると、透は相手の隠れた悩みを当てるのが上手いのかもしれない。

だとすると、案外主人公補正は関係ないのか?


「透先輩ってモテますから、何度もアタックしてるんですけど、応えてくれません!

 一体何ででしょうかね!?」

「あー……もう少し落ち着いて、しおらしくなればいいんじゃね?」

「えっと、一度そうしてみたんですけど、似合わないって言われて!

 透先輩にとってのわたしは、明るく元気な女の子なんです!

 わたしも、明るさと元気は貴重なスポーツ以外の取り柄だと思ってます!」


テンションの高さは意図的なものだったが、根は明るいんだろうな。

穂積の明るさが人間好きによる天真爛漫さで、太陽みたいなものだとすると、

八乙女の明るさは何事にも一直線で、熱い心を持って打ち込める、炎みたいなものか。


「ところで、怜太先輩も身体動かしませんか!

 気分が重たい時は、走るのが一番です!」

「お前、本当に走るの大好きだよな」

「気持ちいいですから! いかがです!?」


こんな時でも、こいつの笑顔はとことん眩しい。

難しいこと考えず、力押しで明るくさせてくれる。


「んー……分かった。ちょっと付き合わせてくれ」

「かしこまりましたーっ!」


肉体的には疲れるけど、精神的には元気もらえそうだな。

心の給油とさせて頂くか。

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