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30.文学少女の依存愛

ゆっくりと扉が開き、黒髪に覆われた長身女子の姿が。

しかしながら、透は今日、陸上部に行ってるんだよな。


「藤田くん……いますか……?」


……アレ?

聞き間違いではないよな。俺?


「はい、いますけど」

「あっ、その…………今日、文芸部、来れる?」

「大丈夫ですけど、透じゃないんですか?」

「ううん。今日は藤田君に用があって」

「分かりました。じゃ、行きましょう」


俺に用事とな。

雑務関係ですかね。それともTPか。

だから後ろの男子共。お前らが思っているような事にはならんから、

そのキツい視線をやめてくれ。




「ごめんなさい!」


開口一番。

いきなり謝られても困る。思い当たる節も無い。

呼び出されること自体珍しい上、何だこの状況。


「どうしたんです?」

「その……傘の、こと……」

「傘? ……あっ」


透に傘を盗まれてから、俺は置き傘をやめた。

ということで、薄い青のビニ傘は、現在俺の普段使いの傘となっている。

梅雨明けはまだ先だから、雨が降るのは日常茶飯事。

つまり、俺がその傘をさしている所を見る機会は、結構ある訳で。


「この前、透くんの傘に入れてもらったんだけど、あれ、藤田くんのだよね?

 ……ごめんね」

「いや、先輩が謝る必要は無いですって」

「ダメだよ。私がちゃんと謝らなきゃ。

 透くんは、自分の傘と勘違いしただけだし………」


透は俺の傘ということを知りつつの犯行だったんですがね。

それを知らない先輩としては、透を悪者にしたくないんだろう。


さて、ここで一つ思案することが。

いつもの俺だったら、「古川先輩が謝る必要はないですよ。大丈夫ですって」とか、

当たり障りのない感じに流すところだが。


(ちょっと、探ってみるか)


ここ最近、思いがけないことが多発している。

これを機に、少し出しゃばってみよう。

それがどういうことかというと。


「先輩。お言葉ですけど、透は分かっててパクったんですよ。

 あいつと俺の傘、全然違うヤツですし」


透ハーレムの女子は、全体的に透を盲信してる感じがある。

その理由を、俺は知らない。

今まで特に気にしなかったし、突っ込むこと自体、よくないと思ってた。

けど、無関心でいることはもうやめにする。

脇役のままで、何もかもどうでもいいと思って過ごすのはやめると、決意したんだ。

サポート先が水橋みたいなヤツならいいけど、透のお守りは拒否する。

そのついでに、透の本質を見たくなった。このおかしなモテ具合の調査も、その一つ。

さて、こういうことを言われたら、古川先輩はどう反応するだろうか。


「……えっと、その……ごめんなさい!

 私がしっかりしてれば、こんなことにならなかったのに……!」


選択は『罪を被る』か。

先輩らしい、と言えばらしいな。


(引っ込み思案で、自分を卑下することに慣れてしまっている。

 心を許せる相手は少ないが、該当する相手ならとことん依存を……)


サルの話が正しければ、古川先輩は人に依存するきらいがあるとか。

その対象が透だとすれば、この盲信も理由付けできる。


もう少し、行けるか?


「先輩が謝る必要ないですって。何でそこまでして、透をかばうんですか」

「……本が好きな人に、悪い人はいないから。

 それに、透君は私の作品でさえ、褒めてくれるんだ」

「え、先輩って何か書いてるんですか?」

「うん。文芸部だからね」


あ、そういえばそうだったな。当たり前か。

活動してるの、古川先輩以外に見た事無いけど。


「私……将来は小説家になりたいって思ってるんだ。

 大学も文学部に行くつもりだし、在籍中に自分の本を出したい」


はっきりした目標を持って、進路を決めたわけか。

内向的でも、芯はしっかりしてる人だな、先輩。


「素敵な夢ですね」

「そんなことないよ。それに、この夢はきっと叶わない。

 けど……透君、いつも私のこと、応援してくれるんだ。

 だから、もしかしたらって」

(ふむ……)


透ハーレムの一人、古川雲雀先輩。

一緒に本を読んでくれたり、作品を褒めてくれたりする透が好き。

それは、明らかな悪行すらかばうほどに。


前に、図書委員の仕事を手伝った時。

先輩は、明らかに他の奴に仕事を押し付けられていた。

「気持ち悪がられても、本があればいいって思ってた」と言っていた。

もしかしたら、髪や背の高さから、妙な印象持たれてるんだろうか。

だとしたら。


(透以外に、信じられる人がいないのかもしれない)


俺に対する水橋のそれと近いが、明確に違う点がある。

それは、先輩にとってはこの状態が既に完成形だということ。

本と透が自分の傍にあれば……それ以上のことを、先輩は望んでいない。

少なくとも、俺にはそう見える。


先輩は、自分を認めてくれる人が欲しかったんだろう。

そして、その最初の一人が透で、そこに依存したのかもしれない。

……なら。


「先輩。俺にも、先輩の作品を見せてもらえませんか。

 折角なんで、未来の小説家の物語、読ませて下さいよ」

「えっ……? 本じゃなくて、私の……?」

「透が褒めるくらいの作品ですよね? なら、読んでみたいです」

「……ありがとう!」

(うん、いい顔してくれた)


こちらから、勝手に近づく。

透が何を思って、どうするつもりなのかは、分からない。

だからもう一人くらい、本が好きな人がいるということを示そう。

古川先輩にとっては、それが嬉しいことのはずだ。


(透はちゃんと作品読んでるかも分からないし、俺が保険になれれば。

 それに、純粋に先輩の作品読んでみたいし)


透との関係がどういうものかの調査は、一旦保留。

先輩の見ている世界に、失礼させて頂きます。

【サルの目:生徒データ帳】

古川(ふるかわ) 雲雀(ひばり)

文芸部

ルックス A+

スタイル S

頭脳   A+

体力   D

性格   A


【総評】

顔を隠すほどの長髪の為、実際のルックスは分からんが、噂では美人とのこと。

身体つきは猫背な為分かりにくいが、最高にエロい。地味巨乳万歳!。

交友関係は狭く、一番の友達は透か本。クラスでも浮いている様子。

そして好きになった相手に対しては、とことん依存する。

ちょっと病的な感じもあるので、原因調査中。


総合ランク:A+

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