3.恋愛ゲーってだいたい主人公より主人公の友人の方が優秀だよね
ベッドに寝転がり、ボーっと。
高校二年生になったが、俺に彼女はいない。
というか、今まで彼女がいたことはない。
それも当然だ。
(作ろうとしなかったし、な)
特段、理由は無い。
作ろうと思えば作れるから、などと自惚れるつもりはないし、
彼女なんていらない、みたいな強がりをしてた訳でもない。
強いて言うなら、面倒だったから、か。
彼女……か。
誰かを本気で好きになったことなんて、あっただろうか。
本気で好きになれる相手なんて、いる方が稀。
適当な所で手を打って、カップル成立。そっちの方が多いだろ。
もし、彼女を作るなら、狙いは誰だ?
透ハーレム構成要員は除外として、誰がいい?
(……透ハーレムがデカくなる未来しか見えん)
多分、「他に好きな人(=透)ができた」で別れる。
そういうオチだろ。
癪だとは思わない。嫉妬なんて下らない。
それくらい、あいつの謎のモテ具合は規格外だから。
面倒だっていうのも間違ってはいねぇけど、それは半ば言い訳。
どっちかと言えば、俺だって彼女欲しい。
なら、多少は頑張ってみるのも一興か?
付き合えたらいいなと思う女子は、一応いるし。
「……やってみっか」
藤田怜二、16歳、高校二年生。
人生初の彼女作り、やってみます。
さて、まず最初に浮かぶのは『模倣』。
モテる奴の真似をする、ということだが。
「透を真似ても仕方ねぇだろうし、まず俺の武器は何か、からだな」
アレはちょっと何やってんのか分かんないんで。
とりあえず、自己分析と洒落込むか。
まず顔。
目は一重で、鼻や口などのパーツに特徴無し。
全体的な形は卵みたいな楕円形で、小顔でもデカ顔でもない。
調味料で言うなら醤油か? 多分フツメンだろ。そうであってくれ。
続いて体型。こっちはちょっと自信ある。
背は普通だけど、軽く筋トレとかしてるから、割と締まってる。
体重は重めだが、体脂肪率は一桁。所謂『細マッチョ』……なのか?
スポーツは嫌いじゃないし、部活には入ってないけど、運動はできる方。
といっても、うちの学校はプールの授業男女別だし、修学旅行は秋。
普通なら、見せる場面が無い。
成績は上の下。
テストの成績優秀者順位表に、ギリギリ載るかどうかというくらい。
得意教科も苦手教科も無し。良く言えばオールラウンダー、悪く言えば器用貧乏。
勉強会の時は結構呼ばれる。今年は特に出番多いかもしれない。
本当なら門倉呼びたいんだろうけど、あいつは透専属。
となると、全体的にそこそこ出来て、なおかつ呼びやすいのは俺、のはず。
性格はどうか。
自分で言うのもアレだが、悪くはないと思う。
友達付き合い大切にしてるし、面倒事は大体引き受けてるし、
何よりTPとして女子に言い寄られる中、一度として勘違いしたことはない。
……言ってて虚しくなってきたわ。
こんな所か。
それを踏まえた上で、俺の長所と短所は何だろう。
長所は……そこそこ勉強できて、スポーツもできることか。
文武両道とまでは行かないが、まぁ、あって損は無いはず。
短所は……あれ、どこだろ。
考えてみれば、俺に欠点らしい欠点って……
(いや、何かあるだろ)
このままだと『欠点に気づかないのが欠点』という事故物件待ったなし。
何だ? 俺の欠点……容姿? いや、別に不細工って程では。
性格? 覚えが無いな。自覚してないという場合もあるだろうけど。
地味さ? ……だとしたらどうしようもねぇけど。
ちょっと、自分じゃ分からん。ならば、他人に聞くか。
時間は……まぁ、大丈夫だろ。
「はいもしもし!」
「俺。怜二」
「怜二ー? ……あ、TPか」
「お前さ、俺のデータも記録してある?」
生徒・教師問わず、学校中の人間のデータを持つサルなら、俺の欠点も分かってるはず。
自分では気づかない欠点も、教えてくれるだろ。
「してるけど、どしたー?」
「お前的に、俺の欠点て何だ?」
「欠点ねぇ……モテない的意味でのだったら、100円な」
ちょっと訂正。
『金次第で』教えてくれる。
「明日学校で払う。教えてくれ」
「あら意外。色気づきましたか」
「まぁ、な」
「ほいほい。そういうことなら教えてさしあげましょう。
怜二。お前がモテない理由は、『いい人止まり』タイプだからだ。
TPの印象は勿論、お前って何かと世話焼きだろ? それも地味な所の。
ぶっちゃけると、全っ然キラキラしたとこがないんだよ。
でもって隣に居るのが透だろ? 恋愛対象になるかって言うと……ねぇ?」
「…………否定できん」
そっか……俺、『いい人』で止まるのか……
彼氏にしたいタイプではないのか……
「それと、何か特化したものあればいいけど、お前って何でもそこそこタイプだろ?
まぁ一つ一つ見ても結構できるから、器用貧乏って訳じゃねぇけど、やっぱり目立たない。
となると、ブッ飛んだルックスの透と比較すると、やっぱりイモ臭く見える訳よ」
「……うん、すげぇ納得した」
浅く広くなんだな。そりゃ透には勝てん。
「ちゃんとアピールして、気づいてもらえればいいんだけど、今のままだとキツいかもな。
ガチで彼女作りたいなら、何か特化させとけ。以上」
「サンキュ。んじゃ、また明日」
「おう」
人に聞くことで、分かることもある。
俺の問題点は『いい人止まり』であること。
んじゃ、脱却するしかないか。どうやるかは別として。
翌朝、昇降口。
早目に来たから、いつもより時間に余裕がある。
「おっはー! 情報料の徴収に参りました!」
「ほら、100円」
「まいど!」
やっぱりサルも来ていた。
「で、実際誰狙いよ?」
やっぱりサルに聞かれた。
「『誰でもいい』ナシな。面し……失敗するだろうし」
「面白くねぇ」って言いかけやがったなコイツ。
んじゃ、面白い回答してやるよ。
「一応、いるにはいる」
「はいはい?」
自分でも、無茶だと思う。
だけど、彼女になって欲しいのは誰だ、と言うなら。
「雫かな。水橋雫」
その人物の名を挙げた瞬間、俺は初めて、表情の固まったサルを目にした。