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29.踏み出せ脇役

(俺は、変わるんだ)


原点の原点を思い返す。

本気の彼女作りをしようとしたのが、全ての始まり。

水橋を変えていくと共に、俺自身も変わっていく必要がある。

変わっていかなければ、今まで通りの脇役生活なのだから。


(水橋に、感謝しなきゃな)


平凡な日々に訪れたイレギュラー。

それはきっと、いい方向に転がっていくはず。

……いや、転がそう。何だかんだ言っても、俺は脇役補正ガンがかり。

主人公補正を持ってないなら、努力と行動で事を変えてくしかねぇんだよ。




「で、俺の傘をパクりました、と」

「まぁ……結果だけ見れば、そういった形に見られても仕方ないというか」

「そうとしか言わねぇだろ」


ということで、まずは近くから。

傘パクの件を、透に詰問してみる。


案の定、透は古川先輩との相合傘の為に、俺の傘をパクっていた。

今までだったらスルーしてましたが、それはもうやめだ。

こういう所をしっかり怒る。そこから始めよう。


「先輩、髪長いから濡れるとヤバイだろ?

 そう思ったら、助けねぇとって思ったわけよ」

「俺のことはどうでもいいってことか?」

「違うって! っつーか、もういいじゃん? な?」

「あのなぁ……」


謝りもせずなあなあに持っていこうとしやがってる。

この図太さ、ある意味尊敬するわ。あくまで『ある意味』でだが。


「まぁ何だ、置き傘は危ないって分かってよかったじゃねーか!」

「お前のせいだからな!?」


ダメだ。こいつ完全に開き直った。

長いこと幼馴染やってるけど、思ってたよりこいつクズい。


「最低限、ちゃんと謝ってくれ」

「えー? もういいじゃんかよ」

「お前、何やったか分かって……」

「あーはいはいすいませんでした。これでいいな」


さてここだ。今までの俺はここで切り上げたんですが、今は違う。

ビシッと、キツく言わせてもらおうか!


「この野……」

「そこまでよ。いい加減になさい」


お、門倉。

お前、優等生だよな? なら加勢するのは勿論。


「過ぎたことをいつまで引きずるつもり? 女々しいわね」

「なー? だから頼むぜ怜二ー?」

「……あのなぁ」


そうだよな。お前の行動原理は透優先だよな。

分かりきってることだったよ。


「透君。今日は私の傘に入りましょう」

「あぁ。宜しく頼むよ」


俺だけが変わっても、透がそのままならこれまで通り。

主人公補正でもって、どんなことでも都合よく転がる。


……何だかなぁ。

変わろうとした矢先に、何でこうなるのかね。




「お疲れ様。災難だったね」


少し久しぶりの、水橋との電話タイム。

声色から何かあったことを察したらしく、俺のグチを聞いてくれた。


「悪いな、グチっちまって」

「ううん。藤田君は頑張ってるんだから、気にしないで。

 グチぐらい、ボクでよかったらいくらでも聞くよ」


めっちゃくちゃに贅沢な吐き出し先だよ。

水橋と会話する度に、俺は本当に幸運な男なんだなって思える。


「門倉さん、神楽坂君のこと好きだとは思うんだけど、おかしいよね?

 いくらなんでも、嫌われたり、道理を捻じ曲げてまで透君の肩持つことも無いと思うんだけど」

「だよな。何かあるとは思うが」

「穂積さんも好きみたいだし、神楽坂君ははっきりした方がいいと思う」

「俺も前にそう言ったけど、はぐらかしっ放し。下手すりゃ他人事扱いにしてる」

「……神楽坂君、女の子の気持ちを弄んでない?

 一度、みんなから思いっきり嫌われちゃえばいいのに」


透。水橋が毒を吐くなんて相当だぞ。

だが、それも当然のことだ。いい加減、曖昧な態度のままで居続けることはやめろ。

関わってる全員、不幸にさせちまうだろが。


「あっ、ごめん。嫌なこと言っちゃったよね。藤田君の友達なのに……」

「いや、そう思う気持ちも分かる。今日はありがとな。グチ聞いてくれて」

「ううん。ボクも藤田君の助けになりたいから。それじゃ、また明日ね」


透で溜めたストレスを、水橋で解消する。

ああは言ってくれたけど、水橋もあまりいい気持ちにはならんだろ。

自分のわだかまりは、自分で処理しないと。




翌朝。


「おはよー」

「おは……どうした、それ」


雨は昨夜で上がったはずだが、何故か透はずぶ濡れ。

しかも微妙に臭う。


「水溜りに猛スピードで来た車からバシャーっと」

「あぁ、成る程……」


それは距離とることでしか防げないな。

ご愁傷様。




透の不幸は、これだけでは終わらなかった。


「痛っ!」

「どうした?」

「痛ってぇ……紙で指切った」

「あー、地味に辛いヤツ。後で絆創膏貼っとけ。保健室行って」


「ふわぁ……うぇっ!?」

「今度は何だ?」

「欠伸したら、口の中に虫突っ込んできた……」

「それはまた……」


「あっ」

「……はいはい?」

「消しゴム……」

「見事にちぎれたな。使いにくい感じに」


主人公補正持ちとは思えない、不運の連続。

今までの透には、まずありえなかったことばかり。

どうしてこんなに……待てよ、もしかして。


(これ……水橋が?)


この前の勉強会だって、そうだった。

透が主人公補正を持っているように、水橋も何かの力を持ってて、

水橋から嫌われた透が、その餌食になった……のか?

だとしたら、水橋の力は透の主人公補正を超えている。


(……いや、んな訳ないか)


偶然だろ偶然。

唯一、素を知ってる俺が水橋の噂に毒されてどうする。

だが、いずれにせよ因果応報だ。他人の不幸を喜ぶようで行儀はよくないが、

これで透も、多少は反省……


「俺が何したってんだよー」


しねぇよな。原因不明だし。


何にせよ、俺は変わると決めたんだ。

多少の苦難で心が折れてたら、変わるものも変わらねぇ。


透。

俺はそろそろ、お前の脇役をお暇させてもらいますよ。

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