28.お猿のじょうほうや
勉強会から、変わったことが二つある。
「雫、おはよう!」
「……おはよう」
「今日も読書か。そのうち、俺にも何か紹介してくれよ。
そのうちでいいからさ」
まず、透はこれまでと比べると、無理に水橋に絡まなくなった。
狙いを外した訳ではなさそうだが、以前のような強引さは鳴りを潜めている。
思えば、透が何かしらやらかすことは結構あるが、それで誰かに怒られた所を、
俺は見たことが無いし、聞いたことも無い。
下手したら、あの時の水橋が初めてってことすらあり得る。
それが、影響しているのだろうか。
そうじゃなかったとしても、この変化には何かしらの理由があるはず。
水橋を引き入れるには強引に迫るのはまずいと思ったか、それとも一回間を置くことにしたのか。
いずれにしても、まだ警戒は外さない方がいいだろう。
「おはよう、雫ちゃん!」
「……おはよう、穂積さん」
「もー、だから鞠でいいって言ってるのに」
「……下の名前で人を呼ぶの、苦手なんだ」
「そうなんだ。なら、無理しなくていいよ。けど、いつかは鞠って呼んでね?」
「うん」
そして、水橋の状況が少しだけ変わった。
勉強会以来、穂積と会話をしている所を時折見かける。
これは素直に喜んでいい。今までになかったプラスの変化だ。
クラスメイトとの繋がりの起点ができたのは大きい。
あと、安心した点が一つ。
声を上げたということは広まっていないらしい。
せいぜい、サルのメモに記録されてるぐらいだろ。
「おはよーごぜーやーす! 怜二、ちょっといいか?」
「ん? 何か用か?」
噂をすればサル。
何だ。あまり面倒事はごめんだぞ。
「先に言っとく。この前は本当にごめん。ポテチといいその後といい、
何かと迷惑かけちまってすまんかった」
「いや、それはもういいんだ。……で、本題は?」
「率直に聞くけど、水橋と何かあったん?」
「特に何もないが」
「ほう。何もないのに気にかけられたと。
ま、訳分からんヤツってのは元からだし、気づかない内にってこともあるか」
勉強会の件か。
何気に、俺が水橋の事を彼女にしたいということを知っているのは、現在二人だけ。
水橋のアニキの海さんと、サル。本人は勿論、透も透ハーレムの女子も知らない。
「透に靡かないってとこもあるし、ワンチャンもしかしたりするんじゃね?」
「だといいんだけどな。0から0じゃなくなるのは大きい」
「頑張ってくれよー? 今のダントツ注目ネタだからなー?
『TPの無謀な恋活劇! 完全無欠の女神様に挑む1000日戦争』は」
「卒業してなお戦い続けるのか」
「留年と言う可能性も」
「あってお前だけだろ」
「この野郎! 否定できん!」
サルの学力は本人曰く、平常点の存在に感謝するレベルとのこと。
頭の回転は早いが、情報収集能力に極振りしたらしく、成績は芳しくない。
「もいっこ聞こうか。透もどうかしたのか? 急に水橋から離れたみたいだけど」
「さぁ? 無理だって悟ったんじゃねーの?」
「関係あるとすれば、それこそこないだの事だろ。
……なぁ、これって水橋の気持ち次第で、結構面白いコト起きてんじゃね?」
典型的過ぎて笑えてくるくらいに、よからぬこと企むニヤけ顔。
こうなった時のサルは、ロクなことを考えていない。
「面白要素てんこ盛り盛り大盤振る舞い。どうあれ、期待してるぜ?
女子に人気のスイーツ情報他、激アツデートスポットの紹介も任せとけ。
この前の詫び込みで、金は取らねぇからよ」
「んじゃ、そん時は宜しく。透程じゃねーけど、協力してくれるなら、
俺も何かの形で返すからさ」
遊びになら2回行ったけど、デートか……相当先だろうな。
万が一に備え、今後もサルを上手く使っていこう。
【サルの目:生徒データ帳】
・岡地 勝
報道部
ルックス C
スタイル C+
頭脳 D+
体力 A
性格 C
【総評】
我ながらロクな男じゃねぇ。
透から女子を紹介してもらうも、元が透好きの女子だし、無理。
といっても、彼女欲しいし、俺単体じゃもっと無理。
これ以上にいい手が無い以上、仕方ないっすわ。
総合ランク:C