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25.諦め悪いな……


「勉強会、ねぇ」

「そ。サルとか鞠も誘って、教えてもらうのに麻美呼んで。

 あとさ、お前から雫誘ってくんね? あいつ成績すげぇいいだろ?」


T()自身がP(パイプ)を使うか。

どうやら透は、どうしても水橋とお近づきになりたいようで。

この前の門倉が出しゃばった一件とか、メシの時とか、その辺から見て、

水橋と関係を持つには、俺経由がベストだと判断したらしい。

流石に、俺と水橋の本当の関係がどういうものかまでは、分かってないはず。


「別にいいけど、あくまで『勉強』会ってこと忘れんなよ。

 俺もそこまで余裕ある訳でも……」

「あーうんうん分かってる分かってる。そこはちゃんとするから」


突然勉強会とか言い出して、そこに水橋絡めたら魂胆丸分かりだっての。

といっても、水橋があの成績維持してるのは才能だけではなく、日々の努力(ゆえ)

そこを考えると、こんな無為な勉強会に参加する線は薄いだろ。

聞くだけは聞くが、ね。




『やってみたい』


予想外の答えが来た。形だけの連絡のつもりだったんだが。

また一体どうしたんだ水橋さんよ。


『テスト勉強大丈夫なのか?』

『今のところは。そろそろボクの方から、こういうことに参加しなきゃ。

 前に門倉さんが言ってたのとは違うけど、少しずつ、皆と関わり持たないと。

 今までは藤田君に助けてもらってばかりだし、こういう機会は大切にしたい』


変な所で積極性を持たれたな。アレは完全に門倉のエゴによるやらかしだが。

今回も現場に俺はいるから、大きくトチるってことはないと思うが……


ただ、本人がやりたいって言うなら、それを無碍にするのも宜しくない。

それに、水橋の学力は文句なしのトップレベル。そこだけ見れば、勉強会のエース間違いなし。

参加メンバーも俺と透にサル、穂積に門倉と、クラスメイトだけ。

足元を固めていきたい今、好意的に捉えれば渡りに船なイベント。

……では、あるんだが。


『透来るんだけどさ、あいつ、勉強する気はねぇ。

 ほぼ確実にお前狙いの口実だ』

『……神楽坂君のこと、正直ちょっと苦手なんだよね。

 いつも色々言われるんだけど、ボクの話聞いてないみたいで』


(からの)水橋、脈なしどころじゃなかった。明確に嫌がられてる。

思えば当然のことだ。あいつから主人公補正抜いたら、ただのウザいヤツ。

主人公補正が効いていない水橋からは、そう見られるのも自然なこと。


『藤田君、お願いがあるんだけどさ。

 神楽坂君とボクの距離、ある程度離すことってできる?』

『お安いご用だ』


誰かと会話の経験は増やしていきたい。しかし、透には狙われたくない。

そういうことだったら、きっちりサポートさせて頂こう。


『ありがとう。いつもお願いばっかりでごめんね』

『何言ってんだよ。海さんじゃねーけど、もっと俺を頼れ。

 それじゃ、日程合わせるか。何か不安になったら俺に聞け。

 ある程度の立ち回り方ぐらいなら、教えられないこともない』

『その辺は信頼してる。宜しくね』


水橋にはまだまだ補助輪が必要だし、必要としている。

透に絡まれないことを最優先にしながらも、会話の感覚をうまく掴める様に、

このイベントを活かそう。




数日後、勉強会当日。


参加メンバーは、男子が俺と透とサルの3人。女子が穂積と門倉と水橋の3人。

合計6人での勉強会となった。

それぞれの学力レベルを考えると、とりあえず均整はとれているはず。


そして会場は、俺の家にした。

透が水橋の家に上がり込むことを狙っていたから、さっさと決めた。

水橋にも根回しして、適当な理由をでっち上げさせたし。


「よろしくね、みんな!」

「私は透君以外に教えるつもりはないわよ?」

「麻美。今日は勉強会なんだから、皆で協力し合おう。

 俺も英語だけなら教えられるしさ。皆でテストの点数、上げようぜ」

「……まぁ、透君がそう言うなら」


いずれにしたって、この勉強会の成否は俺の立ち回り次第。

各々に、特に水橋に得るものがある時間にしたい。


「……その、宜しく」

「水橋、頼りにしてるぜ。色々教えてくれな」

「……うん」


さて、本日も脇役仕事を頑張るか。

俺自身の学力向上は二の次、三の次。場の空気と流れを常に読まないと。




勉強会は、思いの外順調に進んでいる。


入り口からの動き方、そして水橋への事前通達など、色々やった甲斐あって、

席順が理想的な形で決まったのがラッキーだった。

勉強会用に出した円形のテーブルを囲む形で決まった席は、

俺から時計回りに、水橋、サル、穂積、門倉、透。

狙いの『透と水橋の間に俺が入り』、『門倉が透の隣に来る』を共に満たせた格好。


「ほら、この形にすれば因数が出てくる」

「すごーい! 麻美ちゃん、よく分かったね!」

「こんなの基礎中の基礎よ? この程度が出来ないようじゃ……」

「基礎って大事だよな。麻美、ありがとう」

「透君……えぇ、そうね。基礎は大事よね」


こうすれば、門倉の暴走は透が止めるし、水橋にちょっかいは出しにくい。

こんな些細な心がけだけで、事故率は下げられる。


「この文だと対象は主語だから、isn'tが入る。

 悩んだ時は引っかかってる品詞が何かを考えればいい」

「あ、それだけなん? 結構ラクだな」

「分からない単語があったら、文脈から推測して。

 具体的な意味が分からなくても、種類さえ分かれば一緒だから」

「盲点だったわ。サンキュ」


他の懸念としては、水橋が『頭はいいけど教え下手』だったらどうするか、だが、

サルですら分かるようにできるという教え上手だったので、何ら問題は無い。

思えば、自分にとって得意な分野の話とも言えるし、杞憂だったか。


「ったー! 疲れた! そろそろ休もーぜー?」

「岡地君。あなたは集中力も猿並みなのかしら?」

「猿で結構! 俺は休む!」

「あなたって人は……!」

「まぁまぁ落ち着けって。麻美のおかげで結構進んだし、一回休憩しようぜ?

 な、いいだろ?」

「透君……でも、それもそうね。穂積さんも意外と物分りよかったし」

「麻美ちゃんのおかげだよ。とっても分かりやすかった」

「……どうも」


煽りを正面から受け止めながら流すサルと、どこまでも純粋な穂積。

なるほど、門倉に対してはこういう接し方が効果的なのか。

本人としては言い返されるの前提で進めてるつもりなんだろうけど、

そこで想定外に受け入れられたり、そのまま礼を言われると逆に対応に困る、と。


(意外と御しやすいのかもな)


今後のことを考えると、この情報はインプットしておくべきだろう。

透がいない時の門倉の宥め方として、覚えておいて損は無い。


「それじゃ、休憩にしよっか。私、ケーキ焼いてきたんだ」

「怜二、何か飲みもんあるー? 俺ポテチ持ってきたけど」

「一回片付けてから開けろよ? 待ってろ、烏龍茶か何かがまだ……」


こう、一度路線がズレると戻りにくいというのは承知の上ですが、

門倉もいることだし、流石にずっと休憩しっ放しで終わるってことはないだろ。


それより重要なのは、一旦だけど俺が抜けることだ。

飲み物、始めっから部屋に持ってきてればよかったな。

つっても、ほんの1分そこらだし、それくらいなら水橋でも……


「………………」


……アレ? もしかして、割とガチで不安?

あ、そういえば俺が抜けると、水橋と透が隣に……


(30……いや、20秒で戻る)


急ごう。この主人公様から目を離すのは危険だ。

こいつに対して常識は、基本通用しない。

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