表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/236

24.妹さんを俺に下さい

「おう乗れ乗れ! 泥とか気にすんな! 別に新車じゃねーんだ!

 シートベルトは締めとけよ? 半ドアになってないな? 荷物は前に置いてもいいぜ? 

 結構降ってるから遅めだけど、その辺は了解頼むぜ!」


息継ぎなしで、一気に。コミュ障? なにそれ食えんのか? っていうレベル。

水橋とは同じタイプじゃ……って、今いるのはどっちも水橋か。

確か、アニキの方は『海』だったっけ。


「お兄ちゃん、落ち着いて。嬉しいのは分かるけど」

「いやー、家族以外の誰か乗せてみたかったんだよなー!

 大学行ってたらあったかもしれねぇけど、その辺が高卒社会人の辛い所よ!」


テンション高ぇなー。八乙女基準だとまだマシだけど。

それにしても、男前だな。この辺は兄妹って感じ。

それも透みたいなアイドル系でもなければ、陽司みたいなワイルド系でもない。

例えるなら『下町の気っ風のいい兄ちゃん』。明るく爽やか、いつでも元気。そんな感じ。


「で、藤田……怜二だっけ? 家どのへん?」

「ここからだと、あっち方面ですね」

「お、方向一緒か。んじゃ近くになったら教えてくれ」

「もしかして、結構近かったりするのかな」

「かもな。ということで、宜しくお願いします」

「固くなんなって。年違うだけなんだからよ」

「あー……それじゃ、宜しくッス」

「おう!」


いい人っぽいですね。水は……海さん。

ところで、俺のこと伝わってたりするんだろうか。

水橋が俺のことをどう見てて、どう伝えたかにもよるけど。


「お兄ちゃん、最近の体調は?」

「まーなんとか。仕事に支障ねーくらいにはもってる」

「気をつけてよ? お兄ちゃん、身体弱いんだから……」

「大丈夫だって。お兄ちゃんは雫の為なら、いくらでも働けるんだぞ!」

「もう……そういうところが不安なんだけど……」


兄妹仲は良好っぽいな。

水橋の素は勿論として、悩みはどこまで知っているんだろうか。


「怜二、話は聞いてるぜ? 色々ありがとな」

「いやとんでもないです。こちらこそ」

「ま、うちの妹と仲良くなれて、嬉しくねぇ男なんている訳ねぇけどな!」

「お兄ちゃん!」


ガハハと大笑いするアニキにツッコミを入れる水橋。

この感じ見ると日常茶飯事っぽいな。そしてシスコンの気があるようで。

そこから考えると、素の水橋を抑圧してないと見ていい。

水橋の悩みに家庭環境が絡んでると面倒だったが、これはいい情報。


「で、どうなんよ? 雫のイメチェンの進捗は?」

「申し訳ないですけど、ほぼゼロですね。実質的には特に変わってないというか」

「ボクがもっと勇気出せばいいんだけど、その……」

「いや水橋は悪くねぇよ。それに、完全にゼロって訳じゃねぇだろ?

 この前はそれなりに会話できたし、これからだろ」

「……ありがとう」

「お兄ちゃんも頼っていいんだぞ? 遠くの親戚より近くのお兄ちゃん!

 近くの友達よりもっと近いお兄ちゃんだからな!」

「お兄ちゃん、それ藤田君のこと貶してる?」

「いや違うって! 怜二が頼りにならないんじゃなくて、俺が頼りがいありすぎる……」

「冗談は体調崩す頻度だけにしてね、お兄ちゃん」

「あっ、はい」


家族との会話は普通以上にできてる。

気持ちの言語化はできるけど、気心の知れた相手じゃないとダメ、か。


ただ、そうなってしまうのも仕方ないというか、そう思わせてしまった事件もある。

購買に行っただけで、あんなことになったりとか。

水橋のことを噂からしか知らない奴らは、変なイメージ持ってるのも事実で、

そういった環境に置かれたら、誰だって人と話すのが怖くなる。


今、どうにかするとなったら、穂積みたいな誰とでも分け隔てなく接する奴がいる。

そこを起点に少しずつ、『気心の知れた友達』の範囲を広げていけばいい。

その中で素を出していって、いつの間にか本来のキャラが定着……それが理想。

俺の欲望に関しては、その後でいい。


「仲、いいんだな」

「あ、分かっちゃう? そーなのよ、俺と雫は超仲いいのよ。何せ……」


水橋から耳打ち。

「話半分で」ね。OK、了解した。


「とまぁ、そういう……って、そろそろ着くな。怜二ん()はまだ先?」

「もうちょい先ですね。ここから走るんで下ります」

「いや折角だから家の前まで送らせてくれ。な?」

「うん。なるべく濡れないようにしないと」

「じゃ、お願いします。水橋、またな」

「うん。またね」


車から下り、玄関へと駆けていく雫。

近くはないけど、俺ん()から徒歩圏内か。

遊びに……行けたらいいなぁ。


「さて……時に、怜二君や」

「はい」

「ぶっちゃけ、うちの雫をどうしたい?」


……うん?


「と、言いますと?」

「男と女の関係になりたいかってことよ」

(……マジっすか)


核心に、秒で踏み込んでこられた。


どうすっかな。何となくだけど、この人に対して嘘はバレる予感。

かといって、そのまま正直に話すっていうのも危ない。


透だったら、それっぽくはぐらかすだろうな。

なら、脇役補正かかってる俺は……逆で行ってみるか。


「えぇ。彼女になってくれたらな、って思ってます。

 とはいえ、到底釣り合う男じゃないんで、まずは自分を磨いてから、ですけど」

「ほぉ……」


正解の無い問いは、どう転ぶにしたって正直であるのが最善。

変にごまかすくらいなら、堂々打ち明けていい。

それで今後の関係がギクシャクするなら、それが天命だったってことよ。

さて、どうなることかね……


「うん、気に入った!」

「!?」

「お前、中々いい男じゃねーか! お前のこと気に入ったよ!

 その堂々たる心意気、いいじゃねーか! どっちつかずな事のたまう奴の百万倍いい!」


……ありがとうございます。

そう言ってもらえると、助かりますし、勇気付けられます。


「まっ、せいぜい頑張れや!

 応援はしねーけど妨害もしねぇからよ! 本人が認めたら、義弟にしてやるよ!」

「……あざっす。あ、そこ曲がったらすぐです」

「おう。そうだ、メルアドと番号教えてくれね?

 今後、何かあるかもしれねーしさ」

「はい、構いませんよ」


シスコン兄さんから認められた。

この関係、まだまだ続けられそう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ