234.追い詰めた
ゲームセンターへと向かい、真っ直ぐ向かう先はプリクラ。
夏休みの時に撮ったのは、あくまで友達としてのもの。
今回は紛れも無く……恋人同士としてのもの。
その違いは大きい。
「さーてーとー。どういう感じに撮ろっかなー♪」
設定諸々は雫に任せて、俺は後ろで楽しそうな姿を堪能。
密室のドキドキには慣れないが、それもまた楽しい。
……ん? この感じ……もしかして。
「雫。ひょっとして香水つけた?」
「気づいた? 実はちょっとだけ試してみたんだ。どうかな?」
カラオケで抱き合ってる時は緊張しすぎて、気づかなかったのかも。
それかここに来る途中にさりげなくつけたか。
いずれにしても、この甘酸っぱくも爽やかな香りは。
「いいと思う。この落ち着いた中にも華やかさがある感じ、雫っぽい」
「ありがとう。怜二君もそう思うんだね。お母さんも同じこと言ってた」
「ありゃ、かぶったか」
「正直に言うとね、お母さんから怜二君へのテストだって。
小さな変化にも気づくかどうかっていうことで。
試すみたいなことしちゃってごめんね?」
「いいっての。大事な娘の彼氏が気になるのは当然だ。
渚さんの場合、それ以外の意味も含んでると思うけど」
「ボクもそう思う。けど、怜二君って本当に凄いね。
脚にちょっとつけただけなのに」
「雫の変化が分からないほど、俺の嗅覚は衰えちゃいねぇよ」
「ふふっ、おしゃれの楽しみ増えちゃった♪」
小さなことにも気づき、それを素直に褒める。
俺もそれなりに、彼氏っぽいことはできているのだろうか。
「これでよし、と。それじゃ1枚目はこれにしよっか」
左手の親指以外の指を曲げ、写真の中央付近に持ってくる。
これは……こういうことか?
「こう?」
「そう。はい、チーズ」
俺も同じように右手を曲げ、指を合わせる。
撮られた写真の真ん中には、互いの手で作ったハートができた。
「これやりたかったんだー♪ それじゃ次は……こう」
俺の腕を抱いて、頭を肩に乗せた。
この場合は、静かに受身になったままでいいか。
さて、次が3枚目だから……こっちからも仕掛けるか。
「雫、中腰になれる?」
「こんな感じ?」
「あぁ、で、こうする」
体重をかけないように注意しながら、後ろから抱きしめて顎を雫の頭に。
さっきまでとは違って、縦にお互いの顔が並ぶ形。
「この包まれてるの……怜二君を感じる」
(言い方!)
俺から攻めたつもりが、綺麗に打ち返された。
こういうのを突然言ってくるから、中々勝てない。
それもまた、雫の魅力ではあるんだけども。
「それじゃ、今度はボクが後ろね。屈んで」
「ほい」
後ろに回った雫が俺を抱きしめ、4枚目がパシャリ。
次がラストだが、どうしようかね。
「怜二君。ここでお姫様抱っこできる?」
「ここで!?」
最後の最後にとんでもないお願いが来た。
確かにちょっと後ろに下がれば、ギリギリ二人とも写るが……
(いやいや、雫の望みを叶えるのが俺の役目だろ!)
この期に及んで何を恥ずかしがる必要があるんだよ!
況してやここは誰にも見られていない! 何が恥ずかしいんだよ!
プリクラの撮影履歴って普通に見られるって聞いたことはあるけどさ!
「分かった。ほら、俺の膝に座れ」
「お祭りの時以来だね」
「だな。それじゃ行くぞ、せーのっ!」
夏祭りの時と同じ手順で、雫をお姫様抱っこ。
あの時の雫は憑依状態だったし、俺との関係は仮初めのカップルでしかなかった。
それが今じゃ……『水橋雫』そのものを、恋人として抱えている。故に。
「イェイ!」
満面の笑みで、カメラに向かってピース。
憑依先のキャラじゃなくて、本来の雫のキラキラ笑顔。
俺も思わず、笑顔になってしまう。
「ふふっ、これでボクは本当にお姫様……♪」
「あの時より軽い気がしたんだけど、大丈夫なのか?」
「怜二君が強くなったからだと思うよ。体重変わってないもん」
雫に相応しい男になる為の自分磨きは、今も続けている。
ただの筋肉ダルマになる訳にもいかんから、その辺は調整してるが。
「それじゃ、後は落書きするか」
「待った。その前にやることがあるよね?」
「え?」
やること……? 撮影は終わったが、何をやるっていうんだ?
落書きタイムも時間制限あるし、他のことをしても仕方ないと思うんだが。
「プリクラの中って二人っきりだよね?」
「まぁ、そうだな」
「仕切りがあるから、誰にも見られないよね?」
「足元以外は見えないな」
「ここには監視カメラもないよね?」
「あったとしても、筐体に危害加えなければ録画は……あ」
これ、言い訳できないな。条件が完全に整ってる。
案の定、雫も首元緩め始めたし……
「キスマーク、つけて」
そうなるよな。……覚悟を決めるしかないのか。
俺の手で、雫の身体に痕をつけることになるのか。
「……分かった。希望は鎖骨だったよな?」
「うん」
襟をくいっと引っ張って、露になった鎖骨はうっすらと見える程度。
確かにここなら、制服で隠れる位置ではある。
……やるか。理屈を並べ立ててもしょうがない。
「行くぞ」
「うん……来て」
雫の体を軽く抱き、首元にそっと顔を埋め、鎖骨に口付け。
そうしたら歯を立てないように注意しながら……強く吸う。
「んっ……」
雫の喉から、嬌声が漏れた。
それが一層、今している行為の背徳感を煽る。
中途半端にやってもう一回やる羽目にならないように、しっかりと……
「……ぷはっ」
キスマークをつけたことなんてないから、時間は直感で。
さて、これでどうだろうか。
「どう?」
「……一応、できてる。スマホの自撮りで確認してみろ」
雫につけられたもの程ではないが、明らかに変色している。
それがどういう方法でつけられたものかは分かるだろう。
「わぁ……本当だ」
「これで満足か?」
「うん。……えへへ、これでボクは怜二君のモノだ……♪」
こんなものつけなくても、雫は俺の彼女なんだけどな。
もしかしなくても、雫って若干Mっ気があるのかも。
「今後は、こういうのは控えめにしてくれよ?」
「あー……わがまま言い過ぎちゃったよね。ごめん」
「謝る程でもないけどさ。たまに程度で頼む」
恥ずかしくはあるが、悪い気はしていない。
自分の彼女に俺のモノという証をつけることは、嫌じゃない。
けど、あまり要求されると俺の心臓が保ちそうにないし、何より。
「キスマークがあってもなくても、雫は俺の彼女だ」
「勿論。怜二君の気持ちを疑ってなんかないよ」
これは雫の可愛いおねだりであり、そういう意味ではない。
だから、この想いはお互いに一致しているけど。
「落書き時間減ってるから、急ぐぞ」
「うん。まずは最初の手作りハートを塗りつぶして……」
目に見える証をつける必要がある程、俺と雫の結びつきは弱かねぇよ。




