229.女神様の素顔、お披露目の日
俺と雫が恋人になった翌日。
どう振舞うかに関しては、お互いに考えが一致した。
「おはよう」
「はよー……おぉ!?」
翔の驚きも当然。教室に入る時点で、俺の手は雫と恋人繋ぎだから。
隠す意味もないということで、フルオープンで行くことにした。
「えーっと? これはつまり?」
「告白した」
「告白された。昨日からボクは怜二君の彼女」
「クーッ! おめでとうございまーす! ……って待て。
水橋って男だったん?」
「違うけど」
「じゃあ何で『ボク』なんだ?」
「漫画のキャラの真似。普段はむしろこっち」
そしてこっちも完全公開。口調はあまり変わってないけど。
一人称については悩みどころだったが、雫の希望に基づいてる。
どうせ自分を出すつもりなら、特徴的でインパクト強い方がいいとのこと。
本人曰く「大学に入るまでには直すから」とのことだが、
俺としてはどっちでも可愛いから何の問題もない。
「へぇ。ボクっ娘ってヤツ?」
「何か問題でも?」
「いや全く。正直ちょっと痛いとは思うけど、
ぶっちゃけ俺の感想とかクソどうでもいいだろうし」
「ボクも正直そう思ってる」
「ツッコミが怜二じゃなくて水橋から!?」
翔と一連の流れをしてたら、クラスがざわついてることに気づく。
そりゃまぁ、学校の女神様に彼氏ができて、しかも相手はモブ男。
加えて女神様だと思っていた少女は普通のJKでボクっ娘。
一大事どころの騒ぎじゃない。
「おいおい! 水橋マジで言ってんの!?」
「私藤田君ちょっと狙ってたのにー!」
「まさか女神をオトす男がこんな近くにいたとは」
「女神様と召使い……あぁ、これは捗るわぁ……!」
飛び交う声、声、声。なんか妙なコトぬかしてる奴もいるが。
ん、何か教室の隅から誰か突っ込んで来て……
「おっシズー! 好きな人って藤くんだったんだねー!
今度おのろけ聞かせてよー!」
「怜二君、大丈夫?」
「別にいいぞ」
割って入ったのは日下部。修学旅行以来、仲は良好らしい。
考えてみれば、あの頃にはもう八割方出せてたし、
そういう意味での驚きはあまりないのかもしれない。
「いやーめでたい。本当にやりやがるんだもんな。
こりゃ怜二の評価は改めねぇと」
「したとしてもしょうがねぇだろ。俺が好きなのは雫だけだ」
「ボクが怜二君を嫌いになるなんてありえないから」
「……ウッス。個人使用に留めます」
サルの生徒データは主に恋愛事情のサポートに使われる。
裏を返せば、彼氏・彼女がいる生徒のデータはほぼ意味を為さない。
「おめでとう。怜二なら絶対上手く行くって思ってたぜ」
「……え、ちょっと待て。お前ら知ってたん?」
「あれ、秀雅は知らなかったん?」
「いや全く。……怜二くーん? これはどういうことかなー?
この鉄人、恋愛のことだったら専門分野だぜー?」
「三択出てる時限定だろ?」
「よく分かっていらっしゃる」
「あ、でもゲームみたいなシチュはやってみたい」
「よっしゃ! 俺の特選ギャルゲーから……」
「雫を汚すな」
「ウッス」
「これから怜二君といくらでもやれるしね」
「素でサラっと言うな」
ベタなとこは一通りやっておきたい所。
一部、付き合う前からやったこともあったりはするが。
「雫ちゃんおめでとう! もしかしてお祭りの時から?」
今度は穂積が寄って来た。恐らくは浴衣コンテストの件だろう。
あの時はまだ、偽装カップルの体だった。
「それも好きになった理由の一つではあるけど、
はっきり意識したのは修学旅行辺りかな。
実は、告白はその前にされてたんだけど……」
「え、藤やんマジで!?」
「あぁ。中間テストのちょい前に告って答え待ってた」
「あんまり考えたことなかったから、時間かかっちゃって……」
「なるほどねぇ。誰かさんと違って真剣に考えた訳だ。
イイ男とイイ女で似合いのカップルだな! このこのー!」
「囃し立てんな」
「誰かさん」か。あいつが結論出してたらどうなってたんだろ。
ずっと他人事にしてた理由があんまりだったから瓦解したが、
選んでいれば違う結末が……いや、あの性格じゃ末路は同じか。
「さてさて、藤くんとおシズがデキちゃったとなると、
お次は一体誰と誰になるんだろうねー?」
「こうなったら鞠んの争奪戦だろ! な!?」
「ごめんね。しばらくは自分の時間を大切にしたい」
「それもそうか。んじゃ、俺は俺で何とかすっか!」
「情報なら教えてやるぜ。今日は気分いいから無料でいい」
「あざっす! それじゃ狙い目を……」
(……やれやれ)
努力の方向音痴というか、何というか。
とはいえ、こいつらのアシストもあっての結果だ。
俺に出来ることがあるのなら、その時は協力しよう。
カッコつけた言い方するなら、幸せのお裾分けってヤツだ。
「あの……水橋さん」
1時間目の休み時間に、門倉が来た。
朝の時は皆を制するかと思ったら、ずっと席にいたな。
「何?」
「えっと……聞きたいことがあって」
「うん」
「えぇ、その……そういう……あっ、嫌なら拒否しても構わないわ!
本当に私個人の下らないことだし、いや下らなくもないけど!
何というか、私も変わる為のことというか、気になるというか、
いやそうじゃなくて! いや、それもそうではあるんだけど、
それはどうでもよくて! えぇっと……」
「落ち着いて。嫌なら嫌って言うし、必要なら聞くけど、
そこまで理由言わなくても大丈夫」
(……本当に変わったな)
口喧嘩になったら一歩も退かない門倉が、自分自身でごちゃってる。
そんなに混乱した状態で何を聞くんだろうか。
「それじゃ、聞くけど……あの、本当に不躾なことだから、
嫌だったらすぐにそう言って頂戴」
「うん、分かった」
「あのね……その、水橋さんは藤田君のどこに惹かれたのかしら?」
(はい!?)
いやいや、変わりすぎだろ!? そういう方向にも変わったん!?
あの堅物の門倉が、まさかまさかの恋バナを持ちかける!?
「いやその嫌味とかじゃなくて! 素晴らしい人だとは分かるわ!
あなたが言ってた通り口は堅いし、努力家だし、誠実だし、
誰にでも優しいし……」
「落ち着いてってば。えっと、今門倉さんが言ったこともそうだし、
ボクのことを守ってくれるし、強いから安心できるんだけど、
たまにボクを思いっきりドキドキさせてくれるとこも好き」
「なるほど……男性的な魅力と恋愛的な魅力を兼ね備えてるのね」
「そんな感じ。でも、難しく考えたりはしない。
『好きだから好き』が一番だし、十分だもん」
「本人がいる前でよく言えるな!?」
「大好きだからね♪」
学生の平日の1/3は学校生活。
透が消え、俺と雫の関係は変わり、それに伴う変化も付随する。
これは慣れるまでに時間かかるな……