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225.決壊リバイバル

(えっ……?)


柔らかくて、温かい。

接している部分がふにりと形を変え、じんわりと熱が伝わる。

微かに感じる振動は、心臓の鼓動だろうか。

……いずれにしても。


(……そういうことか?)


いくら散々に自嘲して諦めてきた俺でも分かる。

いくら雫が突拍子も無い行動するタイプだとしても分かる。

家に誰もいない状況で、自分の部屋に男を招き、

そいつに自分の身を預けるようにして抱きつく理由なんて。


(それなら、当然)


最後ぐらい、俺が決めなきゃ。

あの時の告白より、想いはずっと強くなってる。

そもそもあんな流れで言った告白なんて、告白じゃない。

今の気持ちも含めて考えると、相応しい言葉は……


「雫」

「……うん」




「俺は、世界中の誰よりも雫を愛してる。

 俺と……付き合ってくれ」




歯の浮くようなセリフなんて浮かばないし、いらない。

真っ直ぐに、想いを伝える。

これが一番俺らしく、正直な気持ちを表してる。


「……っ!」

(んっ)


抱きしめる力が強くなった。きっと、これが答え。

どういう意味かは分かるが……少し、欲張るか。


「なぁ、雫」

「……?」

「ここで、答えてくれないか?」


下唇の輪郭を、人差し指でそっとなぞる。

こうして動物的な表現で感情を出してくれることは嬉しい。

だが……俺は、言葉も欲しい。

疑ってなんかないが、より明確に……雫の気持ちを、教えて欲しい。


「……うん、分かった」


背中に回っていた腕が(ほど)かれる。

さて、どういう答えを返してくれるんだろうか。

純粋なストレートか、少女趣味な変化球か。

一体どちらの……あれ? なんか背伸びしてないか?

顔の位置が俺と同じに……!?


「んっ」

(んんっ!?)


確かに、俺が指した場所で答えてくれた。

だが、『言葉で答えた』訳ではない。

抱きつきと同じ……行動で。




それは、俺のファーストキスだった。




キスを何かの味に喩えることはよくある。

レモンとか、ミントとか、砂糖菓子とか、あと煙草とか。

相手やシチュエーションによって、様々なものに喩えられる。

そして……その上で、分かったことがある。

何かの味に喩えられるようなキスは、本気のキスじゃない。


(あ……あぁ……!)


味なんて分からない。理解する余裕がない。

辛うじて、雫の唇は適度な潤みがあるということが分かるぐらいで、

後はただひたすら、『雫』そのものを感じ、

唇の隙間から僅かに流れた唾液が、一瞬で脳を溶かした。


「……ぷはぁ」


雫の呼吸音で、唇が離れたことに気づいた。

どれほどの時間かは分からないが、長いキスだった。

俺の唇には、まだ感触が残っている。


(……伝え方間違えた)


雫の思考の飛躍を考えたが、これ、原因俺だ。

いらないと分かっていたのに、何でちょっとカッコつけた。

どえらい勘違いさせちまって……あれ、雫?


「………………」


……雫さん? え、ちょっと待って?

いや、別に怒ったりしてる訳ではないと思うんですが、

なんか、その……おめめ、据わっていらっしゃいません?


「えっと、雫……?」

「ッ!」

(ふぇっ!?)


雫が視界から消えたと思ったら、首筋に甘い痺れが走った。

何事かと思ったが、今の状態でこんなことができるのはただ一人。

感触からすると……多分、甘噛みされてる。


「んっ、んっ、はぁ、はぁ……」

「雫!? おい雫!?」


息は荒いし、やってることは無茶苦茶だし、完全に正気を失ってる。

キスの衝撃を受けたのは、雫も一緒だったということか?

とにかく、今は何とかして落ち着かせないと。

呼びかけの声には全く反応しないから……俺も行動で示す?

けど、そんなこと……いや、何怖気づいてるんだ俺!

男には強引さが必要な時だってあるだろ! ええい、ままよ!


「雫!」

「んっ!?」


雫の首根っこを掴んで、無理矢理に引き剥がす。

歯を立てていたみたいだからちょっと痛かったが、そんなの無視。

距離をとった所で今度は強く抱き寄せ、唇を奪う。

蕩けるような甘さなんてない、ガサツで荒っぽいセカンドキス。

これが正解かどうかなんて知らん。雫を止めることが先決だ。


「……んっ」

「ん……」


どちらからともなく、離れる。

雫の目は……よかった、光を取り戻してる。


「落ち着いたか?」

「………………」


もう一度、今度はそっと俺の耳元に近づき。

囁くような小さい声で返された言葉は、たった四文字。




「だいすき」




何よりも嬉しくて、何よりも欲しかった言葉。

それが雫から……俺の最愛の彼女から、紡がれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああああ~!正気を失うの何回見ても可愛い~!
[一言] 二人ともおめでとう~!!!!!!
[良い点] え っ ち だ [一言] いやったぜぇぇぇぇぇぇ!
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