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223.脇役と主人公と補正

キレそうな気持ちを……というか、キレてるけど気合で気持ちを抑える。

とんでもねぇ暴言であることは間違いないが、気になることがある。

透の口から、俺に対して「脇役」という言葉が出たのは初めてだ。

思えば、俺は自分は脇役だと自嘲し続けていたが、

それは誰かからレッテルを貼られたとか、押し付けられた訳ではない。

要はただの諦観みたいなもので、勝手に自分で自分を見限ってただけだ。

そして、雫のおかげでそこから目覚めることができた。

……少し、探りを入れるか。


「どういう意味だ?」

「そのままだっての。お前みたいな地味な奴は脇役が一番。

 むしろラッキーだぜ? 俺みたいな主人公の脇役できるのは」


透が自分自身のことを「主人公」と形容するのも初めてだ。

今更になって気づいたが、こいつを主人公様と考えていたのも俺だけ。

他の誰かから言われたことは、俺の知る限りでは一回もない。

で、今こうして言ったということは、透なりの定義もあるはず。


「何でお前が主人公で、俺が脇役なんだ?」

「見た目がダンチだろが。華がある奴は主人公で、地味な奴は脇役。

 当然のことだろ?」

「見た目以外は?」

「見た目さえよけりゃ何でも良く見えるもんよ。

 ま、他のこともお前ごときに劣るはずねーけど」


……なるほど、そういうことか。ようやく分かった。

透が今まで、何でも思い通りに事が進んだ理由は『主人公補正』じゃない。

ただの『ルックスによるハロー効果』でしかなかったんだ。

で、世話焼きな俺は透の横暴で割を食った奴のケアをしたりしてる内に、

透と比較したら地味な容姿も相まって、気づいたら脇役になっていた。

ここまで分かれば、もう殆ど確定だが……一応、答え合わせをするか。


「そんな地味な脇役と付き合ってた理由、幼馴染だから以外にはあるのか?」

「嫉妬避けとか、俺を引き立てるとか? お前使い勝手だけはいいしな。

 このまま俺の脇役やってりゃ、多少は分け前もくれてやったぜ?」

(……うん、間違いない)


はっきり言って、透は狂ってる。

だが、どうやら俺も大概狂っていたようだ。

俺がずっと存在すると考えていた、説明不能の二つの概念。それは……




(『主人公補正』も『脇役補正』も、初めから存在しなかったんだ)




理由なしに何もかもが上手く行く、及びその逆。

そうだとばかり思っていたが、実際は理由があった。

補正だと思っていたものの正体は、容姿からくる印象と俺の行動。

透は自分のズバ抜けた容姿を最大限に活用しようとしていて、

俺はただただどこまでも世話焼きな人間。

それが幼馴染という関係性で結びついた結果、

いつしか主人公と脇役というラインみたいなものができていて、

あらゆる事は透の思い通りになり、面倒事は俺に回るようになった。

ただ、それだけだったんだ。


(全ては、俺の諦めが生んだ幻影だったのか……)


主人公は、脇役がいてこそ成立する。

脇役が脇役をやめたら、残るのは主人公じゃない。

ただの顔だけがいいクズだ。


「んなもんいらねぇよ。というか、お前はもう主人公じゃねぇ。

 鞠に門倉、古川先輩に八乙女と、4人の女子から好かれておきながら、

 ずっと結論を出さずにいたら、全員から嫌われた。

 そんなダサい主人公がどこにいる?」

「俺なら最後はハーレムルートに決まってんじゃん?

 誰かに告ったりしたらバランス崩れるし、告られると面倒なんだよ」

「……結論出さなかったのは、わざとってことか?」

「んー、まぁそういうことになるかもな」


最後の最後に、とんでもねぇことまで判明した。

分かってはいたが、こいつはガチでクズ野郎だったんだな。


「つっても、雫クラスの女だったら一人に絞ったかもな。

 どう騙したんだか、お前にケツ振りやがってるみたいだが」

「騙してなんかねぇし、ケツ振ってもいない。

 ……案の定、水橋も狙ってやがったか」

「鞠レベルで顔がいいからとりあえず合格。

 麻美レベルの頭もあるからテスト対策も万全だし、宿題も消せる。

 雲雀先輩レベルのスタイルだから抱き心地は間違いなく最高。

 あんな極上の女なんてそうはいねぇ。誰か一人選べっつたら雫だろ」

「どんだけゲスいんだお前……あれ、八乙女は?」

「つかさはパシリだっての。貧乳の上にバカだけど従順だし。

 でも、さっさと切るべきだったな。いちいち告白してくるのめんどい」

「お前……それでも人間か!」


分かっていた。クズ野郎だということは分かっていたんだよ。

だが、自分を好きになってくれた相手すら蔑むクズだったとは。

最早、こいつの醜悪さを形容できる言葉はこの世に存在しない。


「じゃ、本題に入るか。

 今からでも俺のマネージャーに戻って、雫くれよ。

 そしたら4人の内誰か一人ぐらいならくれてやるぜ?」

「水橋も鞠も門倉も古川先輩も八乙女も物じゃねぇし、

 況してやお前のモノじゃねぇんだよ!」

「分っかんねーかなー。このツラさえあれば万事上手く行く。

 お前の得られるMAXの幸せはこの辺だろ?」

「お前みてぇなド外道に付き従うぐらいなら死んだ方がマシだ!

 好かれてた女子に嫌われ、全ての悪事が明るみに出てまだ分からんか!」


脇役やるつもりはねぇが、こんなのどうにもできんわ。

好感度は-100%、嫌われる原因になったエピソード多数、

その原因は取り除いたどころか悪化する一方と、どうしろってんだ。


「聞き分けのねー野郎だな。お前、自力で彼女できるとか思ってる?」

「お前が知っての通り、白崎からは告白されたが」

「どうせ罰ゲームか何かだろ。本気にしてんじゃ……」

「いい加減にしろ! 殴られねぇと分かんねぇのか!?」


ダメ。もう無理。これはもう無理だ。

こいつは物理的にも痛い目見ないと分からないらしい。

いや、多分物理的に痛い目見ても分からないだろう。

それならそれでいい。復讐の時間だ。


「……あ、そうだ。それじゃこうしようぜ」

「何がだ!」

「簡単な話だ。ずっと言い争ってるのもアレだしさ」


言い争ってんじゃねぇよ。お前が戯言吐き続けてるだけだ。

何を言おうが、もう実力行使しか……


「タイマンやろうぜ。倒れた方が負けってことで」


……へぇ、そっちから持ちかける?

一体こいつの目には、どれだけ都合のいい世界が見えているのだろうか。

何をどうしたって、身体能力的にはこっちの方が上だが。


「最初からこうしときゃよかったな。男同士の勝負は喧嘩に限る。

 どうする? 今なら土下座して謝るなら見逃してやるぜ?」


それはこっちの台詞だ。土下座されても許さんが。

……話し合いでどうにかなる可能性は皆無だし、断る理由はない。

せめて、最後は俺の手で全てを終わらせてやろう。


「来い。徹底的に叩きのめしてやる」

「いいじゃん。それなら俺も本気出してやるか!」


透が椅子から立ち上がり、こっちに向かって走り出した。

さてどうするか。後に残るケガまではさせないようにするが、

相応に痛い目は……




「うぉっ!?」




突如、透がバランスを崩した。

勢いそのままに転倒した先には……長机の角。

しかも『辺』の角じゃない。四隅に存在する『点』の角。

そして、そこに直撃したのは……


「ぎ゛ゃ゛っ゛!」


髪にすら守られていない、左こめかみ。

死ぬ間際の蛙のような声と共に、透は床に倒れた。


(……おい。俺何もしてないんだが)


完全に失神してるし、血も流れている。

……あまりにもあっけない結末。まさか、自滅するとは。

物理的にも十分痛い目を見たのは間違いないが……腑に落ちないので。


「……てい」


打った場所が場所だし、あまり強く殴ると洒落にならんかもしれん。

本来なら全力で顔面を殴るつもりだったが、

形式的に背中を拳で軽く触れるように殴ることで、復讐の区切りとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] ………死んでないですよね?
[一言] 顔焼けば何事もなかったんやけどな ま、先輩はそれで逮捕されたけど 他に誰も不幸な人は出なかったから、やっぱ話し合いで平和に解決とか無理だなってこれ読んで思った。
[良い点] 4人の女を侍らせてる理由がクズ過ぎて救いようがない。こんな気持ちで透に思われていたと知ったらどうなるんだろうなぁ。知った方が当事者のためになりそうだけど [気になる点] このままで透が終わ…
2020/04/11 21:54 退会済み
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