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221.九面楚歌

放課後の生徒会室に、俺を含めて生徒が10人。

しかし、その内9人の視線がたった一名にのみ向かっている。


「……じゃ、聞こうか」


遂に訪れた、透を裁く時。

口火を切るのは、勿論俺。


「透。お前は俺が白崎を強姦したという嘘を吹聴することで、

 俺に対するいじめの遠因を作った。間違いないな?」


言葉を向けられた対象の顔を見る。

反省でも、困惑でも、無表情でもない。

形容するとすれば、それは俺の心の中の感情と一緒だろう。


「ハァ? 何言ってんだ? 頭大丈夫か?」

(……ま、そうなるよな)


この居直り様。

『呆れ』と言ったところか。




「部活大丈夫なん?」

「ま、田野だったら適当に理由つければ休める。

 如月先輩には説明したから見逃してくれるし」


全員が揃う時間として、放課後を決戦の時として決定。

それに当たって、穂積と門倉を呼ぶ予定は無かったが。


「どんな結果であろうと、私は真実と向き合うわ」

「私も。……もう、覚悟はできてる」


どんなに残酷で辛いことだとしても、

透の正体を知ることで、残った気持ちを捨てきる。

その強い意志を感じたから、同席してもらうことにした。


「にしても、本当にクソみたいに広がってたな。

 大元の透をとっちめれば一気に崩れるとは思うが、

 まだほざく奴いたら適当に別の噂流して上書きしとくわ。

 勿論、これは無料」

「俺としては、又聞き込みだから崩れきるまではいかないと思ってる。

 もしかしたら透を裁いてからが本番かもしれん」

「その時は俺とアニキに任せろ。一人ずつ蹴飛ばしたる」

「……比喩だよな?」

「んー……出方次第?」

「比喩であってくれ、頼むから」


なるべくなら、いじめに暴力で対抗したくはない。

陽司にはユーモア要素もそこそこあるが、ガチられたら大事件だ。


「いずれにしたって、藤やんに対する下んねー嫉妬よ。

 勘違いしてる奴がいたとしても、真っ当な奴らがこれだけいるし」

「各個撃破は攻略の基本だしな。ということで、まずは透だ。

 いきなりボス戦って感じだが、今回はボスが最弱パターン。

 サクっと倒そうぜ」


証人はいくらでもいる。これなら補正云々なんて関係ねぇ。

ズレや紛れが起こる余地がなければ、事は自然に進むだけだ。


「それじゃ、放課後にまた。……藤田君、いよいよだね」

「だな。しっかし、俺も変わったもんだな。おかげさまで」

「今、どう思ってる?」

「無駄にしてた17年、この7ヶ月半で取り戻せたなって感じ。

 その上で、全てを終わらせる」

「そして、新しいスタートを?」

「始める。……ありがとな、きっかけをくれて」

「どういたしまして」


あの時の雫の電話から、全ては始まった。

勉強会の事件で、俺も変わらねばという決意をした。

それから数々の出来事を越え……ここまで辿りついた。


(……決着、つけるか)


決別宣言はしたが、それじゃ半分だ。

今日、はっきりと……断罪する。




そして、放課後に予定通りに集まる。

透は穂積のおかげで簡単に呼び寄せることができた。

最早唯一の拠り所となった穂積から距離を置かれていた所、

向こうから頼み事があるとなれば、何の疑いもなくついてくる。

あとは出口から遠い席に座らせれば、逃げ出すことはない。


「なぁ鞠、これ何なん?」

「……ごめんね」

「いや謝るのとかいらないから。これが何か聞いてんだよ」

「見たまんまだ。お前が怜二にやりやがったことについての話し合い。

 正確には、尋問だ」

「ハァ? 俺が怜二に何やったってんだよ」

「証拠ならあるぞ」


予備のボイスレコーダーを出し、再生する。

放課後になるまでに集めた種々の情報は、これに記録されてる。


『TPが1年生襲ったって透キュンから聞いたの!

 鞠ちゃん同クラでしょ? 気をつけた方がいいよ!』


ある音声は、透のファンである同学年の女子から。


『私は理沙(りさ)からだけど、理沙は?」

『透君から聞いた。幼馴染の藤田がとんでもないことしたって』


ある音声は、ゴシップ好きなとある先輩から。


『神楽坂先輩が仰ってました。藤田先輩が樹ちゃんに……その、えっと、

 色々としたって……私達、かける言葉がなくって……』


ある音声は、白崎と同じクラスの女子から。


各クラスからの証言が、とめどなく流れる。

一人、また一人と音声が変わっていく度に、透の表情は曇ってゆく。


「言い訳はあるか?」

「……ごっ、合成だろ?」

「全て、今日録音したものだ。一部は私も同行している。

 何なら直接聞きに行くか? 部活で残っている者もいるが」


評価が下がった今、透の望みを自動的に叶えてくれる奴はもういない。

それでも望みを叶えたいのなら、透自身が動くしかない。

今までだったら自分がリスクを背負うことを避けていただろうが、

こいつは俺が決別宣言をした頃から、俺に敵愾心を持っている。

その結果、俺を陥れたいという気持ちに押し負ける形で行動に出た。

そこまでやりやがったら、そのシッポを掴むまでだ。


「まっ、鞠は俺を信じるよな?」

「……音声ちゃんと聞いてた? 私も何人かから聞いたんだよ?」

「いやいや、そいつら皆嘘ついてるんだって!」

「透……無茶苦茶だよ。お願いだから認めて」

「な……麻美! お前なら分かってくれるよな!」

「私自身が直接聞き出すことはしなかったけど、同行はしたわ。

 少数ならともかく、これだけの人数がいるんじゃ……」

「嘘だろ……お前らまで俺を……!」


自分の絶対的な味方だと思っていた二人すら、自分を疑う。

当人にとっては予想だにしなかったであろう事態に直面し、

透の顔は一気に青ざめた。


「怜二! 鞠と麻美に何吹き込んだ!?」

「何も吹き込んでねぇよ。事実を事実のままに受け止めただけだ」

「そんな訳ねぇだろ! なぁ、鞠も麻美も怜二に脅されてんだよな?」

「脅されてなんかないよ。怜二くんはそんな人じゃない」

「穂積さんに同じく。あなたがどういう人間なのかを知ってのことだから」

「分かった分かった。脅されてる奴は皆そう言うんだよ。

 ほら、ここには会長だっているんだ。正直に話してみ?」

「私も同行していると言っただろう。無駄な足掻きは止せ」

「会長!? まさか……おい怜二! お前会長まで脅すとか、

 どんだけクソ野郎なんだよ!」

「いい加減にしろよ。俺は怜二が言うから抑えてるだけだ。

 射程圏内にいたらお前のドタマはサッカーボールだ」

「カグよー。こっから奇跡の大逆転なんてどう見ても無理だろ。

 これだけガッツリ証拠出されてまだゴネんの?」

「お前の往生際の悪さは天下一品だな。

 負けたボスは潔く認めた方が生存フラグ立つんだぜ?」

「よく知ってるだろ。俺の情報は早さと正確さが命だって」

「素直に認めないだろうなとは思ってたけど、まだ粘るの?

 これだけ言われて藤田君に謝らないなんて、人としてどうかしてる」

「お前らまで……おい怜二! こいつらに何しやがった!?

 一服盛ったか!? 洗脳か!?」

「……透。お前は本気で俺がそういうことをやったと思ってんのか?

 認めたくないだけで、本当は分かってんだろ。もう詰んでるってこと」


ここに、透の味方は一人としていない。

いたとしても、この音声を聴いてなおも擁護しようとする奴はいない。

こうまですれば、流石の透も認めざるを得ない……


(……だなんて、全く思えないのが恐ろしいところだ)


果たして、どういう斜め上の戯言をほざくのやら。

ネタは出尽くしたと思うが、こういうこと関しては俺の想像を超える。

恐らく、弾はまだあるだろ。


「……仕方ねーな。教えてやるよ」


渋々ながらも認めたのかと思ったら、訳の分からないことを言い出した。

「教えてやるよ」? 一体何を教えるってんだ。




「俺が怜二の悪い噂を流したってのは事実だ。

 だが、俺はこんなことをするつもりは一切なかった。

 一年の樹って奴に頼まれたから、仕方なくやっただけなんだよ」




(……………………………………………………)


おい、透。

散々悪態をつくだけついて、ようやく捻り出した言い逃れがそれか?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 白崎に関わるゴシップ(しかも被害の当事者という内容の噂)の解決のためなのに、白崎本人が不在だったり、事情聴取に行って被害の有無の証言を取っていないのかな、という流れに関しては疑問。 …
2020/04/10 00:21 通りすがり
[一言] 彼が黒幕にしてはちょっと……と思っていたところにこのまた苦し紛れにしか見えない状況でコレ うーん、怪しさと真実っぽさが中途半端にブレンドだ……
[良い点] 最近無いなと思っていた、とおる成分! すばらしい精神力だ! 最初に「お前の仲間は許された」と告げて誘導してる。 アレと思ったけど、とおる君もあっさりと楽な方を取りましたね。 会長の台本な…
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