212.男子高校生の食生活 ~駅弁事変~
夜を無事に乗り切って、宿泊先の旅館へと戻る。
色々とトラブルはあったが……一応、大丈夫か。
「お帰り。無事で何よりだ」
「水橋もいたんだよな? どうなったん?
あ、まさか同じ部屋でイチャコラ……」
「んな訳あるか。きっちり分かれたっての」
詳しく聞かれるまでは答えないが、聞かれたらシングル二つということにしよう。
宿泊先まで違うというのはやや不自然になるし、そこから邪推されかねん。
「先生方はどうなってる?」
「……もう一回見に行ったら、全員雑魚寝してた。
酒缶転がってたし、昨日連絡した通り酒盛りしてそのまま寝たんだろ。
今は門倉辺りが部屋に行って、叩き起こしてる頃」
「……どうなってんだようちの学校は」
一年で懲戒免職二人出して、やることは責任逃れの一手。
挙句の果てにはこの監督責任放棄の放蕩ぶり。
しかるべき機関に何か言っておくべきだろうか……
「ま、でも今日は最終日だ。軽く散策して帰ろうぜ」
「了解。じゃ、まずは片付けと準備だな」
立つ鳥跡を濁さず。
俺らは何の分別もつかないダメな大人に影響されず、きちんとする。
高校生であることに加え、もうじき最高学年になるんだしな。
「えー……今回は全員無事に……」
「赤い顔して何言ってんだー!」
「修旅中に飲んでんじゃねー!」
「うるせーな! まだ頭痛ぇんだよ!」
野次を飛ばす生徒に、二日酔いの八つ当たりをする教師。
これで進学校名乗ってるんだからふざけたもんだよ。
(大学はそれなりにちゃんとしたとこ行かないと)
それはそれで、学校の実績として手柄だけ挙げるんだろうけどな。
この横取りスタイル、透みてぇ。
(とはいえ、いずれにしても楽しかった)
初日は偶然、湯上りの雫の姿を見れて。
二日目はテーマパークで一緒に遊べて。
三日目は思いがけなく二人っきりになれて……アレはどうなんだろ。
妙な勘違いはしてないと思うが……
(連絡見た限りは大丈夫っぽいけど)
部屋から出るタイミングでメッセを送ったら、返ってきたのはねこまるスタンプ。
例の顔で『まる』という文字が出てるヤツだったから、多分無事だろう。
日下部辺りが突っ込んできそうな気もするが、門倉もいるし。
ただ、門倉も門倉で何か聞いてきそうな気はするが、その門倉は今。
「先生。二日酔いでしたら私が行います。
……あなた方には任せてられませんから、頭を冷やして下さい」
「お、おぅ……」
ふざけた真似をしてくれやがった、教師の方に怒りが向いてる。
その為か、(トラブルとはいえ)帰れなくなった俺には何も言いに来てない。
この感じだと、雫にもアレコレ言ってはいないだろう。
そういう意味では役立ってくれたよ。クソ教師であることに変わりはないが。
(さて、どこまで詰められたかな)
もしかしたら、告白未遂だったかもしれない三日目の夜。
違うとしても、とんでもないハプニングがあった。
どっちに転んだかはともかく、意識せざるを得ない。
学校に戻ったら、何かあるかもな。
ついでに、上田先生辺りに酒盛りの件は報告しとくか。
土産購入を終え、新幹線に乗車。
流石にこれは間違えようがない。何度も確認はしたけど。
「怜二、昨日はお疲れ。体調大丈夫か?」
「疲れてはいるが大丈夫……だと思う」
「養生しとけ。ここに駅弁もあるし」
宿泊費は余計にかかったが、それでも懐には余裕がある。
ということで、最後の贅沢として駅弁を買った。
これは隣に座る陽司、翔も同じ。
「うわ、翔の駅弁すげぇ肉だな」
「男は結局肉に辿り付くんだよ。けど、藤やんは野菜か」
「あんまりガッツリ、という気分じゃなかったし」
「俺はちらし。肉・魚・野菜揃ったな」
普通の弁当より豪華だが、間違いなく高い。
けど、旅行中に食べることで美味しさ倍増。
それが、割高な駅弁を買う理由。
「んじゃ食うべ。さっさと食わねぇと臭いキツくなるし」
「賛成。気分は野菜でも腹は減ってる」
「味わいたい所だが、仕方ないよな」
小さく区切られた弁当箱の中から煮物をパクリ。
うん、いい感じに染みてる。丁度求めてた優しい味。
「ところで、そっちはどうだったんだ? 自由行動」
「宮崎に任せようと思ってたんだけど、大阪情報はないらしくて。
普通に名所回ったり、お好み焼き食べたりって感じ」
「へぇ、意外なもんだな。翔は?」
「俺はもんじゃ食うって決めてた。お察しの通り、いいんちょは不器用。
ま、それでも後半はそこそこ上手く焼けるようにはなってたけどな」
この二人も結構楽しめたようで何より。
この分だとサルと秀雅も楽しんだだろうな。サルと日下部は相性いいし、
空気の読める秀雅と誰とでも仲良くなれる穂積なら、何の問題も無い。
まとまりとしては、結構よかったのかも。
「楽しかったな、京都と大阪」
「あぁ。……で、怜二。水橋とはどこまで行った?」
「教えて貰おうか。勿論、黙秘権なんて小賢しいもんはねぇぜ?」
「お前ら……」
……今や秀雅だけなんだよな。男で俺は雫が好きって言う事を知らないのは。
余計な真似どころか、色々とサポート貰えた以上怒るに怒れん。
「……まぁ、結構近づいたとは思う」
「よし、んじゃ学校戻ったら告白だな!」
「落ち着け」
告白はしたんだよ。今はその答えを待ってる状態。
もしかしたら、初日か昨日の夜に返ってきてたのかもしれないが。
「普通に考えて似合ってると思うんだけどな」
「どこが? 何もかも釣りあってねぇだろ」
「いやいや、水橋が心開いてる男子ってお前だけだろ?
古川先輩の件以外で何があったかは知らねぇけど、何かあったろ」
「そういうことだし、釣り合い取れてるって。顔以外」
「………………」
「うぉい!? 黙って俺の肉を取るな!」
「美味いな。はいお返し」
「ひじき一本でメシを食えと!?」
「自業自得だっての。ほら怜二、俺の切り身やるよ」
「サンキュ。んじゃきんぴらやるわ」
「仕切り丸ごと!? 太っ腹ー!」
「格差ー!」
あー、楽しい。本当にクッソ楽しい。
新幹線の中で駅弁を食べるだけでこんなに楽しくなるとは。
騒ぎ過ぎな気もするが……今日ぐらいは。