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207/236

207.-(-)=+

どんでん返しの扉、掛け軸裏の通路等々。

様々なからくりを抜けた後、他のメンバーと合流。

表情を見る感じ、それぞれ楽しんでたみたいだな。


「いやー、思ったより勉強になったわ。

 レポートに書けそうな所はメモっといたから使ってくれ」

「サンキュ。で、この後どうする? 撮影かメシのどっちかだけど」

「私は、撮影、やりたい」

「俺も。メシは雨降ってからでも大丈夫だけど、こっちはそうでもないだろ」


ほぼ全員が同意見ということで、着物撮影に決定。

まだ何着るか決めてないんだよな。どれにするべきか。


「あれ? ねぇおシズ、そんなマフラー巻いてたっけ?」

「藤田君から借りた」

「へー。でも今日のファッションだと似合わないからさ、あたしの使いなよ」


……どうやら着用時間はここで終わりそうだ。

願わくばもうしばらく巻いて欲しかったんだが。


「待った梓。お前のそのドギツいマフラーの方が合わんぞ」

「何がドギついって!?」

「2、3色はよく見るけど、お前のマフラー何色あんだよ。蛾か」

「蝶って言ってもらえるかな! 確かに妙な目で見られることは多いけど!」

「つー訳で、貸すんなら俺にくれね? ちょっと首周り冷えてさ」

「えー? ……まぁ、いいけど。はい」

「サンキュ」


日下部からド派手なマフラーを受け取ったタイミングで、サルがこっちに視線を送る。

意味は「な?」という所か。うん、ありがたい。


「で、皆何着る予定? 俺は全てを諦めたから黄門様に決めたが」

「あんみつ姫になろうかなって♪」

「私は奥方かしらね。一番合ってそうだし」

「俺は宮本武蔵。ここは剣豪になりたい」


それぞれがそれらしい物を選ぶ中、俺は未だ決まってない。

正確にはここではっきりと決めてしまうと、合わない衣装だった場合。


「あたしは朝言った通り花魁! おシズとヒナは?」

「私は、舞妓さん、やり、たい」

「色々考えたけど、八百屋お七がいいな」

(うん、浪人は違うな)


雫とのツーショットのチャンスが減ってしまう。

ということで雫の衣装の内容次第だが、八百屋お七か。

確かお七の想い人って寺小姓だったよな。それだと何が近い?

振袖若衆……いや、これは単純に俺に合わない。となると……


「秀雅が黄門様やるなら、俺はバカ殿だな!」

「サルっちは分かってるな! で、藤やんは?」

「ん? んー……普通に侍に」


モブっぽくて違和感が無いのはその辺になるか。

ピタっと合うものではないが、全く合わないものでもあるまい。


「普通だな。イケメン侍か」

「イケメンではないだろ。時代劇なら割と早い段階で死んでる」

「知ってるか? 主人公は死なないんだぜ?」

「主人公はな。まぁ、気持ちだけはそうしとく」


その一方、八百屋お七の最期は放火の罪で火刑だったと聞くが。

そもそも、実在さえ疑われてるという話だから眉唾だけど。

しかしそういう意味では、俺も死にやすい役柄を選ぶべきだが……


(悲恋にするつもりは一切無いんでね)


しっかり生きて、この恋を実らせる。

そうしなきゃ、死んでも死に切れんわ。




「はい、キメ顔!」


パシャっと音が鳴り、思い出の記録がまた一枚増えた。

個人での写真は専門の人に撮ってもらったが、サルにも撮影を頼んだ。

何だかんだ妙な情報を集めることだけではなく、まともな能力もある。

この辺は流石報道部という所か。


「現像は一枚ずつでいいよな?」

「あぁ。頼んだ」

「私、変な顔になってない?」

「いや全然。両方ビシっと決まってたぜ」


アシストもあって、俺は無事に雫とツーショットを撮ることができた。

八百屋お七へと姿を変えた雫から感じるのは美しさと儚さ、そして微かな狂気。

恐らくは憑依術を使ったのだろう。再現度は非常に高い。

いや、原形は諸説あるし定まってはいないんだけども。

その隣に立つ俺は、果たして相応しい男になれているのだろうか。


「それにしても、見事なヤンデレ顔だな」

「ヤンデレ顔って何だ」

「えーっと、こう……何て言うんだ?」

「俺が聞きたいわ。もっと言うなら水橋の方が聞きたいだろ」

「逸話が本当なら相当なサイコパスだと思ったから、そういう気持ちを作った。

 それが伝わってるなら何より」

「ということで……ん? 水橋、『ヤンデレ』ってどういう意味か知ってんのか?」


……あっ、これまずいか?

いや、でも遮るのは口ごもった場合だ。今の雫だと。


「一応は。そういう子が出る漫画読んだこともあるし」

「ほー、水橋も漫画とか読むんだな。てっきり教科書と純文学しか読まないものかと」

(うん、そうだよな)


『素の自分を出す』という目的を達成する為の糸口として使う。

他人との接触・会話が苦にならない今なら、自分から進んで話を広げる。

サル相手にもここまで出せるようになったのか。本当、成長著しいな。


「この天気だと散策はダメっぽいねー。そもそも花魁って散策できないし」

「それじゃ昼飯食って、大阪行くか。ところでサル、お前自身の写真は?」

「さっき鞠に頼んで撮ってもらった。ぬかりはない」

「そうか、ならよかった」

「気遣いサンキュな。さ、メシだメシだ!」


所謂遊園地価格ではあるが、それでもそれなりの値段で京うどんが食えるとか。

身体をしっかりと温めて、後半戦の準備をしよう。




「うどんとかそば屋の丼って何で美味いんだろうな?」

「それな。たまにめっちゃ美味い店がある」


と言いつつ、俺が選んだのは九条ネギが乗ったうどん。

班ごとに分かれたテーブル席の対面には、カツ丼をかき込む翔がいる。


「時に藤やん、ついでに聞きたいんだけどさ。

 何で昔の店屋の看板って右から左なんだ?」

「縦書きだから。1文字ごとに改行してる」

「え、そういう? 確かに縦書きって右から左だけど、へー」

「流石怜二。博識なだけあるな」

「んなことねぇよ。今の時代、ネットがあれば大体分かる」

「金閣寺の正式名称を覚えてるヤツが言っても嫌味にしかならんぞ。

 俺がゲームのことで『これぐらい基本だろ?』って言うようなもんだ」

「すまん、言いたいことは分かるけど基準が分からん」

「俺も言ってからそう思った。逆にすまん」

「なんだコレ?」

「知るかよ、ははっ」

「ふふっ」


白味噌うどんをすする秀雅と互いに笑い合って、俺もネギと一緒にうどんを。

うん、美味い。やっぱり親友と一緒に食うメシは美味い。


(……あいつもいないしな)


今頃あいつも、こんな感じでうどんでも啜ってるのかね。

昔と違って、心配など一切していないが。


「もう外降ってるか?」

「多分。土砂降りになるまではラグありそうだけど、

 大阪駅着く頃にはめっちゃくちゃ降ってるだろうな」

「仕方ないか。ま、コース変える必要はないだろ?」

「基本アーケードだしな。むしろ降るのが今日だったのはラッキーだ」

「日頃の行いってヤツよ。な、藤やん?」

「同意を求められても困るんだが」

「俺ら三人で翔とサルの分を何とかしたってとこじゃね?」

「ぐうの音も出ねぇ」

「飛び火したけど翔に同じく」

「お前らなぁ……」


とはいえ、一番の問題児はこの場にいない。

そのおかげで、神様も空気を読んでくれたのかね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奴がいないと、こうもスマートに事が運ぶのねw
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