205.進歩・シバき・確認
昼食を終え、レストランを出たらおみやげ探し。
宅急便で送るから荷物にはならないが、悩みどころ。
「普通にお菓子でいいか。グッズは親父もお袋も興味ないだろうし」
「私は逆かな。お父さんはともかく、お母さんには色々頼まれてる」
「何となく予想ついた」
渚さん、こういうとこ大好きだろうしな。
食べたら終わりのお菓子類より、限定グッズとかを欲しがりそう。
それはそうと。
「レプリカではあるけどこの細部にこだわりぬいたステッキ!
興行収入だけじゃ分からないスタッフとファンの愛が成せる業!
流石に現物はオークションでも滅多に見ないし先立つものが足りないけど
こういうお財布に優しくありながらもコレクターの欲求を満たす……」
「うんうん、なるほど」
ひたすら喋り倒す宮崎、適当に相槌を打って聞き流す陽司。
でもって陽司の腕に宮崎がすがりついていて……懐かれたか?
互いに会話するんじゃなくて、ただ話を聞いてくれる人が欲しかったみたいだし。
「ほっといたら帰る時間まではしゃいでそうだな……」
「本当に楽しみだったみたい。昨日の夜も、恋バナ終わったらあんな感じで」
「寝不足の原因になったと」
「……宮崎さんだけのせいじゃないけどね。門倉さんも止められなかった」
ああいう勢いのあるタイプって、門倉はむしろ苦手だからな。
止められたとしたら穂積がどうにかしたってとこだろ。
「時に水橋。こういうとこのグッズは好きだったりするか?」
「逆に聞くけど、嫌いだと思う?」
「いや全然」
「そういうこと。ここに来てからずっと、表情筋とかフルパワーだから。
あ、このキーホルダー可愛い」
どうりでさっきからほっぺたが震えてた訳だ。
夏休みの時みたいにふにゃふにゃになりそうなのをこらえてる、と。
この時間帯だから周りに生徒も多いし、崩れる訳にはいかないか。
(買うつもりはなかったけど)
雫が買ったキーホルダーを、俺も購入。
おそろのアイテム、頂こうか。
遊びきったら、旅館へ帰還。
夕食の時間まではごろ寝したりお喋りしたり。
「まさか丁度部員の人数ぴったりのお菓子あるとは思わなかったわ」
「それな。報道部はともかくサッカー部は人数あるだろ?
それがまさかドンピシャのものがあったとはな」
「ゲーム同好会はぼっちなのでそういう問題は発生しない!
だから常に楽だけど非常に悲しい!」
「悲しんでるトーンじゃねぇ」
下級生に勧誘とかしてるらしいけど、そもそもが存在を正式に認められてないからな。
もっとも、申請したところで認められないと思うが。
「食前、食後の食事でも買ってくっか?」
「食ってばっかじゃねーか」
「ここのメシ美味いけど味薄いからさー」
「多少は素材の味を楽しめ」
翔の好物は本人曰く、「しょっぱいもの全般!」とのこと。
今は大丈夫でも将来は不安だな。主に血圧とか。……あ、思い出した。
「翔、ちょっとこっち」
「何だ?」
「……陽司にバラしたのはお前か?」
「大丈夫。サルには言ってない」
「…………」
「無言で首に手をがげうぇえっ!」
俺が言ったからサルは既に知ってるんだよ。
何だかんだあいつも口外してないし、むしろ心配するべきはこいつだったか。
「お前なぁ……」
「いやいや、これは戦略。陽司って頼りになるだろ?
ということで、この修学旅行中に色々とアシストしてやろうということよ」
「それだったらそれでありがたいが……一回俺に言えよ」
「めんご」
分からないことはない。陽司は外見・内面ともに男前というのは知ってる。
いつ教えやがったかは分からないが、この短時間で実績もできたし。
「まぁいい。話変わるけど、そっちはどうだったんだ?
3班の3人と合流したって聞いたけど」
「一番驚いたのはいいんちょが笑ったことだな。あいつ水橋レベルで笑わんだろ?
今年どころか今世紀最大の事件まである」
「そこまでか? 焼肉の時に変わった感じはあっただろ」
「まぁな。けど笑うまではなかったし。本当にあいつ変わったな。
……これも藤やんのおかげだったり? いや藤やんしかいねぇか!」
「勝手に決めんな。色々と思うところあったんだろ」
「ま、何にしても嫌味さがなくなったのはありがてぇよ。
相方の男はそのまんまだから、天罰下ったっぽいけどな」
ガッツポーズを決めた辺り、透の病欠はラッキーだと思ってるな。
……正直、完全に同意だ。
「メシはどこで?」
「リバーサイドレストランっていうステーキの店。
アズの食べ方がクッソ汚くてさ。どうにかならんのかと」
「それはまた」
「そっちはどうだったん? 店と食べ方」
「同じような店で食った。席が2人席しかなかったから分かれたけど、
水橋の食べ方はめちゃくちゃ綺麗だった」
「だろうな。……な、アシストあったろ?」
「……あぁ」
言いくるめられたというか、何というか。
いい性格してんなぁ、本当。……そうそう、陽司と言えば。
「陽司ー?」
「ん?」
「お土産屋で妙にひっつかれてけど、気に入られたん?」
「ぽい。ウザくはあるけど、適当に流してればいいからそのままにしてた」
「アレだったら俺に言ってくれ。何とかするから」
「いや大丈夫。怜二ってこういう時にワリ食ってばっかだろ?
俺の問題ぐらい、俺で解決するって」
「そうか……なら、どうしようもない時は言ってくれ」
「あぁ、宜しくな」
やっぱりどうしても、こういうことが気になってしまう。
そこそこに自己中心的に楽しめてもいるけどさ。