203.こっちも楽しく
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「キャァァァァァァァァァァ!!!」
全身で風を感じ、全速力で滑走するコースターの中、全力で絶叫。
目まぐるしく変わる高度に視点と、インパクトがとてつもない。
「下ろしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
上昇時に囁くような声で繰り返し言ってたことを、ここでも叫ぶ雫。
俺もそんなに余裕ないからチラっと横目で見ただけだが……泣いてね?
これ、下りた後どうしよう……
「うぅ……」
「おっとっと」
コースターを降りるなり、俺にもたれかかった。
よしよし、よく頑張りましたっと。
「とりあえず、ゆっくりしとけ。陽司と宮崎には俺が連絡するから」
「うん……」
近くのベンチまで誘導し、静かに座らせる。
右手を回して雫がずり落ちないように支え、左手でポケットからスマホを出す。
……当然だが、相変わらず慣れない。この柔らかさを感じるのは。
「もしもし。今終わったんだけど、ちょっと水橋がグロッキー。
出てから右のベンチで休ませてるから、場所だけ教えてくれ。
状況見ながらそっち方向行く。……え、そうなん? 分かった、了解」
どうやら、向こうも宮崎がヤバイことになったらしい。
絶叫系は苦手なのに、どうしてもやりたかったから強行したとのこと。
故に移動もまともにできない為、あまり遠い位置には行っていないようだ。
行こうと思えばすぐだが、まずは雫を介抱してから。
「怜二君……背中、さすってくれない……?」
「分かった」
肩辺りに回していた手を下に動かし、背中をさする。
辺りの客から訝しげな視線を受けるが、悪いことは何一つしていない。
だから、胸張って雫の望みに応える。行為自体はそんな勢いよくやるもんじゃないが。
「ふわぁ……こんなに凄いなんて聞いてないよー……」
「乗ってみないと分からないからな。アレだったら横になるか? ちょっと人通り多いが」
「……うん。膝、貸して」
「ほい」
「ありがとう……ふにゃぁ……」
なんだか猫っぽくなった雫の頭をゆっくりと太ももに乗せる。
ややうつ伏せ気味に横になったから、軽く脚を開いて呼吸スペースを確保。
少し腕を不自然に曲げることになるが、背中をさするのも忘れずに。
「ふへぇ……」
「お疲れ様。見た感じ寝不足もあるだろ?」
「うん……実は、ちょっぴり眠たい」
「寝てもいいぞ?」
「ううん、がんばる……折角の遊園地だし、怜二君にも悪いし」
「俺のことは気にすんな。雫がここ楽しみたいっていうなら別だが」
なんなら、遊園地滞在中ずっとこのままでも構わないし、
むしろそっちの方が幸せとさえ言える。
けど、雫はそうなることを望んでいないだろう。
それなら、適当な所で行くか。この心地よい重みが離れるのは惜しいが。
「お待たせ」
「おっ、来たな」
雫が回復してから、歩くこと数分。
陽司と宮崎に再合流することに成功した。
「水橋、結構やられたって聞いたけど大丈夫なん?」
「うん。今は平気」
「そっか。キツかったら言えよ。さて、それじゃ今度はどこに行く?」
「そうだな……」
「あ、あの、あのね! さっ、撮影会、行きたい!」
頭の中でコースを思い浮かべていたら、宮崎がどもりながら希望を口にした。
アトラクションじゃなくて撮影会? どこであるんだろ。
事前に調べた限りは特定のポイントとかは無かったと思うんだが。
「別にいいけど、どこでやってるんだ?」
「な、なんか話し声、聞いた。そしたら、今日、この後、あるっぽい。
そっちの、お家の、前辺りで。これ、ゲリラ、アトラクション、だから」
「へぇ、そんなんあるのか」
さっきのはしゃぎっぷりと合わせて考えると、宮崎はここに詳しいらしい。
それなら任せた方がいいかも。
「怜二と水橋がコースター乗ってる間に色々と話聞いたっていうか、聞かされた。
こいつ本当に楽しみだったみたいでさ、まぁ喋る喋る」
「ご、ごめん……」
「謝る必要はねぇよ。楽しそうだったし。
でもって、俺はその話を聞いた上で賛成。二人はどうする?」
「私も行ってみたい。ここの計画、宮崎さんが中心になって立ててたし」
「んじゃ俺も。キャラクター撮影ってのは盲点だった」
こっちの班は殆ど無計画で来てたし、任せておくか。
雫と遇えただけで嬉しいのに、これはありがたいオマケがついたな。
怪しげな雰囲気漂う家の前に、おびただしい数のキャラクターがてんやわんや。
パッと見だと見分けがつかないが、それぞれに特徴があるようで。
「あれがマイケルでそっちがロビンで今子供と一緒に撮影してるのがジャック。
でもってここにいるのが私が一番好きなジェームス! 逢いたかったよー!
それじゃ撮ってー!」
ずんぐりむっくりした胴体に抱きつきながら、めちゃくちゃ頭をわしわしされてる。
着ぐるみだから表情は分からんが、中の人は困惑しながらも悪い気はしないってとこ?
「3、2、1。はい、チーズ」
パシャっと音が鳴り、その状況のまま撮影。
この為に使い捨てカメラを用意したらしく、道中で俺に渡された。
「どう!? 上手く撮れた!?」
「多分」
「多分!? 多分じゃダメだよ! これゲリラアトラクションだって言ったよね!?
こんな上手い時間に巡り逢えるなんて奇跡なんだからね!?」
「いや言葉の綾だ。しっかり撮れてる」
あんまり使ったことないから保証はできんが、こうでも言わんと大変なことになる。
本当にガチ勢なんだな、こいつ……
「落ち着け。怜二が困ってるだろ」
「あっ……ごめん、また、私……」
「大丈夫。本当に大好きなんだな」
夢中になれる何かを持ってるのって、羨ましいと思ってた。
いつも大体のことを流すようにやってきた俺が問題なんだが。
……だが、今は違う。
「んじゃ今度は俺と水橋を頼む。水橋、こっち来てくれ」
「うん、いいよ」
思い出作り、思い出作りっと。
うざったくならない程度に、意識させる時間を作って。
楽しんでる横顔を見ながら、俺も楽しませてもらおう。