表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/236

203.こっちも楽しく

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「キャァァァァァァァァァァ!!!」


全身で風を感じ、全速力で滑走するコースターの中、全力で絶叫。

目まぐるしく変わる高度に視点と、インパクトがとてつもない。


「下ろしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


上昇時に囁くような声で繰り返し言ってたことを、ここでも叫ぶ雫。

俺もそんなに余裕ないからチラっと横目で見ただけだが……泣いてね?

これ、下りた後どうしよう……




「うぅ……」

「おっとっと」


コースターを降りるなり、俺にもたれかかった。

よしよし、よく頑張りましたっと。


「とりあえず、ゆっくりしとけ。陽司と宮崎には俺が連絡するから」

「うん……」


近くのベンチまで誘導し、静かに座らせる。

右手を回して雫がずり落ちないように支え、左手でポケットからスマホを出す。

……当然だが、相変わらず慣れない。この柔らかさを感じるのは。


「もしもし。今終わったんだけど、ちょっと水橋がグロッキー。

 出てから右のベンチで休ませてるから、場所だけ教えてくれ。

 状況見ながらそっち方向行く。……え、そうなん? 分かった、了解」


どうやら、向こうも宮崎がヤバイことになったらしい。

絶叫系は苦手なのに、どうしてもやりたかったから強行したとのこと。

故に移動もまともにできない為、あまり遠い位置には行っていないようだ。

行こうと思えばすぐだが、まずは雫を介抱してから。


「怜二君……背中、さすってくれない……?」

「分かった」


肩辺りに回していた手を下に動かし、背中をさする。

辺りの客から訝しげな視線を受けるが、悪いことは何一つしていない。

だから、胸張って雫の望みに応える。行為自体はそんな勢いよくやるもんじゃないが。


「ふわぁ……こんなに凄いなんて聞いてないよー……」

「乗ってみないと分からないからな。アレだったら横になるか? ちょっと人通り多いが」

「……うん。膝、貸して」

「ほい」

「ありがとう……ふにゃぁ……」


なんだか猫っぽくなった雫の頭をゆっくりと太ももに乗せる。

ややうつ伏せ気味に横になったから、軽く脚を開いて呼吸スペースを確保。

少し腕を不自然に曲げることになるが、背中をさするのも忘れずに。


「ふへぇ……」

「お疲れ様。見た感じ寝不足もあるだろ?」

「うん……実は、ちょっぴり眠たい」

「寝てもいいぞ?」

「ううん、がんばる……折角の遊園地だし、怜二君にも悪いし」

「俺のことは気にすんな。雫がここ楽しみたいっていうなら別だが」


なんなら、遊園地滞在中ずっとこのままでも構わないし、

むしろそっちの方が幸せとさえ言える。

けど、雫はそうなることを望んでいないだろう。

それなら、適当な所で行くか。この心地よい重みが離れるのは惜しいが。




「お待たせ」

「おっ、来たな」


雫が回復してから、歩くこと数分。

陽司と宮崎に再合流することに成功した。


「水橋、結構やられたって聞いたけど大丈夫なん?」

「うん。今は平気」

「そっか。キツかったら言えよ。さて、それじゃ今度はどこに行く?」

「そうだな……」

「あ、あの、あのね! さっ、撮影会、行きたい!」


頭の中でコースを思い浮かべていたら、宮崎がどもりながら希望を口にした。

アトラクションじゃなくて撮影会? どこであるんだろ。

事前に調べた限りは特定のポイントとかは無かったと思うんだが。


「別にいいけど、どこでやってるんだ?」

「な、なんか話し声、聞いた。そしたら、今日、この後、あるっぽい。

 そっちの、お家の、前辺りで。これ、ゲリラ、アトラクション、だから」

「へぇ、そんなんあるのか」


さっきのはしゃぎっぷりと合わせて考えると、宮崎はここに詳しいらしい。

それなら任せた方がいいかも。


「怜二と水橋がコースター乗ってる間に色々と話聞いたっていうか、聞かされた。

 こいつ本当に楽しみだったみたいでさ、まぁ喋る喋る」

「ご、ごめん……」

「謝る必要はねぇよ。楽しそうだったし。

 でもって、俺はその話を聞いた上で賛成。二人はどうする?」

「私も行ってみたい。ここの計画、宮崎さんが中心になって立ててたし」

「んじゃ俺も。キャラクター撮影ってのは盲点だった」


こっちの班は殆ど無計画で来てたし、任せておくか。

雫と遇えただけで嬉しいのに、これはありがたいオマケがついたな。




怪しげな雰囲気漂う家の前に、おびただしい数のキャラクターがてんやわんや。

パッと見だと見分けがつかないが、それぞれに特徴があるようで。


「あれがマイケルでそっちがロビンで今子供と一緒に撮影してるのがジャック。

 でもってここにいるのが私が一番好きなジェームス! 逢いたかったよー!

 それじゃ撮ってー!」


ずんぐりむっくりした胴体に抱きつきながら、めちゃくちゃ頭をわしわしされてる。

着ぐるみだから表情は分からんが、中の人は困惑しながらも悪い気はしないってとこ?


「3、2、1。はい、チーズ」


パシャっと音が鳴り、その状況のまま撮影。

この為に使い捨てカメラを用意したらしく、道中で俺に渡された。


「どう!? 上手く撮れた!?」

「多分」

「多分!? 多分じゃダメだよ! これゲリラアトラクションだって言ったよね!?

 こんな上手い時間に巡り逢えるなんて奇跡なんだからね!?」

「いや言葉の綾だ。しっかり撮れてる」


あんまり使ったことないから保証はできんが、こうでも言わんと大変なことになる。

本当にガチ勢なんだな、こいつ……


「落ち着け。怜二が困ってるだろ」

「あっ……ごめん、また、私……」

「大丈夫。本当に大好きなんだな」


夢中になれる何かを持ってるのって、羨ましいと思ってた。

いつも大体のことを流すようにやってきた俺が問題なんだが。

……だが、今は違う。


「んじゃ今度は俺と水橋を頼む。水橋、こっち来てくれ」

「うん、いいよ」


思い出作り、思い出作りっと。

うざったくならない程度に、意識させる時間を作って。

楽しんでる横顔を見ながら、俺も楽しませてもらおう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 思わぬ介抱イベントで、陽司と宮崎にフラグが? 陽キャと陰キャの興味深い組み合わせが爆誕か! [気になる点] インフルエンザで休んでいるはずの誰かさんが、いつ病の身を押してウイルス撒き散ら…
2020/02/11 21:43 通りすがり
[気になる点] 告白の返事はまだですかね?告白してから結構経ってますし雫も返事をしようとしてたみたいなので修学旅行中には返事をして付き合って欲しいです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ