202.次があるなら
修学旅行、2日目の朝。
寝具の質がしっかりしてたから、気持ちよく眠れた。
「おはよう」
「はよー……眠ぃ」
見回り終わってから、翔と秀雅は徹夜でゲームしてたからな。
イヤホン調達済みだったからこっちは普通に寝れたが、そっちは当然の帰結。
「朝飯行くぞ。片付けの人も来るんだから、さっさと着替えろ」
「ほーい……」
夜更かしは楽しいが、相応の報いが来るもの。
修学旅行中は、早寝が得策だ。
朝食を食べて、バスで向かうは2日目のメイン。
様々なアトラクションが楽しめる、日本有数のテーマパークに半日滞在。
一応は学業の延長線上と言われる修学旅行だが、これは完全にエンタメ。
思いっきり楽しむ以外の選択肢が存在しない。
「こういう時はサルっちだよな。どう回るべきだ?」
「結局は好みになるな。どこでもそれなりに混むし。
班で固まるのを諦めて、単独で乗ると早いのがあるぐらい」
「だよな。ところで絶叫系ダメな奴いる? 俺的には外せないんだけど」
「陽司、お前本当に度胸あるな……俺パス。昔吐きながら失神したことあるし。
それよかゲーム性のあるアトラクション行きたい」
「これ、2・3で分かれるとか、バラバラに行った方がいいかもな。
昼飯とかの集合時間と場所だけ決めといて。どうするよ?」
それぞれの好みと希望を合わせて、最善の計画を導く。
多数決なら早いが、なるべくは話し合いですり合わせたい。
「本当にマジな話、絶叫系に行かないんだったらどこでもいいから」
「けど、明日の自由行動でも秀雅の行きたいとこって結構削っちまっただろ?
ここは平等に、俺が絶叫系諦めるべきだって」
「んじゃ陽司と秀雅を分ければいいだろ。藤やんとサルっちはどんな感じが希望?
俺は行きたいとこ多過ぎるから、適当についてくわ」
「写真残る系がベスト。撮影するのもされるのも好きなもんで」
「陽司程じゃないけど、絶叫系は興味あるんだよな」
スムーズに進むな、本当。……故に、あいつのことを思い出す。
自分が行きたい所ばっか主張しまくって、全然譲らない。
中学の時の修学旅行は、実質透の為の旅行だった。
多少は俺も立ち回ったとはいえ、押し通ってたんだから恐ろしいよ。
「よし決まり。翔とサルと秀雅、俺と怜二で別れて散策。
3時前に連絡取ってどっかでメシ食って、その後はおみやげ買い。
そんな感じだな」
「あぁ。ところで皆、充電大丈夫だよな? 園内だとアプリも使うから、
必要ならモバイルバッテリー貸すけど」
「さっすが、気配りの鬼の藤やん。けど大丈夫。フル充電済よ」
嵩張るものでもないし、念の為に複数個持って来たが、不要だったか。
んじゃ、何も気にせず楽しむとするか!
「あれっ?」
「あっ……」
早速最初のアトラクションに行こうと思ったら、バッタリ。
人気キャラクターを模した中華まんを食べながら歩いている、雫と宮崎に遭遇した。
「やっぱりこういうことあるよな。二人?」
「うん。茅原君と藤田君も?」
「あぁ。これからダイナソーパークでフライングドラゴン乗ろうかと」
「私達も行こうって思ってたんだ。ね、宮崎さん?」
行き先が一緒だった。これは嬉しい。けど、雫ってホラー苦手だったよな?
絶叫系は大丈夫なんだろうかと思った矢先。
「そうなの! ここ来たら絶対絶対ぜーったいフラドラは乗ろうって!
日本に遊園地も絶叫アトラクションも数あれど通常コースタータイプじゃなくて
うつ伏せになることで龍に引っ掴まれて暴走される感覚になれるのはこれだけだし
世界的に見ても長さも高さも最高級だからジェットコースターの観点でも
最高に楽しいしそれが映画とのコラボレーションになってるからその一体感たるや!
しかもそれらに加えて……」
雫の隣にいた宮崎による、尋常じゃない速度のマシンガントーク。
これは所謂……『オタク特有の早口』ってヤツ?
体育祭の時に自分のミスで号泣していたのと同じ人物とは思えん。
「落ち着け。楽しみにしてるのはめちゃくちゃ伝わったから」
「だから、私も一緒に行こうかなって」
「それじゃ折角だし……この4人で行くか?」
「いいね。宮崎さんは?」
「信頼と実績のスタッフによる……え、何、かな?」
「茅原君と藤田君と一緒に、フライングドラゴンに行く?」
「う、うん。私も、行く」
それはそうと、雫と一緒に回れることになったのは幸運だ。
ちょっと狙ってはいたが、行動とほぼ同時に達成するとは。
願わくば、二人きりで周ったりもしたかったが……望み過ぎか。
「もう二人とも乗ってる頃かな?」
「……かもな」
目当てのアトラクションに着いた時の人数、4人。
今、列に並んでいる人数、2人。
その内訳、俺と雫。
(なる時はなるんだな……)
アトラクションに着いた時点で、長蛇の列。
とてつもなくという程ではないが、決して短くない待ち時間があることは、
誰の目を見ても明らかだった。
「ごめん、私、早く、乗りたいから、一人で行く」
「俺も一人で行くか。あ、二人は好きにしてくれて大丈夫だからな。
どっちで行くにしても、下りて来るまでは適当にその辺うろついてるから」
このアトラクションは一人で乗ることを希望すれば、ある程度待ち時間を短縮できる。
一刻も早く乗りたい宮崎は勿論、陽司もこのシステムを使った。
俺も当初は使うつもりだったが、隣にいる雫が使うつもりがないなら……一択。
「雫って絶叫系大丈夫なのか?」
「苦手だけど好きなんだ。ごめんね、めんどくさくて……」
「いや、好きなら一切問題ない」
「だから、いつもは誰かと一緒に乗ることにしてる。
宮崎さんが一人で乗ることは予想ついてたから、どうしようかと思ったけど、
怜二君がいてくれてよかったよ」
「俺で良ければ」
これはあくまで、偶然の出来事。
でも、関係が変わったら……定番スポットだよな。