2.物静かなお方とやかましいヤツ
新学年になって一週間。ここが重要。
その後一年間……とまでは行かずとも、少なくとも学期内の立ち位置が決まる。
中でも、『何らかのグループにいるかどうか』が重要だ。
1年の時に交友関係があった奴が同じクラスにいるなら、そいつを中心に。
いなかったら部活や趣味のつながりから、何とかグループへ。
とにかく、ぼっちになることは避けたい。
ここにおいて、透はアテにならん。
穂積か門倉が100%いるし、それ以外にも女子多数。近づけん。
部活に関しても、当方はバイトの都合で帰宅部。
ということで、それ以外から攻めた結果。
「マジで!? ウケるわー」
「だろ? パねぇよなマジで!」
チャラ男揃いのグループに入れた。
気のいい奴多いし、出だしは上々。こいつらからの繋がりで、友人増えそうだし。
やっぱり友人は持っとくべきだな。たとえ表面上でも。
さてさて、そろそろ帰ろうかと思った時。
教室の戸が、ゆっくりと動いている。
開いた隙間から見えるのは……
「え、お化け?」
「誰だアイツ……あっ、待てよ」
黒一色の……髪?
だとしたらかなり長い。前髪が顔の半分を覆っている。
これは……
「あの…………透くん、いますか…………?」
ですよね。
あなたくらい髪が長い人、あなたしかいませんし。
「はいはい。あっ、どうも先輩。透です」
「ここだったんだ……よかった……」
3人目ですね。透ハーレム構成要員の。
同学年だけじゃないんだよ、こいつを好いてるのは。
「その……今日は、来てくれますか……?」
「文芸部ですか?」
「うん……」
「構いませんよ。というか、雲雀先輩来なかったら、こっちから行くつもりでしたし」
三年生からも大人気な透だが、その中では最も距離が近い方。
驚くほど長い髪に、俺より高い背。そしてこの暗い雰囲気。
図書室行くと、大体見かける。端的に言うなら、物静かな文学少女といった所か。
俺とはまた違った形で地味な……古川雲雀先輩。
「え……本当……?」
「俺は部活入ってませんけど、帰宅部でいるつもりないんで。
今日はどんな本、教えてくれるんですか?」
「うん、うん! いっぱい、いっぱい教える!」
行ったな、うまいこと穂積と門倉が居ない所で。
「やっぱいいよな、古川先輩」
「あぁ。たまんねぇよな」
男子人気高いんだよな、古川先輩。
顔立ちは(髪が覆っているから)よくわからんが、かなりの美人との噂。
しかし、人気してる理由の一番は。
「本人隠してるつもりなんだろうけど、あの乳は隠せねぇって!」
「乳に尻に太股に……あー、本読んでるとこ邪魔してのしかかられてー!」
スタイルが凄いというとこ。
男子並の長身で、全身どこもかしこも肉まみれ。
かといってただのデブという訳ではない。謂わばぽっちゃり系グラドル。
性格とかも考えると、穂積をひっくり返したら古川先輩になりそう。
「なぁTP」
「サル。『怜二』の方が言いやすいと思うんだが」
「ごめんって。古川先輩どうよ? 案外イケんじゃね?」
「無理言うな。完全に透にベッタベタ惚れだろ」
「ですよねー! 透の野郎、鞠に加えて先輩まで……」
「それよりこの間駅前に出来たカレー屋なんだけどさ」
「おう行ったぜ? オススメは……」
無理な恋愛を夢想するより、現実にあるカレー。
そっちの方がはるかに重要。
そうとでも思わなきゃ、やってられねぇよ。
翌日、放課後。
この日も適当にダベってから帰ろうかと思ってた時。
「せんぱーーーーーーーーーーい!!!!!」
教室どころか学校中に響きそうな絶叫に、戸のダメージを心配せざるを得ない爆音。
はいはいそうだよな。古川先輩の次はお前が来るよな。
「落ち着け」
「はうっ!? どもっ、来ましたよ! わたしですよわたしっ!」
チョップ決まった。
「お前なぁ……戸は静かに開けろよ」
「これは失礼! 先輩に一速でも早く逢いたくてつい!」
「時間じゃなくてギアじゃねーか」
透ハーレム構成要員4人目。今度は後輩、一年生。
中学の頃からアタックしてたから、付き合いの長さは最長か。
「あっ、怜太先輩も!」
「怜二。いい加減覚えろや」
こいつも俺をTPとして認識してる。
そう言われたこと無いけど、未だ名前覚えない辺りそうなんだろ。
「いかがですっ!? 先輩もっ! 一汗と言わず二汗三汗っ! かきませんかーっ!?」
熱血陸上娘、八乙女つかさ。
色々な意味で走るのに適した身体にこの暑苦しい性格。
古川先輩とは真逆だけど穂積とも違う。透ハーレムにキャラ被りは存在しない。
「ま、このままだと帰るだけだし、付き合ってやるよ」
「さっすが! 大好きです先輩! 恋人としても付き合って下さいっ!」
「はいはい」
八乙女なりに本気なんだろうけど、流石にあしらわれるわな、これじゃ。
でもって、男子陣の評価は。
「デートで振り回してもらいたいな!」
「思いっきり子供扱いして殴られてぇ!」
フレッシュな後輩にナニを妄想してんだお前ら。
その気持ち分からなくはないけど。
「TPー? アレはどういうことなんですかねー?」
「……男子だとお前だけだな。俺をTP扱いしてんの」
「まま、教えて下さいな。八乙女は今年の一年女子の注目株だしさ。
明日の昼メシおごるから」
情報教えるのに金を取る一方、情報集めに金は惜しまない。
こういうハッキリしたところが、うまいこと嫌われない理由なのかね。
本当、さ。
俺も上手く立ち回った方がいいのかな。
モブが騒いだところで、何一つ変わらないと分かってる以上、
モブらしく過ごした方がいいと思ってるんだけどさ……