196.神様もキレた
いよいよ、第二学年最大のイベントが目前に迫る。
非日常の地でドキドキワクワク、修学旅行。
名所巡りに名物食べ、宿泊先でも色々と。
いずれにしても、思い出作りの一大イベントであり、なおかつ。
(ここが勝負どころか)
雫と更に距離を近づけ、結論を引き出す。
その大きなチャンスであることは間違いない。
しかも、ここに来てまさかの出来事が重なった。
「ったく、何言ってんだか……」
「陽司どうした?」
「透からメッセ。俺がどこの班に入るかも決めろだと。
勿論、既読スルーだ」
「カグもタイミング悪いよな」
なんと、透がインフルエンザにかかった。
軽い風邪とかなら無理して出席、ということもできないことはないが、
インフルエンザは出席停止になる感染症の一つ。
しかも発症から一定の日数が経っていないと、治癒しても登校できない。
計算したら、どうあがいても修学旅行出発日には間に合わず、
この一大イベントに参加できないことが確定した。
「言っちゃ悪いが、色々な意味で頭を冷やしてもらいたいところだな。
怜二、そっちにもメッセとか来てる?」
「大分前にブロックしてからずっと解除してない」
「なるほど。俺もブロックしとくか」
着信拒否・受信拒否・メッセブロックまでして、透はなおも諦めなかった。
家電に何回もかけて「俺も連れてけー!」とガラガラになった声で言う様は、
ただただ呆れる他なかった。
「とりあえず5人だし、このメンバーがそのまま班ってことでいいよな?」
「俺は異議なし。さてさて、向こうでナンパとかできっかなー♪」
「遊びのアイテムは任せておけ。密輸は得意なんだよ」
「……やらかした場合は連帯責任ということ、忘れてないよな?」
自由度が高いとはいえ、学校・教師の監督下であることは同じ。
勿論俺もそれなりに、いやガッツリ遊びたいとは思ってはいるが。
とはいえ、何だかんだ最低限のラインは弁えてる……はず。
「サル、写真撮影は任せたぞ」
「写真もビデオもどんと来ーい! 報道部の肩書きは伊達じゃなーい!」
こういうことにおいても、サルは役に立ってくれる。
けど、同時に思わぬところスッパ抜かれたりもするから気をつけんと。
「楽しみすぎて、眠れないかもしれない」
「ホットミルクは飲んだか?」
「飲んだけど全然。今、寝ながら電話してるけど全然眠くならない」
「目を閉じとけ。それでも眠れないなら起きてるのもアリだが」
「そうする」
荷物の準備が終わった辺りで、雫から電話がかかってきた。
その気持ちは非常によく分かる。最悪寝不足になったとしても、
遅刻さえしなければ行きの新幹線で爆睡すればいいだけだが。
「班決めどうしようかと思ったけど、穂積さんが誘ってくれたから、
早くに決まって嬉しかった」
「よかったな。メンバーどんな感じ?」
「ボクと、穂積さんと、門倉さんと、宮崎さんと、日下部さん。
宮崎さんは体育祭のスウェーデンリレーに出てた人で、
日下部さんは門倉さんにリップクリーム取られた人。
ちゃんと謝ったみたいだけど、完全解決とはならないかな……」
「それでも班に入れたのは、やっぱり鞠のおかげか?」
「だと思う。穂積さん、本当にお人好しだからなぁ……」
「雫としては、門倉とあと二人はどうなんだ?」
「門倉さんはまだ苦手だけど、変われたみたいだからそこまでは。
宮崎さんは体育祭の時にボクと茅原君が言ったことを喜んでくれたし、
日下部さんはあんまり話したことないけど、悪い人ではないと思う」
「なら大丈夫だな」
俺の考えとして、旅行はどこに行くかより、誰と行くかが大事。
この分なら、いい旅になりそうだな。
「……流石に神楽坂君が旅行先に来るってことはないよね?」
「流石にないだろ。来たとしても追い返される」
「インフルエンザだもんね。……なんか、それでも来そうで怖いけど」
正直、俺もありえないと言い切れない。
どんなことであろうが幾度も捻じ曲げて来たからな、透。
とはいえ、主人公補正が無くなった今はそうでもないし、仮にあるとしても、
出席停止の日数を変えるということはできないから、問題ないが。
「いずれにしても、計画は立てとかないとな」
「うん。行き当たりばったりも楽しいけど、修学旅行じゃそうもいかないし。
ところで、旅行って計画立ててる時が一番楽しいみたいなとこあるよね。
あれって何でだろ?」
「理想の旅のシミュレーションができるからだと思ってる。
実際行ったら多少は予定外のことあるしさ。それもそれで楽しいが」
「すごくよく分かった。なるほど……」
期待値がMAXの状態から始まるから、それを超えるのって難しいからな。
でも、それはあくまで相対的な話であって、旅そのものも勿論楽しいが。
「とりあえず晴れてて欲しいね。
雨だったらそれはそれで情緒があるんだろうけどさ」
「3泊4日だから……微妙だな。秋の天気って不安定だし」
「女心と秋の空っていう言葉があるくらいだしね」
「あえて言おう。雫は心は安定してる方だけど、
突拍子の無さということに関しては天変地異クラスだ」
「そこまで言う!? でも納得してしまう自分がいる!」
「大丈夫だ。雫はどうあろうと可愛いから」
「かわ……うぅ。怜二君も言うようになったね……」
「誰かさんのおかげでな。待ってるだけじゃダメだって思ったし」
「……待たせちゃってごめんね」
「そこについては心配すんな。焦らず考えろ」
待つのもまた、恋の楽しさ。
こっちに関しては、実った先に真の楽しさと幸せがあるんだけどね。
【サルの目:生徒データ帳】
・宮崎 陽奈子
バドミントン部
ルックス B+
スタイル B+
頭脳 C
体力 A+
性格 B+
【総評】
豆腐メンタルの泣き虫。
あざとさも感じるが、バカなので計算ではなさそう。
そのせいかは分からんが、男女問わず好かれている方ではある。
どこか垢抜けない容姿も、見方によっては愛らしいとも言えるし。
総合ランク:B+