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192.とりあえず、当座で

「先輩方に少し、お話してもいいでしょうか」

「分かった」

「うん」


吐き出してくれるぐらいの信頼はあるらしい。

中学で勉強教えたりしてたことが、この場面で繋がったかな。

雫は夏休みでのことを考えれば当然だし。


「思えば、階段で透先輩が滑り落ちた時からおかしいとは思ってたんですよね。

 あれ、何で落っこちたかご存知ですか?」

「歩きスマホ。階段だからやめろと言っても聞かなかった」

「因果応報というか、当然のことだと思う」

「あー……そういうことだったんですか。どうりで派手に行ったと。

 だから気づかなかったんですかね……わたしの足のことに」


その瞬間そのものは見ていないから、具体的には分からないが、

いずれにしても八乙女のおかげで透はケガをせずに済んだ。

痛みや恐怖はあったかもしれないが、八乙女の捻挫に気づかない程か……?


「その時に神楽坂君は、八乙女さんの心配はしたの?」

「特に何も。お礼は言われましたけど」

「心配してたら全体を見て、患部を目視したはずだ。

 その時の透の視線は、少なくとも八乙女の足首には向いていない」


礼を言うとか謝るとかは勿論として、相手にケガがないかぐらい見るだろ?

その相手がハーレムの一員なら尚更だ。気にしない訳がない。

……が、あのエセ主人公様に常識は色々な意味で通用しない。


「ところで、何で怜太先輩はわたしの捻挫に気づいたんですか?」

「階段の一番上から踊り場まで転げ落ちた奴を気にしない奴も、

 そいつの下敷きになった奴も気にしない奴はいない。

 で、現場を見たら足首が妙な方向に曲がっているお前がいた。

 客観的に見ることができたというのもあるが、それだけの話だ」

「なるほど。あの時は本当に助かりました!

 怜太先輩がいてくれたのは不幸中の災害です!」

「幸いな。不幸中に災害起きたらケガじゃ済まんわ」


転げ落ちた方は透だから、実際は一切気にしていないがな。

対して八乙女は相当なケガだし、保健室まではやや距離があった。

変に注目を浴びてしまったが、背に腹は変えられん。


「つまり、だ。誰を好きになってどうするかはお前の自由だが、

 俺は見えてる落とし穴に突っ込もうとしている後輩をほっておけるほど、

 放任主義にはなれないお節介野郎ってことなんだよ」

「あの、怜太先輩。先輩の言う『落とし穴』って……」

「……この前階段から落ちた方の先輩のことだ」


八乙女はしばしば、おかしな解釈をする。

流石にここまで来て透以外の人間を思い浮かべることはないとは思うが、一応。

現実を見ないといけないというのは、本人が一番分かってるだろうし。


「……水橋先輩は、どう思います?」

「え……その……言っていいの?」

「はい。むしろ、率直な考えを教えてください。

 どんな考えであったとしても、わたしは受け止めますから」


ありがたいことに、本人から勧めが出た。

それじゃ、雫の言葉で伝えてくれ。


「……私も藤田君と同じ。もう、神楽坂君からは離れた方がいいと思う。

 八乙女さんがスポーツでいい結果を出したいなら、尚更。

 リハビリは手伝うし、治ったら練習にも付き合う。……ううん、違うな。

 手伝わせて欲しいし、練習に付き合わせて欲しい」

「先輩……」


上手い言い方だ。

リハビリの手助けや練習相手になることを『買って出る』のではなく『望む』。

これなら八乙女の罪悪感が軽減できるから、精神への負担が減る。


「その点に関しては俺も同じく。未来のスーパースターの復活劇に協力させてくれ」

「……はい! よろしくお願いします!」


とびっきりの、太陽みたいな笑顔。

やっぱりこいつには、こういう明るい顔が似合うな。


(後は、透に対してどういう解釈をするか)


ちょっと中心となる部分をズラしてしまったが、それは後でもいい。

今はとにかく、八乙女のメンタルの健康を第一に考えよう。




5時間目の休み時間。裏で透を引きつけてる陽司を労う。

何事も当たり前じゃない。言葉だけでもしっかりと感謝しなければ。


「陽司、いろいろとサンキュな」

「ん。どうってことねぇよ。こっちはこっちで面白いもん見させてもらってる」

「というと?」

「如月先輩に……あ、うちのマネージャーの一人な。

 透の野郎、如月先輩まで狙い始めたんだけど、先輩ってめっちゃスパルタなんだよ。

 で、いいとこ見せようと思って練習にやる気ある風を装った。後は分かるな?」

「なるほど。あいつらしいというか」

「こっちも役立ってるよ。しごける後輩増えたみたいで先輩喜んでるし」


透の運動能力は至って普通。むしろここ最近の怠惰さ考えると低下したまである。

なまった体を動かすには、スパルタぐらいで丁度いいだろ。


「それなら何より。ところで、後輩マネージャー来たってマジ?」

「あぁ、この間入ったんだ。何か怜二のこと知ってるっぽいんだよな。

 文化祭で何かあったらしいんだけど、心当たりある?」

「文化祭……あ、一人いる。スペシャルシートの指名もらった。

 元々やるつもりなかったから、断ったけど」

「多分それだろ。お前のこと、楽しそうに話してたぜ。

 そのうち顔出してくれよ」

「まぁ、機会があったらな」


こんな脇役を気にかけるなんて、変わった後輩もいたもんだな。

どのみち透を引きつけてもらってる間は行けないけど。

【サルの目:生徒データ帳】

如月(きさらぎ) 杏奈(あんな)

サッカー部 (マネージャー)

ルックス A

スタイル A

頭脳   B

体力   A+

性格   B


【総評】

爽やか熱血スポーツ女子。しかし何故かマネージャー。

好みのタイプは頑張る男の子とのことだが、その基準がめっちゃ高い。

脳筋という訳ではないので練習メニューはちゃんとしているが、

毎回部員の限界ギリギリまで詰め込むという噂。

それがサッカー部の躍進に貢献しているというのがまたなんとも。


総合ランク:B+

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