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187.三年六臂

「そういうことなんで、お休みを」

「分かった。担任にも伝えとくな」


八乙女は5時間目を休むということを伝えた所で、時計を見る。

食堂で食える時間は無いな。購買に寄れるかも微妙。

腹は膨れないが、せめて水だけでも飲むか。


(どうするかだな……)


怪我の治療とリハビリに関しては専門に任せるとして、問題はメンタルだ。

単純に辛いのは勿論、下手したら無理に練習しだすかもしれん。

今の八乙女には、支えとなってくれる誰かが必要だ。

一応、そう考えた時に真っ先に浮かぶ名前と顔があるが……即除外。

下手すれば生兵法のリハビリさせて、悪化させるかもしれん。


(とはいえ、俺が支えになれるかといったら微妙。

 むしろ今なら、雫の方が関わりは多いはず。後は顧問の上田先生と。

 陸上部の奴らは腐ってるから、距離を取って……あっ!)


思い出した! 陸上部がだらしない連中の集まりというのは事実だが、

それは『現役の』陸上部に限った話。

今は引退したが、八乙女自身が言っていた『やる気のある先輩』。

それが誰かを、俺は文化祭の一件で知っている。


(ここしかねぇ! スポーツ医学の道に進むって言ってたし、

 リハビリに協力するという点でも間違いない!)


そうと決まれば、善は急げだ。

受験を控えた今、時間が取れるかどうかは微妙だが、お願いしよう。




「なるほどね。事情は把握した」


生徒会前副会長、茅原健一(ちはらけんいち)

深沢会長の右腕にして、陽司のアニキ。そして元陸上部部長。

まともに機能していない陸上部の中、持てる力の全力を尽くし、

その中で八乙女の才気を見抜いた、二つの意味で男前な先輩。


「本当にすみません。俺の幼馴染のせいで」

「お前が謝る必要はないだろ。そいつが悪いんだから」

「あいつをつけあがらせていたのは俺です。

 悪いのは100%透ですが、俺が遠因であるのも事実です」

「何言ってんだ。弟から話は聞いてるぜ?

 誰よりも人格者で、誰よりも人の為に働く、誰よりも強い人間だって」

「陽司の買い被りですよ」

「知るか。それならこっちで勝手に思っとく」


兄弟だから当然と言えば当然だけど、似てるな。

俺もできるだけのことはするつもりだが、現時点じゃ加害者側。

あの時に強引にでも捕まえていればよかったんだが……


「藤田ってさ、生徒会の手伝いしてくれてるんだよな?」

「一時的なものではありますが」

「ありがとな。信頼できるとはいえ、人の良さにつけこむ形で。

 その代わり、八乙女のことは任せとけ。弟にも話していいよな?

 多分そっちの方が、神楽坂絡みのアレコレは何とかなる」

「それは俺がやります。陽司と八乙女に直接の接点はないですし、

 八乙女がどう思うかも分からないんで。陽司のことは信頼してますけど」

「了解。それじゃ、その辺は任せるわ」


実績もあるし、安心して任せられるな。

俺も頑張らないと。




早めの登校をして、八乙女がいるクラスである1年3組の教室へ。

そこにいたのはギプスをつけ、松葉杖をついて席へと移動する八乙女。

席は……移動経路を見る感じ、真ん中辺りか。行きにくいな。

入り口から近い席に移動してもらえるように頼んでおくか。


「八乙女、おはよう」

「あっ、おはようございます!!」

「杖の感じはどうだ?」

「わりとすぐになじみました!! 今ならいいタイムが出そうです!!」

「急がんでええわ。まぁ、何かあったら連絡くれ」

「はい!!」


悲壮感など見えない快活な振る舞い……ではないな。

いつも以上に元気に見えるが、これは無理して出してる空元気だ。

この明るさはむしろ危うい。衝動的な行動に走る可能性がある。

最悪の状況を想定するなら……躁鬱状態にあるのかもしれない。


(杞憂だとは思うが……)


いくら明るく前向きな八乙女だって、簡単に割り切れることじゃない。

それを念頭に置いた上で、どうするかを考えるのが重要だ。

茅原先輩を中心として、メンタルケアに努めよう。

とはいえ、あまり気にかけ過ぎてもそれはそれで気に障るかもしれない。

……難しいな。こういうパターンって大体主人公が何とかするが、

その主人公様は頼りにならない上、この状態を招いた原因だ。


(やれることはやるが、やり過ぎは厳禁だな)


バランスを考えて。緻密な計算なら、脇役の得意分野だ。

とりあえず、担任に席替えをお願いしておこう。




「……神楽坂君って疫病神?」

「疫病神に悪意を足して、自覚を引いたようなもん」

「それ一番面倒で迷惑なタイプだよ……」


陸上部から八乙女がケガをしたことを聞いた雫からの電話。

何があったのかを聞かれたから、普通に全てを話した。

透への評価は文化祭辺りでどん底になったかと思ったら、二番底があった。

げんなりする気持ちは非常によく分かる。


「透は俺が牽制するとして、雫は八乙女の支えになってくれないか?」

「それはボクも思ったけど……どうしたらいいんだろう?

 ねぇ、今の八乙女さんってどうなってるの?」

「いつも以上に明るいというか、明る過ぎる。

 それも太陽みたいなものじゃなくて……燃え尽きる前の蝋燭の炎みたいな」

「そっか……下手な励まし方をしたら、なおのこと病むかもしれない。

 かといって茶化していいものじゃないし、どうしよう……」

「この件は茅原先輩に相談しながら進めよう。事が事だ」

「そうだね。リハビリの方法とかも調べておく。

 八乙女さんのおかげで変な噂も減ったし……ボク、恩返しがしたい」

「分かった。それじゃ、明日学校で」


透がいなくても、八乙女の支えになれそうな人間は複数いる。

それなら、透は可能な限り引き離したほうがいい。

あいつには謝罪どころか、無害なままでいることすら期待したらダメだ。

悪びれる様子も無いところを見るに、弱っている所を狙いにくる可能性すらある。

十二分に警戒しておかなければ。

【サルの目:生徒データ帳】


茅原(ちはら) 健一(けんいち)

陸上部(引退)

生徒会副会長(引退)

ルックス A+

スタイル B+

頭脳   A+

体力   B

性格   A


【総評】

陽司のアニキだが、運動能力は平均値。

どちらかと言うと頭脳労働に向いているタイプで、本人も自覚してる模様。

それだけあって生徒会における貢献度はかなり高い。

八乙女のことが気がかりな様子だが、恋愛的はアレコレは無さそう。


総合ランク:A

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