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180.Without fake hero

食べ放題の制限時間も迫ってきた所で、いい感じに満腹。

このシャーベットを食ったら終わりかな。


「ところで皆さんや。二次会行く?

 この後陽司とサルっちも連れてカラオケとかどうよ?」

「お、いいじゃん」

「だな。ただ俺、未だにアニソンぐらいしか歌えんけどいいか?」

「モチのロン。で、女性陣はどうしますかい?」


流石は宴会部長。今日は楽しみまくる気満々だな。

今からならそこそこ空いてるだろうし、今日はバイトのない日。

腹ごなしには丁度いい。


「私も行きたいな。雫ちゃんと麻美ちゃんは?」

「行く」

「……え、私もいいの?」

「まぁ……うん、時間大丈夫なら来てもいいぜ。

 変に仕切ったりしない限りは、という条件つきだが」


当然といえば当然だが、翔は思うところがあるっぽい。

それでも拒絶の意志を出してない辺りは、『今の門倉なら』ということか。


「時間は大丈夫だけど、そうね……」


こうなると、行くか行かないかは本人の意志次第。

どうやら大分迷ってるっぽいな。どちらかと言えば行きたいんだろうけど、

今更どの面下げて混ざればいいのか、本当に行っていいのか、という感じか?

……俺の方見ても何も言わんぞ。お前のことなんだからお前が決めろ。


「麻美ちゃんも行こうよ! カラオケ、楽しいよ!」

「……そうね。私も参加させてもらおうかしら」


穂積の勧めを受けた形か。……穂積、門倉さえ嫌ってないのか?

文化祭を潰しかけた件は知ってるはずだが、それでもなおこの態度とは。

ここまで来るってことは、性善説をとことん信じてるんだろうな。


「それじゃ透も……」

「おーっとそれなんだけどよ! カグは今日用事あるんだって!

 いやー、残念だなー! けど仕方ないよなー!」


翔が食い気味に割り込む。少なくとも俺は、透からそういう話は聞いていない。

意図することは分かる。二次会は透を抜くつもりだ。


「え、そうなの?」

「食ってる最中に分かってさ。だから二次会あるってことは黙っとけ。

 後で知ったらかえって辛いだろうからさ」

「そうなんだ……仕方ないね」

「そういうことで」


穂積は人を疑うということを知らない人間だから、普通に騙される。

だから、俺の透に対する接し方の逆アドバイスも信じてくれたし。

雫は母親譲りの読心術で嘘だと見抜いてるだろうけど、透を嫌っている以上、

ここで真実を口にするということはないはず。

秀雅も何となく気づいてるだろうけど、プールの件以降の透への評価はほぼ最低値。

同じく、分かっていながらも黙るはず。

となると、残った問題は。


「……ねぇ、前島君?」

「どしたー?」

「何の用事で、透君は来れなくなったの?」

「え? ……あー、うん、えっと?」


……引っかかったか。

透には騙されっ放しだったが、元々は頭がいいんだ。勘が働くのも当然。

しかも、嘘かどうかではなく『用事が何か』という聞き方が巧い。

これは設定をきちんと考えていなかった場合、言葉に詰まって嘘がバレる。

で、どうやら翔はそこを考えていなかったらしい。

ここはアシストするか。俺も、二次会は透抜きで行きたい。


「今日、親父さんの実家から爺ちゃんと婆ちゃんが来るみたいでさ。

 両方とも身体ちょっと不自由だから、介護任されてるっぽい。

 だから、透はここで帰した方がいいだろ」

「……そっ、そう! だから、な?」

「そういうことなら、仕方ないわね。……じゃ、時間になったら行きましょうか」


ここまではクリア。だが、問題はもう一つ残っている。

恐らく、透も二次会やりたいと思ってる。穂積辺りを誘って。

退店後、陽司とサルの押さえが無くなってからが勝負だな。




「じゃ、お手を拝借。ヨーオッ!」


パンッ、と小気味良い音が鳴る。一丁締めも終え、解散。

後は各自で帰宅なり二次会なりということになるが、その前に俺は即行動。


「透、ちょっとこっち来い」

「何だー? これから二次会って時によー?」


やはり、こいつもそう思っていたか。

それじゃ、矛盾が発生する前にどうにかするか。


「率直に聞く。何で門倉ほっておいた?」

「え、何て?」

「ここで焼肉の音はしない。周りも静か。聞こえないふりは通用しないぞ」


ついでにこれも探っておこう。

今の透にとって、今の門倉はどう映るのか。


「いやまぁ……あいつも気にしてるだろ? ならほっといた方が……」

「お前のこと好きなのに?」

「だったら俺の補習無くしてくれるはずなのにさー、全然だし。

 しばらくほっといた方いいだろ?」

「補習はなくならんよ。しかももうすぐ追試だろ?

 打ち上げはまぁいいとして、二次会行く余裕なんてあるのか?」

「そこは麻美がどうにかしてくれるって!」

「……勉強を教えてくれるという意味でだよな?」

「まぁうん、教えてくれるし補習も無くせるし。

 あ、そうだ。お前から雫にお願いしてくれねーか? 講師役!」


教わる気は全くないらしいな。

しかも、明らかに嫌われてることが分かってる雫にちょっかいかけるつもりか。


「何で?」

「あいつ教えるの上手いだろ? 麻美より成績いいし。

 どういう訳か知らねーけど、お前仲いいだろ?」

「お前さ、今までのこと思い出してみ?」

「えー? いつのこと?」

「明確に嫌われてるだろが。ミスターコンの時だよ」


あぁまで言われて、どうやって接点持とうとしてんだこのエセ主人公様は。

補正の力も弱まってるし、雫には元から通用しねぇんだよ。


「あれはちょっと錯乱してただけだろ。お前がバカやったせいでさ」

「……お前さ、何でも自分に都合よく考えるのやめろ。

 そのせいで何人傷つけたと思ってんだよ」

「お前こそあの時雫傷つけたじゃねーか! 棚に上げてんじゃねーよ!」

「あの後にしっかり謝って、許してもらった。だが、お前はどうだ?

 何かやらかした後、謝ったことはあるか?」


悪びれる様子も無く、手柄の横取りの為にはどうすればいいか。

それぐらいしか、こいつがまともに頭を働かせることはない。

都合が悪くなったら舌打ちするか捨てゼリフを吐いて逃げる。

まともに謝ったとこなんて、数えるぐらいしか見た事無い。

……さて、そろそろか。


「お前……」

「待った。電話だ」


着信は翔から。よし、手筈通り。


「もしもし? あー、うん。大丈夫だけど。……え、マジで?

 分かった。すぐ帰るから。じゃ」


この間、向こうからの音声はなし。会話っぽくしたのはただのフェイク。

この電話が教えてくれるのは、『透を撒けるぐらいまで、店から離れた』ということ。


「ちょっと野暮用できたわ。最後に一つ。

 何度も言ってきたけど、このまま反省しないつもりなら、その内痛い目見るぞ」

「あーあー、そりゃようござんしたな! バーカ!」


……救いたいとも思わないし、救えない。もう、堕ちるとこまで堕ちてる。

俺がやたらとフォローしてなかったら、数年前にこうなってた。

幼馴染の腐れ縁も、もしかしたら切れるかもしれない。


「翔? うん、大丈夫。方向的に直帰っぽいから、鉢合わせることもないだろ」

「お疲れ。あと念の為、場所はいつもと違うとこにしてある。

 ちょっと高いけど、サービス充実してるんだよこれが♪」

「了解。場所教えてくれ」


高校生になって、新しく出来た縁は大切に。

思いっきりはしゃがせてもらおうか!

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