表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/236

18.補正乗算

「お」

「何通目だ? 相変わらずなことで」


俺と透は幼馴染ではあるが、一緒に登校したりはしていない。

といっても、避けてるわけでもない。

で、偶然同時に着くと、こういうことがよくある。


ラブレター in 下駄箱。コレは後輩女子からか。

穂積と違って、流石に同性から貰ったことはないし。

入学から日も浅いのに、早くも突撃かけるか。


「どうすっかな」

「断れ。お前は今の4人にちゃんと接しろ。そして一人選べ」

「それも難しいんだよ。一応、会うだけは会ってみる」


この宙ぶらりんなまま、はぐらかし続けてることに罪悪感無いんかね。

普通の奴がやってたら、誰からも愛想尽かされるぞ?


「お前の決めることだけどさ、期限はあるってこと忘れんなよ?

 古川先輩は今年卒業だし、八乙女とは再来年には一緒の学校じゃなくなる。

 穂積に門倉も、来年も同じクラスとは……」

「あーうん、分かってる分かってる。考えとくから」


この辺で黙っとくか。

はっきりしないとこはいけ好かねぇが、脇役が騒いでも主人公は動かん。

こんな適当な感じでも、モテてるという現実に納得はいかないが、

世の中大体そんなもんだ。

更に言うなら、俺が水橋の正体を知っているというのはもっとありえねぇし。


(……バレんようにしないと)


自分の事、棚上げ厳禁。

何をしても上手くいくのは主人公だけの特権だ。俺は現実を見据えないと。




「おはようっ!」

「おはよう、鞠」

「ねぇねぇ、昨日のテレビ見た? 2時間スペシャルのやつ」

「あぁ。やっぱ泣けるよな、ああいうの」

「だよね。私はあの赤ちゃんのお話が一番だったけど、透は?」

「俺も一緒。鞠とは気が合うな」

「もー、透ってばー♪」


教室に入れば、流れるように穂積と漫才。

これで付き合ってるわけではないというんだから、分からんよ。


水橋、今日はちゃんと挨拶できたんだろうか。

穂積も水橋も登校早い方だから、ちょくちょく見逃すんだよな。

一歩ずつ、いや半歩ずつでもいいから、前に進んでくれればいいんだが。

……っと、携帯。水橋からメッセージ。


『神楽坂君って、穂積さんと付き合ってるの?』

『いや。そうだったらハーレムみたいなことになってない』

『自惚れだったらごめん。ボクも狙われてる?』

『むしろ本命まである』

『……ボク、神楽坂君のことよく知らないんだけど』


透、確定した。脈なしだ。

お前の主人公補正、水橋には全く効果ない。


『この前の件もあるし、牽制しとく。それじゃ、また』

『うん。ありがとう』


アプリを終了し、画面をオフに。

透も躍起になったら何するか分からないし、気をつけないと。


さて、今日も一日、つつがなく終えるか。




昼休み、メシ食った後。


「藤田君、暇よね?」

「暇ではあるが、その聞き方はどうなんだ」

「ならいいわね。これ持って職員室」


ドサっと、大量のプリントを渡された。

職員室か……ここからだと遠いな。階段経由だし。


「誰にだ?」

「数学のプリントって時点で分からない? 察しなさいよ」

「はいはい」

「はいは一回! 前にも言ったはずよ。

 じゃ、私はあなたと違って、会長に用があるから」


いちいちムカつく言い方しかできんのかコイツは。

お前が生徒会長立候補したとしても、俺は絶対に不信任票入れるからな!

どうせ普通に当選するだろうけど!


結構な重さあるし、さっさと運ぶか。

地味な所で頑張っていく。それが脇役というものだ。




「透君、ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」

「どうってことないって。麻美の頼みなら、いつでも受けるよ」

「本当に、皆が透君みたいな人だったらいいんだけどね」


職員室入室→プリント渡す→別件で来てたらしい透が職員室を出る

→門倉と会う→プリント持っていったのは透だと思い込む

以上、そんな感じで手柄が透のものとななった。

別に主張するほどの事でもないし、それはどうでもいいんだけど。


「麻美、誰でもこんなもんだろ?」

「全然よ。透君と比べるまでもないわ。

 今日だって、中途半端にしかやってくれなかったし」

「何かあったんだろ。気にすんなって」


透。お前は何で話合わせてる?

門倉がお前の何に感謝して、何の話してるのか、訳わかんねぇだろ?


「いつもいつも、中途半端で投げ出す人ばっかり。

 透君だけよ。何事もちゃんとやってくれる人は」

「麻美は偉いな、いつも頑張ってて」

「透君……」


頭ぽんぽんか。イケメンにだけ許される行為だな。


(……補正、かかってんなー)


特に何もしてなくても、人から好かれる、主人公補正。

色々やっても、いいとこだけ主人公に吸い取られる、脇役補正。


今更だし、もう慣れた。

それに、門倉に限っては『透補正』と『その他補正』もあるっぽいし、

致し方ごぜぇません。

んじゃ、俺は教室に戻るか。


「ちょっと待ちなさい」

「ん?」


目の前に、門倉。

何だ? 俺はちゃんと仕事したぞ? お前見てないとこで。


「ありがと」

「……何が?」

「一応、あなたも頼みは受けてくれたし。

 勘違いしないでね。何も言わないのが嫌ってだけだから」


そう言って、足早に去っていく。

頼み受け入れたどころか、完遂したんだが。


(まぁ、いつもよりマシか)


嫌みったらしい礼だが、筋通したかったんだろうな。

素直にとはいかねぇが、頂いておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ