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177/236

177.税別1980円

打ち上げ当日、焼肉店。

平日と比較すると休日の食べ放題は相対的に高いが、それでも格安。

どっちにしろ、チケット持ってるから関係ないが。


(さて、どこに座るかね)


内装は去年と同じ、席はおおまかに分けてパターンが二つ。

両側ソファーの4人席、壁側ソファー、通路側が椅子の6人席。

ここは予定通り4人席を確保して、そこに雫を、という所か。


(バランス的には男子が欲しい所)


俺、雫、穂積で座ることをより自然にさせるには、そうした方がいい。

透以外なら誰でもいいんだが……お、いい所に。


「秀雅、こっちの席来ないか?」

「いいのか? んじゃ遠慮なく」


うまいこと余りかけてた秀雅をゲット。

事前計画はしてなかったが、理想的な形にまとまった。


「鞠と水橋も、いいよな?」

「勿論!」

「うん」

「あざっす! って、この卓の容姿格差すげぇな!?

 何々? ミスターにミスにミスでもおかしくない女に!?

 俺ここでいいのか? ただのアキバ系だぞ俺!?」


言われてみれば確かに。俺はともかくとして、対面にはクラスの美女ツートップ。

服を買いに行った時以来の組み合わせ。


「安心しろ。俺はまぐれだ。正確には準ミスターだし」

「いやそのツラでまぐれはねぇっすわ。どのみち俺がブサイクってことは変わらんし」

「そんなことないと思うよ。秀雅君もブサイクじゃ……」

「中学時代の俺のあだ名知ってるか? 『くすだ』だ」

「……え? 秀雅くんの名字って『あずま』だよね?」

「『くす』みの酷いは『だ』の略。自覚はしてるけども」


俺はそう呼ばれるようになった理由を原因つきで聞いたことがある。

ゲームのやり過ぎで寝不足、金は身嗜みよりゲーム優先。

そりゃそうだろなという感じ。本人は全く気にしてないが。


「つーことで、雑用というかドリンクバー係は任せとけ。何がいいよ?」

「んじゃコーラで」

「オレンジジュースもらおうかな」

「……烏龍茶、お願い」

「ほいほーい」


厚意には甘える。むやみやたらに遠慮はしない。この辺も大切に。

相手が友人の秀雅であるならなおのこと。


(で、門倉は……)


隅っこの席で、一人。完全にハブられてる。

周囲もそれとなく気付いてはいるようだが、せいぜい一瞥するだけ。

当の本人は軽く俯き、縮こまっている。


(まぁ、ほっとくけど)

「よう鞠! ミスおめでとー!」


いつの間にか、俺の隣に透が来ていた。

そこは秀雅の席だ。何勝手に座ってんだよ。……あ、そうだ。


「透。向こうに門倉一人だから行ってやれ。お前仲いいだろ?」

「え、何て?」

「向こうの席で門倉が一人になってるから、そっちの席行け」

「えー? よく聞こえねーなー」

「あそこにある門倉が座ってるテーブルに行けっつってんだよ」

「全然聞こえねー。さっきから焼肉焼く音がうるさくてよー」


もう主人公じゃない癖して、難聴のふりしてんじゃねぇよ。

どうやら、透としても接触は避けたいようだが。

……って、秀雅も戻ってきた。


「ただい……おい透。そこ俺の席」

「ハァ? 冗談も休み休み言えよ。ここは美男美女グループだろ?」

「こっちは怜二からのお誘いを受けてんだよ。どけ」

「やだね。お前の汚い顔見ながらメシ食うとか地獄だろ」

「……おい、お前とうとう建前も使わなくなったな。

 俺のツラが汚いのは認めるが、他がどう思ってるかは別だ。

 で、鞠、水橋。実際どうなん?」


秀雅からの声は、思いっきり聞こえるらしい。

そして肝心の女子二人の回答は。


「さっきまで秀雅君が座ってた席だし、譲ろうよ?」

「神楽坂君がここから動かないって言うのなら、私は席を変える」

「うっ……」


当然の道理と、明確な拒絶。雫は当然だが、穂積もたしなめるか。

流石にこれ以上粘るのはばつが悪いと感じたか、透は席を立った。


「あの野郎もどうしたのかねぇ。ほら、各自飲み物取れ」

「サンキュ。で、秀雅のそれは何だ?」

「お前らの希望したものをミックスしたものを飲もうと思って。

 オレンジコーラの烏龍茶割り」


最初二つで留めておくべきだったな。ジュースに茶は合わんだろ。

勿論、色は見事なまでにカオスなことになってるし。




「では、全員に飲み物が行き渡ったところで、挨拶と行くか。

 ということで今回の立役者! 我らがド聖人、怜二! 挨拶頼んだ!」


サルがこの場を仕切り、俺に向かって歓声が沸く。

前振りがこっ恥ずかしい上にハードル上がった。

あと些細なことだが、『聖人』の前の強調、『ド』だと意味が変わるぞ。

こちとら純粋な地球人だ。……って、自分で『聖人』と言われたと推測する辺り、

俺も大分ナルシストになってきたな。気をつけんと。


「えー……皆、腹減ってるだろうし、手短に。

 推薦してくれてありがとう。おかげで、いい経験が出来た。

 それじゃ、グラスを持って……乾杯」

「「「「「かんぱーい!」」」」」


挨拶の途中でグラスを持ち、斜め方向に少し上げるジェスチャー。

変にボケたりはせず、無難にまとめる。


「乾杯!」

「かんぱーい!」

「乾杯」


秀雅、穂積と来て、最後に雫とグラスをぶつけてから、一口。

口内を適度に潤したところで、食べ物を取りに行くか。


「120分コースっていうのがいいよな。ガッツリ食える」

「食べ残したら別料金だから、それだけ気をつけろよ」

「そういえば、雫ちゃんって前に鶏肉好きって言ってたよね?

 焼き鳥串あったから焼こっ♪」

「……うん」


わいわいガヤガヤと騒ぎながら、肉を取りに行く。

っと、俺はその前に白メシを確保せねば。焼肉には白メシよ。

確かこっちに炊飯ジャーが……


「おいおい、お前はまた米かよー。いい加減卒業しようぜ?」


また来たよ。人のメシにケチつけないと死ぬ病気にでも罹ってんのか?

何言っても無駄っぽいし、聞き流すか。


(この茶碗だと、1杯目の量は……)

「お? 反論がないなら俺の勝ちだな」

(……お前は何と戦ってるんだよ)


なんか、気持ち悪ささえ感じてきた。

無視されてるのも分からず勝利宣言とか、虚しくないのか。


「ま、お前もその内ちゃんと焼肉のマナーを……」

「藤田君、私の分もよそってもらえない?」

「分かるように……えっ!?」


いつの間にか、俺の後ろに雫がいた。

トレイには焼き鳥の串が数本と、野菜が少々。

今、俺に要求したことと合わせて、透が否定してきたことが二つ。


「あ、あぁ。どれぐらい?」

「藤田君と同じぐらいで」

「結構多いけど大丈夫か?」

「余裕」

「分かった。んじゃ……ほい」

「ありがとう」


雫も焼肉には白メシ派か。さて、これを見た透はどうするのかね。

無理を承知で否定するか、雫に同調するか。


「……チッ!」


舌打ちして逃げる、か。

お前の自分ルールで言うなら、俺と雫の勝ちってことになるが、いいのか?

そもそもこんな下らない自分ルールを作るのも恥なら、

そんなものに囚われるのも恥ってもんだが。


(こっちはハナから、勝負になったつもりはねぇよ)


席に戻るか。焼肉はまだ、始まってもいないんだ。

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