表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/236

175.伸ばした手は、返ってくる

バンドにダンスと、それぞれが様々な出し物を披露する中、俺は未だ夢現。

さっきのことがフラッシュバックしまくって、スタンツをまともに見るのさえ困難。


(折角、雫が思いっきり自分本位の望みを出してくれたってのに……)


仮面のない雫は茶目っ気たっぷりな女の子ということは、前から知ってる。

驚きはしたけど、ああいったことを望むのは不自然じゃない。

むしろ、今まで無かったというのが不思議であって。

ともすれば俺に惚れさせるチャンスだったかもしれないのに……最高にダサい。


(やっぱり俺は、脇役が似合ってる)


透の支援をやめ、雫を彼女にすることを目指す。

少しずつ進歩してきたと思うと、こういう現実に直面する。

おかげ様で調子に乗ることがないし、乗れない。ある意味何よりだよ。




各種演目も全て終わり、残すはミス・ミスターの結果発表のみ。

ミスの方には規定演目は無かった。てっきり告白シーンとかあるかと思ったが。

後で誰がこんなのブチ込みやがったか聞かないとな。会長は乗り気だったが。


「皆様お待たせ致しました。先程、集計作業が終了致しました。

 今年度も沢山の投票、ありがとうございます!

 それではいよいよ、ミス、ミスターの発表です!」


今年は誰になるんだろうかね。透が出ないとどういう結果になるのか。

去年の準ミスターは3年生だったから、全く見当がつかない。


「まずはミスター! 第3位からの発表です!

 第3位は……1年4組! 真田淳(さなだじゅん)!」


お、1年生が食い込んだか。

聞いた話だと、1年生の入賞者は比較的少ないらしい。

去年は準ミスに穂積、ミスターに透と二人入ったが、これは前代未聞とか。

本来は普段の印象やら何やらが積み重なる、2、3年生がやや有利らしい。

その中で3位を勝ち取った訳だから、こいつ強いな。

勝因はブレイクダンスのインパクトが強かったことか?

目鼻立ちもキリっとしてたし、納得の入賞だな。


「そして第2位、準ミスター! 今年は本当に激戦でした!

 3位との票差はなんと2票! 僅かな差で2位に輝いたのは!」


へぇ、そんなことがあるのか。ただ、ここで言うってことは1位は圧勝か。

副賞もらえるのはミスターだけだし、そこで接戦やっても……




「2年1組! 藤田怜二!」




(……ん?)


あれ、おかしいな。そんな奴出てたか?

そんな地味で野暮ったい奴、こんなキラキラしたコンテストにいないだろ。

壁ドンもロクにできてないし、2回やって2回ともダメダメな奴なんか……


「怜二ー! お前、本当にやりやがったな!」

「おめでとう藤やん! ほら行け行け! 表彰台!」

「準ミスター、立派立派! 胸張って行ってこいや!」

(マジで!?)


この選ばれたメンバーの中に入れただけでも奇跡だというのに、

投票した人がいて、しかも準ミスター!?

最高のダンスパフォーマンスを披露した1年生でもなければ、

弾き語りやフリースタイルバスケで魅せた2年生でもなく、

ラップや手品、ガチ歌で勝負仕掛けた3年生でもなくて、俺!?

いやいや、ありえない! 絶対に何か理由ある!


(例えば、ミスターが票をほぼ独占してて、他は全然とか。

 うん、そうだ。実際に入った票は4、5票とかの低い位置での争いで……)

「本当に今年は満遍なく票が入りましてね。大激戦でした。

 順位間の票差が一番あったところで……7票? それぐらい?

 本当に誰がミスターになってもおかしくありませんでした!」

(俺にもそこそこ入ってる!?)


仮に俺のクラスメイトが全員俺に投票していたとしても、半分にも届かない。

校内か一般かは分からないが、どの道俺は結構な票を貰った……?

パフォーマンスのレベルは間違いなく俺がビリだというのに、何で……?




「表彰、第17回ミスターコンテスト準グランプリ、藤田怜二。

 あなたは本校のミスターコンテストにおいて頭書の成績を収めました。

 その栄誉を称え、表彰致します。」


クラウンと副賞がもらえるのはミスターだけだが、2位と3位にも賞状は贈られる。

……どう見ても俺の名前だ。間違いでも何でもない。


(ここまで、食い下がれるなんてな……)


焼肉チケットは、手に入れられなかった。

でも、これだけの成績を残せたことに、俺はとても満足している。

皆には申し訳ないけど……ありがとう。俺を推してくれて。


「表彰、第17回ミスコンテストグランプリ、穂積鞠。

 あなたは本校のミスコンテストにおいて頭書の成績を収めました。

 その栄誉を称え、表彰致します。」


そして、穂積は大方の予想通り、ミスの栄冠を手にした。

スイーツバイキングのチケットが、深沢会長から贈られている。


「おめでとう! 皆で存分に楽しんでくれ!」


『目録』と書かれた祝儀袋を胸の上で抱きしめるようにして、顔を綻ばせる。

本当に嬉しいんだろうな。ミスになれたのも納得だ。




「おかえりー! ほら道開けろ、準ミスターとミス様のお通りだ!」

「二人ともおめでとー!」


皆から歓迎されながら、席へと戻る。

喜んでくれて何よりだ。何なら俺より喜んでるかもしれない。

俺は喜びより驚きの方が大きいというとこもあるし。


「鞠、グランプリおめでとう! じゃ、スイーツバイキングいつ行こっか?」

「正直勝ち確だと思ってたから、バイトはしっかり空けてます!

 ケーキ喰らい尽くす用意はできてるよー!」

「はいはい、落ち着け。とはいえ私もめっちゃ期待してるけど」


女子は大盛り上がりだな。当然ではあるが。

これが1位と2位の違い。この差は非常に大きい。


「怜二。鞠に感謝しろよ。鞠のおかげで打ち上げにバイキング行けるんだ。

 ま、本当だったら焼肉にも行けたんだけどな。

 あの時俺に出場権譲ればよかったのに、出しゃばりやがって」


片や女子に囲まれて賞賛され、片や透から煽られる。

鞠への感謝は必要だし、その後に続く部分も若干合ってる。

だが、黙って全てを受け入れる俺は今年の夏で閉店済み。


「出しゃばりってのはお前のことを言うんだよ。

 本当にお前を出したい奴が多かったら、俺に推薦は入ってない」

「あんなモン冗談に決まってんだろー? それを真に受けるとか。

 今頃全員、俺を出せばよかったって後悔してるぜ?」

「じゃ、実際に聞いてみたらどうだ?」

「その必要はねーよ。分かりきってること聞く馬鹿がいるか」


聞いたら現実から逃げられなくなるからな。

プールの時だってそうだった。こいつはいつでも、自分に都合のいい解釈をする。

その為に敢えて事実を確認せず、曖昧なままにすることも多い。

さて、どうするかね。陽司辺り呼んではっきりさせるか?


「おーい! 藤田いるー?」

「はい?」


次の一手を思案していたら、後ろから声が聞こえた。

振り返ってみると、そこにいたのは今回のグランプリ、3年生の先輩。

表彰式で呼ばれた名前が確か……天野(あまの)、だったはず。


「どうも、天野先輩。俺が藤田です」

「お前さんか。ほら、これ受け取れ」


そう言って差し出されたのは、『目録』と書かれた祝儀袋。

……えっ? これって、もしかしなくても副賞の……?


「結果はこうだけどさ、さっきクラスで話し合ったんだ。

 こいつはお前さんが貰うべきだって」

「えぇっ!?」

「壁ドンの前に財布盗んだ泥棒捕まえただろ?

 財布盗まれたのって、俺の姉さんなんだよ。そのお礼。

 クラス的にも、一番カッコよかったのはお前さんだってことだし」

「いや、受け取れないですって!」

「気にしなさんな。相応しい奴にブツが渡るだけ。

 何かこのまま打ち上げ行ったら罰当たりそうだし、貰ってくれや」


押し付けられた封筒を思わず受け取った所で、足早に去っていく先輩。

……ちょっと、この展開は予想してなかった。


「……やるじゃん怜二! それでこそ俺の幼馴染よ!」


こっちは予想済み。というか予想出来ない方がおかしい。

どこまで調子いいのかね、この男は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ