171.後夜の祭
文化祭二日目の第二部、文化祭全体では第三部に当たる後夜祭。
ここでは、ミス・ミスターコンの本戦とスタンツが行われる。
「青春、してるかァーーーーー!!!!!」
「「「「「オーーーーー!!!!!」」」」」
開幕は勿論、会長の絶叫から。
これを聞くのも今日が最後。後任のハードル高そう。
「模擬店やライブの疲れがあるかと思ったが、いらぬ心配だったな。
皆には最後の最後まで、文化祭を楽しんで欲しい。
それでは、後は実行委員に任せよう」
一礼の後、拍手喝采を受けながら降壇。
その後すぐ舞台裏に回り、コンテスト出場者を確認しに来た。
「皆、まもなくミス・ミスターコンテストが開催される。
体調が悪い、手洗いに行きたいなどあれば今の内に。
特に無いようなら、再度の事前説明をさせてもらおう」
俺の他にミスターコンの予選を突破した9人。
その内訳は1年生2人、2年生3人、3年生4人。
当然イケメン揃い。美少年系、モデル系、男前系と様々。
全員自分の魅力が出せる、或いはこの後のアピールタイムに合っている服装。
俺も一応、出し物に合ったストリート系ファッションでまとめた。
……未だに何でここに混ざれたのか分からないんだけど。
「怜二君、頑張ろうね!」
「……あぁ」
前年度準ミスの穂積は、案の定予選1位通過。
勝負服はワンピース。本人のお気に入りの服らしい。
順当に行けば、今年のミスは間違いないだろう。
スイーツバイキングのチケット、任せたぜ。
「まずは本選出場者の紹介。その後、アピールタイムを設けてある。
各自のアピール時間は1分30秒。多少のオーバーは大目に見るが、
あまり長引く場合はブザーを鳴らして強制終了だから、そのつもりで」
「95か100秒ぐらいならセーフですか?」
「まぁ、許容範囲だ。ものにもよるが、2分を超えそうなら鳴ると思ってくれ」
他の奴らは何やるんだろうな。俺は手短に終える予定だけど。
基本ステップの組み合わせで1分強。体力的には全く問題なし。
問題は技術だが、どこまで誤魔化しが利くか。
(いや待て待て待て待て)
パフォーマンスの順番は学年・組順。
俺は2年1組だから、1年生二人のパフォーマンスの後。
で、その二人のパフォーマンスなんだが……
「いやー、今年の新入生はハイレベルですね!
これはジャイアントキリングもあるんじゃないですか?」
一人目はロボットダンス。どう見ても人間の動きじゃなかった。
二人目はブレイクダンス。何が起こっているかすら分からなかった。
ハイレベルであることは勿論、まさかのダンスかぶり。当然比較される。
前フリによれば、両者共に大会出場経験者だとか。
「続いては2年生のトップバッター! 2年1組、藤田怜二君!
彼が披露するのはシャッフルダンス! なんとなんと、ダンス三連続!
異種格闘技戦ならぬ異種舞踏戦、燃えますねー!」
これ以上ハードルを上げないでくれ。こっちは付け焼刃なんだ。
あのクオリティに勝つどころか、まともにやり切るのすら怪しいんだ。
(せめて前の二人がダンス以外だったら……いや、焼け石か)
うだうだ言ってても仕方ない。
持ちうる限りのものを出し尽くして、華々しく散ろう。
中途半端に打ってゲッツーになるくらいなら、全力で三振してやるよ。
「準備ができましたら、ステージにお上がり下さい!」
軽く屈伸と伸脚をした後、覚悟を決めて歩を進める。
これでも一時期やってんだ。昔取った杵柄よ、今ここで出ろ!
「ただいま」
「お帰り。良かったぜ、怜二」
「ささ、こちらの椅子にどうぞ」
「藤やんお疲れ。これなら十分チャンスあるだろ」
陽司の小さな拍手を受け、秀雅が出した椅子に座ると、翔が肩揉みを始めた。
結果はまずまずといった所。一応、ミスはしていない。
とはいえ、元々の構成が基本的な技しか入れていない上、
前の二人と比べたら明らかに見劣りするが。
「つーか、本当に一夜漬けなん? その割には中々」
「一時期やってたことあって」
「なーる。経験あるなら強いよな」
「加えて怜二は運動神経抜群。なぁ怜二、ものは相談だ。
ゴリは追い出せたし、サッカー部来ないか?
目端が利く辺り、ボランチで活躍できると思うんだが」
「悪いが、まだバイトをやめるつもりはないんだ」
「ならば我がゲーム同好会に!」
「体力関係ねぇだろ」
「チッチッチ。それがそうとも限らないと分かったのだよ。
音ゲー以外にもクリアまで寝ない配信とかだと非常に体力が……」
「それじゃ入部テストやるか。スマホあるか?」
「ジェスチャーが折る動き! ジェスチャーがバキってやる動き!」
ミスターは多分他に回るだろうけど、こいつらとの会話は楽しい。
話題が出来たという意味では、出てよかったな。
「おいおい、あんなヌルいパフォで何ヘラヘラしてんだー?」
……そんな小さな幸せを噛み締めていたんだが。
わざわざ割り込んで来るか、この男は。
「やっぱり俺が出るべきだったな。あーあ、焼肉がパーだ」
「そうだろうな。だが、お前が出てミスターになれる保証はない」
「ハァ? 俺なら満票でミスター連覇だろ。
お前みたいな地味な奴とは違うの。分・か・れ・よ」
「自意識過剰。だとしたらパフォーマンスはどうするんだ?
確か、去年は歌だったけど」
「何でもいいだろ。俺なら歌でもダンスでも大歓声だ」
去年の歌が大歓声だったのは、一応は事実。ただ、別に上手くはなかった。
音程はそこそこ取れてたけど、高音はかなり苦しそうだったし。
歌ったのが中高生に人気のある曲だったということに加えて、
このルックスがあったから票が集まったんだろうけど。
「あの歌が大歓声のレベルとは思えんな。音痴とまでは言わんが」
「はいはい、言ってろ言ってろ。大体なんでお前が10位とか……」
「いや、音痴ってことでいいと思う。去年の歌は酷かったぞ」
「ハァ!?」
「俺もそう思う。カグの数少ない弱点かと思ったわ。
今は弱点どころか、汚点がめっちゃくちゃあると知ってるが」
「おい、何言ってんだお前ら!? 怜二、お前何吹き込んだ!?
こんなことまでしてとか……」
「怜二は何もしてねぇよ。純粋にお前が嫌いなだけ。
プールの件を忘れたとは言わせねぇぞ?」
「秀雅!? テメェ、ブサイクの癖して!」
「おうよ、俺様はブサメンの東秀雅じゃ! 顔は汚くても心は錦!
ゲームとダチを愛する男じゃ!」
「この野郎……!」
「もういい。煽りに来ただけなら帰れ」
「あーあー、言われなくても! バーカ!」
小学生みたいな罵声を最後に、元の席へと戻っていく透。
もう、周りに任せっぱなしにはならない。
最低でも、最初に言い返すのは俺でなければな。